働きやすいプロジェクト環境のために
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〜ビジョンとメンバーの関係は?〜

楠木:7月号

 チームづくりや組織論でよく議論される内容は、「リーダが”ビジョン”を出し、メンバーを引っ張る」スタイルをとれというものです。ビジョンは、リーダだけが知っていればよいものではありません。リーダだけではチームが動かないのです。チームを動かすには、メンバーひとりひとりの行動が大事です。今回はメンバー側の視点で、「ビジョンに対して、あなたはどういうスタンスですか?」を考えてみたいと思います。

 ビジョンを「理解する努力」をする

 「ビジョン」という言葉を出しましたが、これは一言でいうと『その組織が到達しようとする将来像を具体的に言葉で表現したもの(日本IBMのホームページより)』と考えています。例えば、私が所属する品質管理部門でしたら、「現場に役に立つ(品質管理の)仕事をする」「現場の技術者を助ける」「ボトムアップの意見を大事にする」というようなビジョンを持っていました。プロジェクト型のお仕事では「プロジェクトを成功させる」というのはもちろんビジョンの一部ですが、ここでは「どうやってプロジェクトを成功させるか」ということに近い話題を取り上げます。
 さて、本題です。新しいチームに入った時や、リーダが変わった時、そのリーダのビジョンにどう向き合いますか?共感、賛同できますか?できなかった時にどうしますか?リーダにビジョンがなかったら、どうしますか?という話です。
 新しいリーダに変わったとき、メンバーがリーダのビジョンをきちんと理解することが重要です。リーダに聞いてみましょう。「どういうスタンスで進めますか?」「なぜそのような作業が必要なのですか?」「何を目的にCMMIをするのですか?」「なぜその標準化が必要なのですか?それがないとどうなるのですか?」「誰がやれといっているのですか?」などです。まずは聞いてみるという姿勢が大事です。
 「うちのリーダには、ビジョンがない」などと言いがちですが、メンバーが納得できていない場合もあるのではないでしょうか?メンバーが未熟だったり、背景の説明が不十分だったり。ビジョンがないと嘆く前に、まずはリーダに尋ねて、その言葉の意味、背景を理解するようにしましょう。その姿勢こそが大事です。
   リーダに尋ねた後は、2通りの場合があります。リーダにビジョンがない場合と、何かそれらしいものがあるという場合です。

 リーダにビジョンがない場合:組織を去る覚悟も

 実は、リーダがビジョンを持っていない状況は、結構多いと思います。「上がやれといっているからやる、海の向こうから降ってきたからやる」ということもあるでしょう。ただ単純に上からの命令を下に落とす、日本軍式の上意下達なサラリーマンタイプの人が多いからです。リーダにビジョンがない場合、if-then式に考えると、さらに2通りが考えられます。つまり、メンバーである自分にビジョンがない場合とある場合です。
 リーダにビジョンがなく自分にもないなら、リーダから出るのを待つか、あるいは、自分が組織を去るかのいずれかでしょう。日常のルーチンワークだけで十分、仕事の進め方にビジョンも何もあったものじゃない、という人は、黙ってお仕事してればいいわけです。今は自分のビジョンがなくても、仕事をやりながら、見出すのもいいと思います。やっていると見えてくることもあります。仕事と並行して学術的な勉強を進めると、自分が理解できることが増え、ビジョンができることがあります(筆者の場合はそうでした)。自分のビジョンを持てるようになると、仕事がいっそう面白くなるかも知れません。
 もう一方は、リーダにビジョンがなく、自分に何かのビジョンがある場合です。自分のビジョンを大声で言えば、みんなに受け入れられやすいような気もしますが、逆にリーダの自尊心を大いに傷つけ、嫌われることもありそうです。リーダの人間性の問題にしがちですが、「上司の器を広げるのも部下の努め」だと考えることもできるかもしれません。様々な手練手管を使って、自分のビジョンを刷り込んだ挙げ句に、「それは貴方のビジョンですよ」って言ってあげられると凄いですねえ・・・。うーむ、書いていて、いやー、そりゃあ難しいわと思いました。私にはできません。

 リーダにビジョンがあった場合:賛成できないけど従うべき?

 ふたつ目は、リーダにビジョンがある場合です。内容はともかく、本人が“これがビジョンだ”というなら、ビジョンがある場合にいれましょう。ここでは、「リーダにビジョンがあり、メンバーがそれに賛成できない」場合を考えてみたいです。「メンバーがリーダのビジョンに共感できない時にどうするか」という問題です。現実問題として、それが仕事だからと盲目的に従わざるを得ないケースが多いと思います。
いろいろな状況を見てきた筆者がお薦めする手順は、以下のとおりです。
 ・まずは従ってみる
 ・その分野について勉強する
 ・いつかは自分の意見を出す、取り入れもらう、ビジョンの小さな改善を一緒に考える
 ・リーダの器に応じて、戦ってみる
 ・ダメなら、チームから異動する
 ・がまんできる期間は何年か?・・3年とか、決めておいてがまんする
 ・リーダと対話する力が必要、自分のコミュニケーション力を向上させておく
 ・ダメと思える時はどんな時か?意識しておく

「ビジョンに賛成できないけど従う」という二律背反な状況において、リーダの熱意、そのビジョンの合理性や妥当性、自分の勘などを駆使して、まずは従おうとすることが現実的だと思います。曲解してでも、なんとか賛成できる部分を見つける努力をする姿勢もいいと思います。そして自分も勉強する。リーダも自分も環境もどんどん変化するので、その変化を意識する。自分の状況を時々棚卸しして、客観的に自分の気持ちを整理する。そんな積み重ねから、リーダのビジョンと自分のビジョンが一体化してくることがあります。そしてメンバー間でそのビジョンを共有できるようになると、強いチームができてくると思います。
逆に、自分がそこの組織から離れる時期を見極めることにもつながります。大事なことは、一時の感情ではなく、中期的な計画の中で従うか離れるかを決断することです。「もうこんな仕事、辞めてやるー」って心の中で100回叫んでも、表の行動に出てこなければ良いのです。「心の中で叫びながら従う」、「あ、やめた。限界。離れます。」ということを、計画的にできるどうかが、メンバーに問われるのだと思います。

 最後に:あなたはどうなの?

今回はずいぶん長くなっちゃいました。すみません。そうです、結局、「あなたは、どうなの?」ということです。実は「フォロワーシップ」ということで語られる内容かもしれませんが、それよりももっと自分を中心に考えるスタイルで良いのです。パターンを想定して自分の行動をシミュレーションしておくと、いざと言う時に何かの役に立つかもしれません。
つまり、ビジョンはリーダだけの責任でなく、メンバーにも責任がありますよ、あなたも行動しましょう!それが働きやすい職場につながりますよ!傍観者はダメ!ということが言いたかったのでした。


 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「今回のコラムは読み応えがあったね!」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「そうやねぇ、ビジョンが分からないと、どっちに向かっていいか迷っちゃうしねぇ。」
は:「本当にビジョンないリーダって、多いよね。『上司の器を広げるのも部下の努め』というフレーズがあって、ドッキリしちゃった。私たちだと『器の小さい上司の器を広げようとして、刺しちゃう』ってありえない?」
も:「わわわ、『心の中では何人も上司を切ってる』話はナイショやん!」
は:「もうPS研究会では有名な話だよ。笑。・・・ビジョン到達に向けて、チームの力を集められたらいいよね。」
も:「ね、この編集チームのビジョンは?」
は:「皆さんの職場が元気になるようなヒントを毎月きちんとお届けできるチーム、かな?」
も:「やっぱ、締め切りは大事ですかっ!汗」
は:「当たり前じゃない。ここは、編集長としてビジョンは超・明確よ。笑」
も:「さすが!納得、納得よ。来月もがんばろーっと!」


 著者:楠木(くすのき:ペンネーム)
PS研究会メンバー。総合電機メーカーでソフトウェアプロセス改善に従事。なかなか活動が広まらないという悩みから「普及と啓発」に興味を持つ。今回のボーナスでテンピュール枕を購入、新しい夢を見たいと思っている。
 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年にわたり、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けて下さい」と「華やかな恋」。 当コラムの編集チームの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
 バックナンバー
第1回目2006年9月号  〜このコーナーのご紹介〜(花水木)
第2回目2006年10月号  〜ソフトウェア技術者が働きやすい作業場所とは?〜(楠木)
第3回目2006年11月号  〜プロジェクトチームにおける新人の居場所〜(菜の花)
第4回目2006年12月号  〜挨拶は“安全な仲間”のシルシ〜(木犀草)
第5回目2007年1月号  〜うまくほめて正しく叱る〜(花水木)
第6回目2007年2月号  〜私にとっての働きやすさとは〜(杉の木)
第7回目2007年3月号  〜笑顔の効力〜(銀杏)
第8回目2007年4月号  〜モティベーションをコントロールしよう〜(向日葵)
第9回目2007年5月号  〜人を動かす物語、心に宿る物語〜(孔雀草)
第10回目2007年6月号  〜デトックスしませんか〜(木犀草)
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