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〜「言ったつもり」の落とし穴〜

木犀草(ペンネーム):12月号

 企業の新卒採用担当者が、学生に求める一番のスキルは、コミュニケーションスキルだそうです。簡単そうでいて、実は、簡単に身につかないのがコミュニケーションスキル。実際、職場でも、「言ったよね?」、「聞いてませんよ」という会話を耳にすることがあります。今回は、コミュニケーションの仕組みについて考えてみます。

  空気をよむ

 学生の間で流行っている略語に「KY」というのがあります。ご存知でしょうか?これは「空気(K)を読め(Y)」または、「空気(K)を読めない(Y)ヤツ」を表現するときに使うそうです。KYな人は、付き合いづらい、と思われるようです。
 学生に限らず、私たちは、知らず知らずのうちに、場の空気を読むことを重要視しています。仲間が会話している場面に途中から加わるときに、いきなり話しだすのではなく、少しの間、場の空気を読もうとしませんか?逆に、空気を読めない人が突然会話に加わると、それまでの会話の流れを変えてしまったり、場を白けさせてしまったりすることがありませんか?コミュニケーションするときに、意外と重要なこの「場の空気」とは何なのでしょうか?
 例えば、こんな二人の会話をイメージしてください。
 女性「xxくんなんか、もうキライ!」
 男性「ごめん」
 どんなシチュエーションをイメージしましたか?女性が涙ぐみながら怒っていて、男性が必死に謝っているところ?それとも、二人とも悪戯っぽく笑いながら言いあっているところでしょうか。同じ言葉を使っていても、背景(=場の空気)によって言葉が伝えるニュアンスや“意味”が変わってくることに気づいたでしょうか。
 私たちは、知ってか知らずか、コミュニケーションするときに色々と考えています。コミュニケーションの仕組みについて、もう少し詳しくみてみましょう。

 コミュニケーションの構造

 ちょっと難しい話をすれば、コミュニケーションを構成する3大要素は、「コンテキスト」と「スキーマ」と「メッセージ」といわれています。図にあるように、「コンテキスト」はコミュニケーションの背景、つまり「場の空気」です。何か伝えたいことを持つ側(送信側)は、伝えたいことを自分のスキーマ(一連の知識の塊)を使って、メッセージにします。メッセージは、直接の会話や電話、メールなどのチャネルを通して、受信側(相手)に届きます。受信側は、自分のスキーマを使って、メッセージの意味を解釈しようとします。この解釈の際、どのスキーマを使うのが最適かを判断するのに、コンテキストを使います。もし、受信者の解釈が間違っていたり、受信者が新しい解釈を得た場合は、新しいスキーマとして蓄積されます。明確な言葉をメッセージとして使う場合もあるし、態度でメッセージを示す場合もあります。どんな方法のメッセージを使うにせよ、このやり取りの繰り返しがコミュニケーションなのです。

「プロジェクト・コミュニケーションの認知科学的理解」

 例えば、家族の夕食の食卓で焼き魚を食べているとき、誰かが「あれ取って」と言い、他の誰かが醤油を手渡したとします。この場合、コンテキストは、“夕食の食卓”で、その場にいる人は “あれといえば醤油” という共通のスキーマを持っていることになります。一方、これが朝食の食卓に場面が変わると、“あれといえば朝刊”になるかもしれません。たとえスキーマは共有できていても、コンテキストの認識が異なると、「あれって言っただろ!」「あれじゃ分からないよ!」と喧嘩になってしまいます。コンテキストが変わると、おなじ「あれ」でも意味が変わってくるのです。
 全ての人のスキーマが同じであれば、メッセージの理解は簡単ですが、現実は、そうはいきません。スキーマは人が経験を通して蓄積していくものなので、人によって異なるからです。しかし、コンテキストが共有されていると、送信側と受信側で似ているスキーマを選択しやすくなります。一方、お互いのコンテキストが共有できていなかったり、送信側のコンテキストが分かりづらかったりすると、受信側にとってスキーマの選択は難しくなます。結果、伝えたいことが伝わりづらくなります。お互いに相手のコンテキストを理解しようとすればするほど、スキーマの解釈は円滑にいき、コミュニケーションがスムーズになります。つまりコンテキストはコミュニケーションの土台といえます。
 インターネットの掲示板や、ブログのコメントなどで、コミュニケーションが行き違って喧嘩に発展するのは、コンテキストが噛み合っていない中で、文字という限られた表現方法を使うので、双方のスキーマの確認が十分できないことが原因の場合が多いのです。

 プロジェクトのコンテキスト

 さて、私たちの職場では、コンテキストは共有できているでしょうか?リーダが陥りがちな「分かっているつもり」の落とし穴は、身近なところにあります。リーダが「言わずもがな」だと思って共有できているつもりのコンテキストが、まったくメンバーに伝わっておらず、メンバーはメンバーで「リーダはこんな時に何でこんなことを言うんだろう?」と思っていたりするケースです。これでは、コミュニケーションがうまくいくはずもありません。
 例えば「会議」という場をどんなコンテキストと捉えるか、参加メンバーで共有できていますか?積極的な意見交換の場だと認識するか、連絡事項の伝達の場だと認識するかで、行動は変わってきます。まずは、場面設定をしっかりする(=コンテキストを共有する)ことが大切なのです。
 さて、プロジェクトの現場でもっとも大切なコンテキストは何でしょうか。プロジェクトが目指す目標、ゴールではないでしょうか。そして、現状の認識ではないでしょうか。ゴールと現状認識が共有できていないばかりに、成果物の品質がそろっていなかったり、締め切りに対する姿勢に差が出たりしていませんか。もしも、「なぜ、俺の言ってることが伝わらないんだ」と感じるのならば、自分と相手のコンテキストが合っているか確認してください。その上で、コンテキストがずれていたなら、合わせるところからコミュニケーションを始めてみましょう。
 自分のコンテキストだけで一方通行のコミュニケーションをして「言ったつもり」になっていませんか。相手がどんなコンテキストを持っているのか知ろうとすること、つまり空気を読むこと。コミュニケーションの土台をあわせることから円滑なコミュニケーションは始まるのです。


 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「ねぇ、ねぇ、この前のアレさ、どうなったんだっけ?」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「あぁ、アレ?松ぼっくりさんがまかせろって言ってたよ」
は:「えー?ホントに?松ぼっくりさんがやるの?」
も:「できるんちゃう?松ぼっくりさんって顔広いしさ、行動力あるからできるって。」
は:「でも、いくら行動力あるっていっても、さすがにメイドの格好するのはキツイでしょ?」
も:「ん?メイド?なんで新年会の司会するのにメイドの格好なの?」
は:「え?新年会?来週のミーティングの司会じゃなくて?カフェ形式でフリーディスカッションしようって言ったじゃない。」
も:「あーーーーっ!それってカフェ形式ってくつろぎながら、ざっくばらんに来年の活動計画を話し合おうってヤツでしょ?なんでメイド?」
は:「カフェ形式ってメイドの格好することかと思っちゃった。びっくりしたよぉ。笑」
も:「やだなぁ、あたしもびっくりよ。笑。」
は:「やっぱ、話の土台をちゃんとあわせるって大事だね。」
も:「ホントに、そうだね。コンテキストの大事さを実感したよ。」
は:「お互いに気をつけようね。」
も:「うん、そうだね。あ、でも、勘違いのまま、松ぼっくりさんのメイドもありだったりしてー!笑」
は:「もう、もくちゃんったら!松ぼっくりさんに怒られるよ!・・・でも見てみたいかも 笑」


 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年にわたり、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けてください」と「華やかな恋」。当コラムの編集チームの編集長。
 著者・編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
 バックナンバー
第1回目2006年9月号  〜このコーナーのご紹介〜(花水木)
第2回目2006年10月号  〜ソフトウェア技術者が働きやすい作業場所とは?〜(楠木)
第3回目2006年11月号  〜プロジェクトチームにおける新人の居場所〜(菜の花)
第4回目2006年12月号  〜挨拶は“安全な仲間”のシルシ〜(木犀草)
第5回目2007年1月号  〜うまくほめて正しく叱る〜(花水木)
第6回目2007年2月号  〜私にとっての働きやすさとは〜(杉の木)
第7回目2007年3月号  〜笑顔の効力〜(銀杏)
第8回目2007年4月号  〜モティベーションをコントロールしよう〜(向日葵)
第9回目2007年5月号  〜人を動かす物語、心に宿る物語〜(孔雀草)
第10回目2007年6月号  〜デトックスしませんか〜(木犀草)
第11回目2007年7月号  〜ビジョンとメンバーの関係は?〜(楠木)
第12回目2007年8月号  〜寝て見る夢、起きて見る夢〜(杉の木)
第13回目2007年9月号  〜「へぇ〜!」から始めるチームづくり〜(ねこやなぎ)
第14回目2007年10月号  〜リラクセーションを試してみませんか〜(百日紅)
第15回目2007年11月号  〜プロジェクトマネージャができること〜(松ぼっくり)
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