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〜モティベーションをコントロールしよう〜

向日葵(ひまわり):4月号

 私がPS研究会へ入会したのは、2002年に弊社でPS調査(パートナー満足度調査)を実施したことがきっかけだった。PS研究会には人材育成にかかわる仲間が多く、社内の新人教育を担当し始めたばかりだった私は、実践的な手法と共にたくさんの元気と勇気をもらった。「この仲間に出会えてよかった。」と心の底から思う。そんな私が「モティベーション」について最近感じていることを書いてみたいと思う。

  巷に溢れる「モティベーション論」に戸惑い

 「結局、モティベーションだよね。」この頃こんな言葉をよく耳にするようになった。モティベーションの研究を続けてきたPS研究会のメンバーとしては、うれしいはずだが、少し戸惑いを感じる。なぜかと思い、耳をすませてみると、この言葉は二通りの意味に使われるようだ・・・。

Aさん:「結局、仕事が成功するか失敗するかは、メンバーのモティベーションにかかっている。だからメンバーのモティベーションを高めるのは大事だよね。」
Bさん:「結局、やる気のないやつは、こちらが何をやってもダメなのだ。本人がモティベーションを上げないとダメだよね。」

 Aさんは「モティベーションを高める必要がある」と考え、Bさんは「モティベーションが低い人はダメだ」と主張しているように思える。自分の上司を選べるなら、私はAさんの方がいい。Aさんのように接してもらえれば、モティベーションが上がるし、チームメンバーもお互いのモティベーションを大事にするようになるからだ。でも、それは私にとっては理想的な上司像でしかない。実際、私の過去の上司はほとんどがBさんタイプだった。高度経済成長の中で働いてきた企業戦士たちは、やる気さえあれば誰でも右肩上がりの業績が残せると思っているのかもしれない。そして、私はAさんのような上司にずっとあこがれてきた。
 最近、Aさん的な上司が「常識」になってきた。本当にモティベーションを大事にできるかどうかは別として、Aさん的「モティベーション論」が巷に溢れている。今度は私が、「モティベーションって何?」と考え込んでしまうのだ。

 モティベーションは誰のもの?

 誰々さんはモティベーションが高いとか低いとかがよく話題になるが、それはその人の「仕事への意欲や態度」と同じ意味で使われることが多い。「モティベーションが高い=優秀な社員」のような捉え方をされる環境下では、社員はいつも「はい、がんばります!」と言い続けなくてはならなくなる。
 確かに上司からすると、いつもやる気に溢れていて、多少の困難があっても「はい、がんばります!」といってくれる部下は、ありがたい存在である。でも、いつも上司の要求を受け入れようとすると疲れるし、ストレスも溜まる。仕事を成功させようと高いモティベーションを維持しているのに、疲れて生産性を落としてしまっては元も子もない。
 私は、Aさんのような上司と一緒に働きたいが、高いモティベーションをずっと要求されるのは困る。反対に、Bさんのような人が上司でも、必ずしも自分のモティベーションが下がるとは思わない。
 確かに職場では、周囲の影響、特に上司の言葉や態度によって、モティベーションが上がったり下がったりすることが多い。だからといって、自分のモティベーションの高低まで、上司のせいにするのはどうだろう?実はそれって、上司への甘えなんじゃないかなと思う。モティベーションは“動機”と訳される。“自分が動く機会(きっかけ)”だと考えれば、他人にどうこうしてもらうものではなく、モティベーションは、やっぱり自分の中に存在するものなのだ。

 大発見!!モティベーションは変化する

 果たして、自分のモティベーションの高さは、どのくらいだろう。私自身、長い間このIT業界で働き続けているが、常に高いモティベーションを維持できているとは言い難い。高いときもあれば、低いときもあり、それを繰り返している。
 先日受講したPS研究会代表・松尾谷徹氏のセミナーで「人生やる気曲線」なるものを描いた。これは、横軸に時間、縦軸にモティベーションの高さを表し、自分のモティベーションがどんな時に上がったのか、どんな時に下がったのかを図にするものだ。意外なことに、多くの参加者の曲線は、上下に激しく蛇行していた。
 そう、どうやら人のモティベーションは、いつも高いものでもないし、一定なものでもないらしい。これは大発見だった。
 もっと面白かったのは、自分のモティベーションが上がったときと下がったときの状況を振返ってみると、その人なりのパターンがあることだった。私のモティベーションが上がったときは、スキルアップを感じたとき、新しい仕事の始まりや人との出会いがあったとき。下がったときは、自分の不得意なことや選択の自由がない仕事を任されたときだった。たまたま隣に座った人の話を聞いてみたが、その人も上がったとき、下がったときそれぞれに、その人なりのパターンがあった。

 自分のモティベーションを自分でコントロールする

 私はPS研究会のメンタルヘルスFST(フィールド・スタディ・チーム)のリーダをやっている。実は、リーダを頼まれた時はダダをこねた。私は元々リーダシップが欠けている。計画性もないし、決断力も乏しいので、リーダを引受ければそんな自分の嫌な面を思い知ることになると思ったからだ。
 でもしばらく考えるうちに、ふと気がついた。会社の中では、私のように計画性も決断力も乏しいのに、リーダをやらなければならない人もいるはず。それなら、そういう人の辛さや不安を体験することは、教育担当としても産業カウンセラーとしても役立つのではと。そう考えるとマイナスだったモティベーションがプラスに逆転した。そう、スキルアップは私のモティベーションを上げるパターンだったのだ。
 目の前にある問題の受け止め方を変えることで、自分のモティベーションをコントロールできれば、上司や周囲の他人に頼らず、自分で自分の考え方や行動をコントロールできる。それを自分でコントロールできれば、他人の評価や言動に過剰に反応することもなくなるし、ストレスも軽減されるはずだ。モティベーションが下がっても、自分の価値が下がるわけではない。まず、“自分の認識次第だ”ということが分かれば、自分らしく、自分自身を活かしていけると思う。

 元気(エネルギー)の補給を忘れずに!

 仕事でも人生でも、迷ったり落ち込んだりすることは多い。そんな時、話を聞いてくれる仲間がいるのは心強い。実践的な手法も役立つが、話を聴いてうなずいてくれるだけで元気が湧いてくる。このときの私は、きっと仲間から「支援(ソーシャルサポート)」というエネルギーをもらっているのだと思う。上司や仲間から誉められたり認められたりするとモティベーションが上がるのは、「存在承認(アクノリッジメント)」というエネルギーをもらっているからではないだろうか?
 先のセミナー講師である松尾谷氏は、遊びの達人だ。どんなに忙しいときでも仕事の合間に「遊び(レクリエーション)」をうまく取り入れている。端から見ていても、活き活きして楽しそうだ。松尾谷氏に聞くと、忙しいときだからこそ、仕事に「遊び」を上手に取り入れることでエネルギーが充電される、という。
 IT業界で働いていると、残業が慢性化して疲れていることに気づかない人も多い。モティベーションを上げて頑張ることはすばらしいことだが、長期間続くと肉体的・精神的な負荷が溜まって蓄積疲労となる。「休養」や「気晴らし」を忘れず取り入れたい。
 モティベーションを維持しながら頑張り続けるには、元気の源となるエネルギーを補給することが必要だ。どうすれば自分が元気になれるか、自分なりのエネルギー源を見つけておくことも、モティベーションを維持するコツだと思う。
 皆さん、元気(エネルギー)の補給を忘れずに!


 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
はなみずき(以下「は」)「あれ、もくちゃん、どうしたの?元気ないね?」
もくせいそう(以下「も」)「うーん。ちょっと、やる気が出ないねん。」
は:「何かあったの?」
も:「この前、ずっと担当してた仕事からはずれちゃってん。」
は:「異動の季節だもんね。」
も:「やりがいあったし、楽しんでやってた仕事だったしさー。なんか寂しいねん。」
は:「確か、もくちゃんのモティベーションが上がるパターンって、“チャレンジしてるとき”じゃなかった?今までの仕事のことじゃなくて、新しい仕事のことを考えてみたらどうかな?」
も:「・・・なるほど!そっか、新しい仕事へのチャレンジって思えばいいのか。」
は:「そうそう。向日葵さんが書いてたように、問題の受け止め方を変えてみたらいいんじゃない?」
も:「何だか、急にやる気が沸いてきたような気がするな。チャレンジ、チャレンジ!」
は:「そうそう、その調子!」
も:「よっしゃー、いい春にするぞー!」
は:「あらあら、走って行っちゃった。笑。ほんと、モティベーションは自分次第、だね。」


 著者:向日葵(ひまわり:ペンネーム)
PS研究会メンバー。IT企業の教育担当と産業カウンセラーを兼任。技術職として入社したが、子供を育てるうちに興味がITから人へと移る。メンタルヘルスFST(通称:メンヘルFST)で、個人・チーム・職場環境のストレスについて研究中。
 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在もソフトウェア開発のプロジェクトチームに参加しつつ、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。当コラムの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西出身のPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの編集メンバー。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
 バックナンバー
第1回目2006年9月号  〜このコーナーのご紹介〜(花水木)
第2回目2006年10月号  〜ソフトウェア技術者が働きやすい作業場所とは?〜(楠木)
第3回目2006年11月号  〜プロジェクトチームにおける新人の居場所〜(菜の花)
第4回目2006年12月号  〜挨拶は“安全な仲間”のシルシ〜(木犀草)
第5回目2007年1月号  〜うまくほめて正しく叱る〜(花水木)
第6回目2007年2月号  〜私にとっての働きやすさとは〜(杉の木)
第7回目2007年3月号  〜笑顔の効力〜(銀杏)
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