働きやすいプロジェクト環境のために
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〜選手が本気で話しを聞くコーチ
〜スポーツから学ぶプロジェクトマネジメント〜

万両(ペンネーム):3月号

 メンバーを動かすアドバイスや叱り方ができるプロジェクトマネジャに、必要な資質は何でしょう?先日、私が息子の少年野球を応援しているときに発見した「おじさん監督」の、かっこいい指導者の姿から考えてみました。

  息子は私のアドバイスには耳を貸さない

 我が家の次男は現在中学生です。小学校4年生から野球を続け、背番号1をつけてピッチャーとしてマウンドでがんばっています。親バカですが、格好いい息子だと思います。 ところが、この息子、野球に関する私のアドバイスをほとんど聞きません。たとえば私が、彼のバッティングについて、「もっと右足に体重を残したほうがいい」とか「もっとひじを締めて腕を伸ばしたほうがいい」と言っても、聞き入れません。私は、野球で大会に出たことがないので、実戦経験のない私が話す野球のアドバイスは、彼には全く響かないようです。「やったこと、ないくせに」と言い返されるだけです。経験のない人間が、どんなに知識ベースだけで話しをしても、人を動かすことはできないんでしょうね。理屈だけでこうすればいいといっても、今、できないことはできないんです。「間違えるな、なぜできないんだ。」は素人の言うことのようです。

 優秀なコーチとは

 優秀なコーチは、その人の心の状況や身体の状況、まわりの状況を考えて、まさに今のその人の能力に応じたアドバイスや叱りができるのだと思います。それはコーチ自身が、選手としての考えや行動、失敗体験・成功体験を持っているので、人を動かすことができるのでしょう。
 息子は、小学5年生から真剣勝負の大会でマウンドにたっています。チームの勝敗がかかったマウンドで、相手の三振で勝利を決めた経験も、バックに守ってもらった勝利の経験も、バックのエラーで負けた経験も、自分のフォアボールで負けた経験もしています。彼は、野球を離れるとまだまだ子供で、私を超えているとは感じません。しかし、このマウンド経験はちがいます。彼が今は意識できなくても、これから生きていくうえで、この経験がかけがえのない宝物になるでしょうね。
 彼も、本物のピッチャー経験のある先輩やコーチの話は、真剣に聞きます。本物かどうかは話を聞けばすぐかるようです。真剣に話を聞いているときは、話をしてくれる人への尊敬の眼差し、その目の輝き、真っ直ぐ伸びた背中、真剣さが伝わってきます。
 「あー、これが本当の学びの態度なんだな」と思いました。見ていて気持ちいいです。スーと真っ直ぐに、多くのことが脳にはいっていくんだろうな。どんどん強くなって行くんだろうな。

 尊敬するK監督の言葉の中身

 先日、息子が小学生の時の監督Kさんが、中学になった息子の試合を見にきてくれました。Kさんが息子に話してくれた言葉です。息子は楽しそうに真剣に聞いていました。
 K監督の話はこんな調子でした。
 「前回見たときよりいい。気持ちに余裕があって楽しそうにしている。いい球がきてる。フォアボールを怖がらずに、直球を投げ込めばいい。今は変化球にはあまりこだわらなくてもいい、投げ方は高校になれば教えてくれる。」
「投げた後の右足が気になる。投げた後、右足が一塁側にクロスする。もっと左足でがまんして前へ投げ込んで、右足が跳ね上がるといい。」
「楽しんでやるのが一番だ。野球が好きなんだろう。打たれたって、フォアボールだって楽しんでやること。青空の下にユニフォームで出て行くことは気持ちいいだろう。試合に出てプレーできることを楽しむこと。」

 監督の言葉を分析すると、ほめて、安心させ、未来の夢を与え、技術的に適格なアドバイスをし、今何が一番大切か、どんな気持ちで野球をすれば楽しいかを選手の今の視線で言っています。選手の気持ちが前に向かっていきます。
 私は、K監督の言葉に、「大きく育て」という愛情を感じました。選手の個性をよく見ていることと、その技術の高さを感じました。K監督ご自身の経験を通して発せられた言葉だけに、言葉に具体性と経験の重みがあります。深い経験のある人が若い人に語るとき、ともすれば経験談の自慢や押し付けになりがちですが、K監督は経験を押し付けるのではなく、選手の気持ちがどう動くかを考えて意欲を刺激する言葉を選んでいることを尊敬します。

 あなたの職場はどうですか?

 あなたの職場・プロジェクトでは、メンバーは素直に本気で指導者、上司の話を聞いているでしょうか?指導者や上司は、本気でメンバーを育てたいと思い、話を聞いてもらえるように頭をつかい、時間とタイミングを計っているでしょうか?
 いざ実行すると難しいかもしれません。私の職場やプロジェクトでも、私自身を含めて、改善するべき育成場面はたくさんあります。職場で本当にこんな難しそうなことできるのかなと、私自身、ドキドキしてしまいます。俺ってどうだろう?できるかな?でも、少年野球の優れた指導者が、目の前に事実を見せてくれます。K監督にもできるじゃないか、と私は自分に言い聞かせます。
 ITプロジェクトの実戦経験では、私も年数は負けてはいません。よーく考えて、時間を使って、メンバーを愛して、でも媚びずに私の思いを短く言うようにします。辛いプロジェクトにあっても、私はよくK監督のことを思い出し、メンバーの気持ちがどう動くか、言葉を選んでアドバイスするようにしています。ほめて、安心させて、未来の夢を与えて、技術的なアドバイスをします。今このメンバーにとって何が一番大切か、どんな気持ちで行動すれば楽しいかをメンバーの目線で言えるよう頭を絞ります。

 さあ今日から、あなたも行動しましょう

 メンバーの目線で話をするためには、その時点のメンバーの個性、心の状況、体の状況、周りの状況をよく見る必要があります。私がメンバーと同じ状況の時に、何を考え、行動し、失敗した経験、成功した経験を思い出しながら、その時の目線で話をします。メンバーに「大きく育て」と愛情を持ちます。
 メンバーのうち、例え一人でも本気で話を聞いてくれたら、それでヨシと思います。失敗してもごめんなさいです。上司も未熟なんです。それでいいじゃないですか。たくさんやってPDCAを数多くまわせば上手くなるんですから。(皆さんも上司に愛情を持ってくださいね!)怖がって何もしないと、シラーとした、声のない利害関係だけの職場ができちゃいます。
 さっそく私も指導の練習をする実験台を探そう。いや、愛情を持って、指導する相手に声をかけよう。声をかけたら、「今、忙しいです。」なんて言わずに、素直に聞いてくれる上司に愛情があるのは彼かな?昼飯ぐらいおごっちゃおうかな・・・。


 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「ちょっと見てよー、また誤字があるよ。」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「あ、若手に頼んだ原稿ね。誤字のチェック甘いよね。」
は:「口を酸っぱくして注意しても直んないんだよね。」
も:「あたしも昔は誤字が多いってよく注意されたっけ。」
は:「そうなの?今は気にならないよ。どうやって誤字が減るようになったの?」
も:「早く提出しなきゃ、って焦ってたんだよね。でも、先輩に、“焦って早く出そうとするな。まず正確に!”って言われて、自己チェックの時間を計画に入れるようになって減ったかな。」
は:「そっか、えらいねぇ。じゃあ、この子も、もしかしたらすごく焦ってるのかもしれないね?自己チェックの時間を取ってるか聞いてみるよ。」
も:「そうだねー。花水木ちゃんの誤字をなくす工夫も紹介したらいいかもね?」
は:「そうね、やってみるね。文句言ってるだけじゃ、お互いに成長しないもんね。」
も:「花水木ちゃんになら叱られたい!って人、たくさん知ってるけどね!笑」
は:「もう!茶化さないでよー!笑 締め切り間際なら、いくらでも叱ってあげるわよ。」
も:「おーっと、やぶ蛇、やぶ蛇。笑」


 著者:万両(まんりょう:ペンネーム)
PS研究会メンバー。ITプロジェクトのPMを多数経験。実際に経験した失敗プロジェクトの原因は、技術的な問題ではなく人間関係や人の意欲の問題だということを痛感。チームモチベーションの向上で、社員満足、顧客満足、会社満足を実現するプロジェクト成功を目指したい。
 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けてください」と「華やかな恋」。当コラムの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
 バックナンバー
第1回目2006年9月号  〜このコーナーのご紹介〜(花水木)
第2回目2006年10月号  〜ソフトウェア技術者が働きやすい作業場所とは?〜(楠木)
第3回目2006年11月号  〜プロジェクトチームにおける新人の居場所〜(菜の花)
第4回目2006年12月号  〜挨拶は“安全な仲間”のシルシ〜(木犀草)
第5回目2007年1月号  〜うまくほめて正しく叱る〜(花水木)
第6回目2007年2月号  〜私にとっての働きやすさとは〜(杉の木)
第7回目2007年3月号  〜笑顔の効力〜(銀杏)
第8回目2007年4月号  〜モティベーションをコントロールしよう〜(向日葵)
第9回目2007年5月号  〜人を動かす物語、心に宿る物語〜(孔雀草)
第10回目2007年6月号  〜デトックスしませんか〜(木犀草)
第11回目2007年7月号  〜ビジョンとメンバーの関係は?〜(楠木)
第12回目2007年8月号  〜寝て見る夢、起きて見る夢〜(杉の木)
第13回目2007年9月号  〜「へぇ〜!」から始めるチームづくり〜(ねこやなぎ)
第14回目2007年10月号  〜リラクセーションを試してみませんか〜(百日紅)
第15回目2007年11月号  〜プロジェクトマネージャができること〜(松ぼっくり)
第16回目2007年12月号  〜「言ったつもり」の落とし穴〜(木犀草)
第17回目2008年1月号  〜「聞いてるつもり」の落とし穴〜(花水木)
第18回目2008年2月号  〜他人と関わる「勇気」〜(扁桃)
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