働きやすいプロジェクト環境のために
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〜『ダイバーシティ & インクルージョン』を推進しよう〜

とりかぶと(ペンネーム) [プロフィール] :4月号

 皆さんの職場はどんな職場でしょうか?居心地はいいですか?
 職場の居心地がよければ、仕事に対するモティベーションも上がりますよね。そしてプロジェクトとプロジェクトに参加しているメンバーのために、自然に貢献したくなるってものです。今回は、そうした「居心地が良い職場」を作るための前提条件である、「ダイバーシティ」についてお話をします。

  「ダイバーシティ」ってなに?

 いわゆる「ダイバーシティ」とは、正確には「ダイバーシティ&インクルージョン」のことを言います。「多様性の受容」と呼ばれるときもあります。もしその言葉によって思い描くものが違うと、今回の話の展開上、困りますので、意味を定義してみましょう。

【ダイバーシティ(Diversity)】
人種、国籍、性別など、人に付いてまわる「様々な属性(Property)」のこと
【インクルージョン(Inclusion)】
誰もが組織や社会に貢献できること
【ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion)】
違う「属性」を持つ人のそれぞれが貢献できる、「居心地がよい」組織や社会を作っていくこと

 「な〜んだ、あたりまえじゃん」と言ったらそのとおり。でも、言葉がシンプルで解りやすいだけに、簡単に実現できると「誤解されやすい」言葉でもあるんです。

 「ダイバーシティ」の「インクルージョン」ができないということ

 では、「ダイバーシティ & インクルージョン」でいうところの「属性」にはどういうものがあるのでしょうか?
−人種・国籍・性別・・・もちろん!
−宗教・障害の有無・性的嗜好・・・あたりまえ!
−年齢・職業・健康状態・・・当然!
−職歴・職制・年収・・・まだまだ!
−容姿・能力・性格・身長・体重・血液型・星座・住所・家族構成・資格・学歴・・・

 要するに、人を「区別する軸」となるものすべてが属性です。属性はたくさんあり、普段から無意識に接していると言えます。
 ほとんどの場合、自分と周りの人の属性が多少違っても気にならないものです。もし、あなたが嫌だと感じる属性を持つ人が近くに居て、しかも毎日接しなければならなくなったら、どうなるでしょうか?
 問題はそういうときに起こります。事例をみてみましょう。ここは、とあるソフト開発会社のオフィスです。
リーダのAさんと部下のBさんは、お互いに折り合いが悪いようです。
リーダAさんの心の中――『Bさんは私の話を聞かない。いつも不服そうな顔をして・・・ああムカつく!』
部下Bさんの心の中――『Aさんは横暴だ!なんでいつも怒鳴るんだろう?普通に言ってくれれば良いのに・・・』
ある日のこと。Bさんのささいなミスで開発中のソフトにバグ(障害)が発生したことをきっかけとして、お互いの不満が爆発します。
Aさん「Bさんはいつも人の話を聞かないからだ!第一『好きなことだけやろう』なんて考えが甘いんだよっ!」
Bさん「Aさんこそっ!今さら『体育会系』なんて誰もついていきませんよっ!」
あらあら。こうなるとチームの雰囲気は最悪ですね〜。
たまらずサブリーダのCさんが入ってきました。
Cさん「ヤ・メ・ナ・サーイッ!ケンカしてもバグはなくならないでしょ!だいたい、話を聞かないから甘いとか、大声だから横暴だとか、自分に都合のいい主張ばっかりで器がちっちゃいね!」
Aさん & Bさん「(申し訳なさそうに)スミマセン・・・。」

 AさんもBさんも、お互いに受け入れられない部分を素直に言い合えれば良かったんですけどねぇ・・・。どんな人でも、物事の考え方は「心のありよう」に影響されるもの。でも、「心のありよう」からくる考え方の「偏り」というのは、相手が自分の「心」だけに、ひとりではなかなか気づくことができないというのも事実なのです。

 それは「誰」に言っているの?

 このように、自分の心や考え方のことは、自分だけではなかなか気づけないのです。でも、長年の友人や訓練を受けているコーチなど、「信頼できる他人」から率直に指摘してもらうことができれば、早くこれらのことに気づき、より良い方向に直すことができます。また普段から自分が「誰を/何をどう見ているか」を分析する習慣があれば、自分自身で自分の考え方の偏りに気づけるようになります。
 先ほどのオフィスの会話で、彼らのモノの見方を見ていきましょう。
・ Aさん:「好きなことだけをする」人は「甘い」と見ている
・ Bさん:「体育会系」の人には「誰もついていかない」と見ている

 一見、それぞれに一理あるように見えます。でももし自分が暗に感じている「嫌なこと」を正当化するために、これらのことを都合よく解釈して使っているならば、自分の見方が偏っていることになります。
 ちょっとここで、Aさん、Bさんのそれぞれの発言に、主語と述語を入れて文を正確にしてみましょう。
・ Aさん「あなたは、『好きなことだけやる人』で、そんな人は『考えが甘い』です」
・ Bさん「あなたは、『体育会系の人』で、そんな人には『誰もついてこない』です」
 それぞれ刺激的な表現ですが、よく見ると、Aさん、Bさんとも、つぎのような言い方になっていることが判ります。
 ふたりとも文の前半で、相手が「ある属性」を持つと(あなたなりに)考えた「グループ」に属していると指摘しています。そして後半では、前半で指摘した「グループ」に対する自分の見方を主張しています。
 自分がグループに対して言うパターンに陥っていることに気づけば、自分が正当化しようとしている「偏った見方」つまり、偏見を知る手がかりが得られます。
・ Aさんの場合:
「Bさんが話を聞かない」(=「不服そうな顔」から感じていること)という見方を正当化するために、「『好きなことだけをする』人は『甘い』」という見方を使っている
・ Bさんの場合:
「Aさんが横暴だ」(=「怒鳴っているような大声」から感じていること)という見方を正当化するために、「『体育会系』の人には『誰もついていかない』」という見方を使っている
 相手に言わずに、グループに対して言っている。・・・ここが気づくポイントになります。そこに気づけば、その裏に相手への見方を正当化するためにグループを利用していることに気づくことができます。

 嫌な感情の克服とちょっとの勇気

 「ダイバーシティ & インクルージョン」の実現には、偏見の元になる、それぞれの心の中にある「嫌な感情」を克服していくことが重要です。それには「嫌な感情」のもとになっている、「受け入れられない属性」と対峙しなければなりません。
「嫌な感情」の元ですから、対峙するにはちょっとの勇気が必要なんですけれどもね。
 さて、Bさん事件の半年後のある日のこと。とあるソフト会社の近くの居酒屋での会話。
Aさん「めでたく、わが社の○×システムが本運用となりまして、顧客からのフィードバックも上々!ままっ、堅い話は抜きにして、乾杯!」
全員「かんぱ〜い!」
―――和やかな雰囲気で会が始まる―――
Aさん「みんな!飲みながら聞いてくれ。最後の最後まで踏ん張ってくれたB君には、本当に感謝している!文句なしのMVPだ!おめでとう!ほら、これは記念品だ!」
Bさん「あ、ありがとうございま〜す!・・・って、よく見るとバグ票っすか?」
(メンバーから笑い声が)
Aさん「なんといってもキッカケになったからな〜(笑)ちっちゃい器からの脱出、第一歩だもんな〜。」
Cさん「忘れないでしょ!(笑)」
Aさん「そしてサブリーダを務めてくれたCさんは、今までの頑張りが認められて、このたび隣の課でリーダとして活躍することになった。おめでとう!」
Cさん「みんな今までありがとう!新米リーダになりますが、これからもヨロシクね!」
Bさん「カミナリがなくなるのは『若干』寂しいですっ。グスッ(嘘泣き)」
Cさん「『若干』って何よ!」
Aさん「おっ!早速カミナリか?」
全員 「はははは〜」

 Aさん、Bさんとも、互いの「受け入れられない属性」を、「受け入れるうまい方法」を見つけられたようですね。これならCさんがいなくなっても大丈夫でしょう。

 さて、次はあなたの番です。勇気を出して、世の中の見方を変えていきましょう。
 きっと見えなかった、豊かな「何か」が見えてくるのですから。

 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「ねぇねぇ、もくちゃんって、意外とアウトドアだよね?アニメ好きって言ってたのに。」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「ん?ちょっとぉ、アニメ好き=インドアって決めつけてない?外でバーベキューしたり、スポーツしたり、色んなことするよ。」
は:「あ、そうかも。アニメ好き=オタク=インドア、みたいに思ってるかも。」
も:「ひとつの思い込みだよねー。とりかぶとさんによれば、思い込みは誰でも持っているんだって。そして、自分が受け入れられないことを正当化するために、グループへの思い込みを当てはめるのが偏見なんだって。」
は:「正当化かぁ・・・知らず知らずに陥ってること、多いかもね。」
も:「荷物をもってくれない男性に“気が利かない”と怒ったり・・・」
は:「決断しない上司に、“仕事ができない”とイライラしたり・・・笑」
も:「きたきた。笑。それは役割を果たしてないんやし、イライラするのはアリじゃない?」
は:「そうかも。ダイバーシティをインクルージョンするのって難しいけど、自分の偏りには気をつけていたいよね」
も:「うん、そうやね。人は一つの属性だけで決めつけられへんからね。」
は:「それにしてもダイバーシティをインクルージョンするって、なかなかすごい言い方だよね。エクセレントなソリューションをデプロイする、みたいなさ!」
も:「おおっと、はなちゃんも、だんだん何かに毒されてきたね!笑」


 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年にわたり、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けて下さい」と「華やかな恋」。当コラムの編集チームの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。本業ではIT企業の人材育成企画と並行してPMOを担当。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
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第30回目2009年2月号  〜プロジェクト現場における「親」たるべし〜(金木犀)
第29回目2009年1月号  〜群群力(ぐんぐんりょく)アップのすすめ〜(行者大蒜)
第28回目2008年12月号  〜リーダーとしての行動の原点〜(糸瓜)
第27回目2008年11月号  〜働きやすい環境を実現するためにPSができること〜(松ぼっくり)
第26回目2008年10月号  〜途中参入者が教えて欲しいこと〜(木犀草)
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第16回目2007年12月号  〜「言ったつもり」の落とし穴〜(木犀草)
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第14回目2007年10月号  〜リラクセーションを試してみませんか〜(百日紅)
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