働きやすいプロジェクト環境のために
先号   次号

〜リラクセーションを試してみませんか〜

百日紅(ペンネーム):10月号

 近年、社会問題になっている“心の病気”の多くは、仕事が原因と言われています。最初は気分がふさぐだけだったのが、うつ病になり休職に至るケースも増えているようです。今回は、体と心が疲れきってしまう前に、仕事の合間にできるリラックス方法(リラクセーション)についてお話したいと思います。

 そうだ、緊張をほぐそう

 私は長年人事部門に在籍し、採用から退職まで様々な年代のたくさんの社員と関わってきました。その立場上、社員やプロジェクトメンバーから悩みを相談されることが頻繁にありました。
 多忙なプロジェクトメンバーからの相談では、「徹夜で寝ていない」、「残業続きでおかしくなりそう」、「今日、誰とも話してない」等の言葉をよく耳にしました。また、いったん仕事を始めるとオフィスから一歩も出ず、昼食や休憩も机でとるという人もたくさんいました。
 そんな緊張状態が続く中ではストレスも溜まるでしょうし、仕事やプロジェクトの効率も上がらないのではないか?いつか“心の病気”になるのではないか?・・・と心配でした。
 あの手この手を使い、様々な取り組みを行っていたある日、はたと、緊張状態をほぐせばいいのでは?と思ったのです。実際に試してみた取り組みの中で、相談に来てくれたメンバーに一番評判がよかったのが、「適度なリラックス」状態を作ること、つまりリラクセーションの紹介でした。
 リラクセーションとは、適度にリラックスするための取り組み(振る舞い)全般を指します。次の章で、私がプロジェクトメンバーに紹介したリラクセーションについてご説明しましょう。

 まずは一人でリラックス

 そもそも体が緊張していては、心もリラックスできません。リラックスをするために緊張したり疲れたりしては、意味がありません。リラックスは、その人にとって心地良いもの、好きな場所、自分に合った方法で取り組むことが大切です。最初からたくさんのリラクセーションに取り組むのは大変です。最初は少しずつ試してリラクセーションに慣れながら、自分にぴったりする方法を探していきます。
 リラクセーションに少しずつ慣れるには、まず、体の緊張をほぐすための簡単な運動を取り入れます。具体的には、あまり負担を感じずに「日常生活の中で自然とできる運動」を挙げてもらい、気に入ったものを1つ選んで、1日1回実行してもらいました。例えば、「オフィスフロア内を50歩以上歩く」、「トイレに行く」、「飲物を隣のビルまで行って購入する」、「机ではなくオフィスの外で食事をする」などがよく選ばれていました。
 少しずつメンバーの体がほぐれてきたら、次は、心もほぐれるようにリラクセーションの幅を広げます。日ごろ緊張状態にある職場からちょっと離れて、通勤途中や自宅でもできるリラクセーション方法を挙げてもらいました。
 例えば、通勤中は「好きな音楽を聴く」、「興味ある本を読む」、自宅では「ゆっくりお茶を飲む」、「湯船につかる」、「大笑いする」等です。その人自身の気持ちが和む、落ち着く、すっきりするような状況を少しでも作るようアドバイスしました。
 個人によって、費やす時間の差やリラクセーションの中身に違いはあります。それが当然です。自分にとって「気持ちよい」、「リフレッシュできる」、「気分転換」等、その状態を心地よく感じることが一番のリラックスなのです。
 実施したメンバーに感想を聞いたところ、「食欲が出た」、「煮詰まらなくなった」、「視野が拡がった」等の意見があり、悩みの相談も少しずつ減ってきました。日常生活にちょっとした行動を取り入れるだけで、ずいぶん気持ちが変化するのです。

 プロジェクトでリラックス

 会社やプロジェクトによっては、朝礼でのラジオ体操や、お昼の体操、定時後のヨガを導入しているところもあります。しかし、個人によってやる、やらない、の差が出ます。そこで、あるプロジェクトチームに協力してもらい、一定の期間「統合リラクセーション」を実施してもらえないか提案しました。
 「統合リラクセーション」とは、大震災や大規模テロ事件で被災し、被害者となった世界中の多くの人に対して、大変有効であったリラクセーションで、メディアでも多く取り上げられた手法です。これを提唱された小澤康司先生によると、「心に大きなショックを受け、悲しみや悩みから開放できない人にとっては、その問題や出来事と向き合い、悩みを解決するのは大変困難なことで、一番必要なのは心身ともにリラックスすること」だそうです。
 この手法は、すでに効果が確認されているリラクセーション法を有機的に組み合わせ、その相乗効果により、より深いリラックスを簡便に誘導するリラクセーション法です。具体的には、呼吸法や音楽療法など様々なリラクセーションで構成されています。集団で実施するのに適しており、1回5分間程度で簡単にできます。詳しい実施方法は、文部科学省のWEBサイトにも掲載されていますので参照してください。
 実際に私がプロジェクトチームで試してみたところ、その効果は大きく、今まで昼夜を問わず働き続けてきたメンバーには効果てきめんでした。始めて5分間でいびきをかいて寝てしまう人や、ボーッとしたり、だるくなったりする人が続出したのです。実は、この瞬間が交感神経優勢から副交感神経優勢に切り替った「リラックス」状態なのです。
 交換神経は、気持ちが緊張したときや活動しているときに作用しますが、それに対して副交換神経はリラックスや体力を回復させる作用を持ち、免疫力も向上する働きがあるのです。
 統合リラクセーションの後は、「顔色が良くなった」、「趣味がもてるようになった」、「提出期限厳守が実行できるようになった」、「今までにないアイデアがでるようになった」等、嬉しい悲鳴が連続しました。
 最初は皆でリラクセーションをやることが苦手だったメンバーも、回を重ねるごとに楽しみながら取り組み始めました。ひとりひとりが元気になることで、チーム力が向上していることが実感できました。

 心の疲れは早めに取ろう

日々の生活の中で、“体の疲れ”は比較的自覚しやすいものです。また、食べたり、寝たりすることで比較的に回復しやすいのです。しかし、“心の疲れ”を把握するのは難しく、気づくとストレスが溜まって体調まで悪くなっているケースが多いのです。
 毎日少しの時間でよいので、自分が気持ちいいと思える、“あなた流のリラクセーション”で心と体にリラックスを与え、健やかな毎日をお過ごしください。


 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「ワン、ツー、スリー、フォー」
花水木(はなみずき、以下「は」)「もくちゃん、何やってんの?」
も:「ブートキャンプ。ここんとこずっと運動不足だったからリラクセーションしようと思って。」
は:「それって、“適度”な運動ではないんじゃない?笑。あんまりリラックスできてないように見えるよ?」
も:「確かに、く、苦しい・・・ひゃー、無理だ。ギブアップ。」
は:「やっぱり、無理なくできることにしないと続かないし、そもそもリラックスできないね。笑」
も:「百日紅さんの言うとおりやね。自分なりに“気持ちいい”って思うことやらなきゃね。」
は:「そういえば、“体の疲れは頭で感じて作業をやめろと指示だせるけど、頭の疲れは肝心の頭が疲れているからセンサーが働かない”って聞いたことがあるよ。」
も:「なるほど、それって名言だねぇ。頭の疲れを取るには、やっぱり甘いもの?!」
は:「はーい、そのとおり!でね、銀座に新しくできたカフェにケーキ食べに行かない?」
も:「きゃー、すてき。行く!行く!美味しいケーキと紅茶をゆっくり楽しむなんて、最高のリラクセーションやね!」
は:「たまにはダイエットを忘れてリラックスもいいよね。さ、早く出かける用意してね〜。」
も:「はーい!」


 著者:百日紅(ペンネーム:さるすべり)
 PS研究会メンバー。電器メーカ人事部門にて採用・教育・人事業務を経て、退職後は、企業向けチームビルディングやコミュニケーション研修及び研究に携わる。
 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年にわたり、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けてください」と「華やかな恋」。当コラムの編集チームの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
 このコラムについてのフィードバック:  こちらまで、お気軽にお寄せください。感想、コメント、激励、お問い合わせ等、なんでも大歓迎です。
Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
 バックナンバー
第1回目2006年9月号  〜このコーナーのご紹介〜(花水木)
第2回目2006年10月号  〜ソフトウェア技術者が働きやすい作業場所とは?〜(楠木)
第3回目2006年11月号  〜プロジェクトチームにおける新人の居場所〜(菜の花)
第4回目2006年12月号  〜挨拶は“安全な仲間”のシルシ〜(木犀草)
第5回目2007年1月号  〜うまくほめて正しく叱る〜(花水木)
第6回目2007年2月号  〜私にとっての働きやすさとは〜(杉の木)
第7回目2007年3月号  〜笑顔の効力〜(銀杏)
第8回目2007年4月号  〜モティベーションをコントロールしよう〜(向日葵)
第9回目2007年5月号  〜人を動かす物語、心に宿る物語〜(孔雀草)
第10回目2007年6月号  〜デトックスしませんか〜(木犀草)
第11回目2007年7月号  〜ビジョンとメンバーの関係は?〜(楠木)
第12回目2007年8月号  〜寝て見る夢、起きて見る夢〜(杉の木)
第13回目2007年9月号  〜「へぇ〜!」から始めるチームづくり〜(ねこやなぎ)
ページトップに戻る