働きやすいプロジェクト環境のために
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〜プロジェクト現場における「親」たるべし〜

金木犀(ペンネーム):2月号

 働きやすいプロジェクト環境を模索しているのは、どこの現場でも同じだと思います。人はそれぞれいろいろな考えを持っているため、人によって働きやすい環境は異なり、人と人が集まれば様々な問題が発生します。
 これまで私はプロジェクトマネージャとして働きやすい現場を実現するために、いろいろな試みを行い、今なお模索しています。今回は、私がこれまでに得た最大の教訓を紹介したいと思います。

  プロジェクト現場の問題と対応

 プロジェクト現場で遭遇する代表的な問題は、「人」、「金」、「物」にまつわるものが多いです。私が経験してきたプロジェクトでも、いつもこれらに関する問題が起きていました。「金」と「物」の問題に関しては、ある程度管理を徹底するなどの対応で整理できました。でも、「人」の問題は知識だけでは対応できず、頭を悩ませることが多いです。
 私の場合は、これまでに「人」の問題に対しては、アンケートなどで改善要望を聞き、対応してきました。要望の多くは、職場が暑いだの寒いだの、冷蔵庫や電子レンジがほしいなどの外部環境を改善してほしいという要望でしたが、中にはメンバー同士の軋轢という根深い問題もありました。
 物を手配すればすむ話と違って、メンバー間の問題は解決が難しかったです。具体的には、朝夕の挨拶もなく心寒い環境になる、隣の人が何をやっているのか見えないなど。納期間近で問題が発生し、イライラした空気が流れて些細なことで口論が発生するという最悪なこともありました。解決のために、当事者同士の話合いの場を設定したり、時には私がボケ役となって仲介したこともあります。様々な問題に遭遇してきたお陰で、私自身、多くの事を学ぶ事もできました。振り返ってみるとすべて、私の教訓としていかせるものだと思っています。

 働きやすいプロジェクト環境のための教訓

 これまでの経験から得たことを、マズローの欲求段階説になぞらえ、私の教訓としてまとめてみます。

教訓:“親”みたいな役割の人がプロジェクトには必要である。(愛・所属の欲求)

 私は、リーダは「親のような存在であれ」と思っています。単に上司として管理する存在ではなく、親のような視点でメンバーを気にかける。これは、人が本来持っている「必要とされたい、どこかに所属していたいという欲求」、すなわち「愛・所属の欲求」を満たすことだと思います。人は欲求が満たされたときに、幸福感や満足感を得ることができるからです。
 少し前の日本では、終身雇用が当たり前で、会社は家族のような雰囲気でした。社内には必ず自分のことを気にかけてくれる親兄弟のような立場の人がいて、仕事以外のことでも、問題を共有したり解決策を教えてくれたりしました。
 しかし、現在の組織では、メンバーとの関係が希薄になっています。効率化やスピードが強くもとめられます。プロジェクト単位でメンバーが集められるため、仕事の上で他人に自分の内面に踏み入られることを望まない人も多いです。近年のシステムの複雑化、短納期化のせいで、メンバーそれぞれが集団よりも「個の単位」で考える環境が強まっているように思います。結果として、周囲への無関心が発生し、さらに人間関係を希薄にしていると感じています。
 私の教訓は、親のような人が現場に居てくれたら、メンバーの所属に対する欲求は満たされ、プロジェクトの一員として安心して仕事に打ち込めるはず、という思いからきています。

 「親」的役割とは

 具体的に、「親のような存在」については、こう解釈しています。親は子供に対して見返りを求めず、愛情を与え続けます。子供が言ってくる戯言もいったんは受け入れ、善悪を判断させます。一般に、親は子供を育てながら、実は親として子供に育てられるといわれます。そんな心情を意識しながらメンバーと接していくと、メンバーを通して自分もプロジェクトマネージャとして成長する実感を持てます。
 つまり、親が家族という組織の運営を切り盛りし子供の成長を願うように、プロジェクトマネージャがメンバーを日々正しい方向に導きながら成長させれば、結果的に自分もプロジェクトマネージャとして器が大きくなるということです。
 もちろん、親は子供を甘やかすだけではありません。やってはいけないことをしたときは、叱ることも重要です。昨今はうまく叱れない上司が増えているといいますが、相手のことを思い、愛情を持って叱れば、その気持ちは子供(メンバー)に伝わるのではないでしょうか。
 所属と愛の欲求以外にも、メンバー側から見た欲求の充足について、以下のような私なりの教訓にまとめることができます。これらに関しても、家族や親子のモデルを使って説明できますが、誌面の関係上今回は省略します。メンバーがプロジェクト現場にもとめる欲求に、リーダが親のように応えることが働きやすいプロジェクト環境をつくることの一助になるとみていただければ幸いです。
 教訓:未来/先見性を感じられることをやる。そして成果が認められる。(力の欲求)
 教訓:“管理”は人に合わせて柔軟に行う。(自由の欲求)
 教訓:成長できる仕事をさせる。(楽しみの欲求)
 教訓:生きていきプライベート活動をするに最低限のお給金を出す。(生存の欲求)

 最後に

 ありきたりになってしまいますが、働きやすい環境のため、メンバーを育てる視点をもちつつ、プロジェクトマネージャの日々の地道な努力に尽きると私は思います。勉強会でも飲み会でも、一つ一つは当たり前だけれど、メンバーがやりたいと思ったことを、好きなように実行させる。そして、それができる環境を構築・維持するために阻害要因、否定要因を取り除く。これが親たるリーダの仕事ではないかと思います。皆さんの現場ではいかがですか?


 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」):「あぁ、もう〜。このメール頭にくる!まったくもぅ。イライラすると、なぜかおなかが減るのよねっ。あー、おなかすいた。もくちゃん、お菓子買いにいかない?」
木犀草(もくせいそう、以下「も」):「いいねぇ。その前に、はい、ミルクティーどうぞ!」
は:「わ、ありがと。ふぅーーーーっ、ほっこりするねぇ。」
も:「お茶を飲んで一息つくと、気分も変わったんとちゃう?」
は:「そうだね、さっきはイライラしちゃったけど、ちょっと落ち着いたわ。一息って大事だね。深呼吸にもなるし。」
も:「時間の無いときに限って、『ナンジャこれ?!怒』みたいなことが起こるし、それで余計にイライラしちゃったりね。」
は:「そうそう。時間に追われてると、何でもないことでもキーキーしちゃったりね。」
も:「今回の金木犀さんみたいに、親の視点を持つなら、自分にも余裕が必要やね。」
は:「そうだねー。自分に余裕がないと、相手のことまで考えることできないもんね。」
も:「叱ってるつもりが怒ってる自分に気づいて、あー、余裕が足りへんかったって反省したり。」
は:「そういう気づきが自分の成長に繋がっていくんだろうね。気づく時間を持つようにしなくちゃね。」
も:「仕事が忙しくても、一息つく余裕をつくるとかね。で、お菓子だっけ!?あたし、チョコが食べたいなー!」
は:「そうそう!2月はバレンタインだもの!心に余裕、体に一息、脳には糖分だよ♪」


 筆者:金木犀(ペンネーム)
PS研究会メンバー。富山に本社があるIT企業に所属、社内にて技術推進を担当しながら改善推進活動と教育に責任を持ち、「人こそが品質を作る」を理念に日々活動しています。
 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けてください」と「華やかな恋」。当コラムの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。業務では人材育成企画と並行してPMOで現場を走り回ってます。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
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