働きやすいプロジェクト環境のために
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〜「聞いてるつもり」の落とし穴〜

花水木(はなみずき):1月号

 あけましておめでとうございます。この時期は、いつも話す人だけではなく、久しぶりに会う人も多かったり、いろんな方とコミュニケーションを取ることが増えます。そこで、ここ数回は、「コミュニケーション」について、テーマをしぼってお届けします。前回は『言ったつもりの落とし穴』でした。今回はその反対側、聞くほうにフォーカスします。

  暗黙的な「私」

 コミュニケーションについてのハウツーを調べると必ず出てくるのが、「相手の話を聞く」、「相手の立場になって聞く」ということです。「聞く」なんて簡単なこと、いつもしているじゃないか、と思うでしょう?私自身もまったくそう思っていました。ところが、意外と、難しいんですよ。 よくこんな会話を耳にします。
 「私ね・・・・・なの!」、「あたしもー!」
 「私、・・・・・できなくて」、「あたし、できる」
 「私、それ、ぜんぜん知らないよー」、「あたし、知ってるー」
 たまたま、女性の話し言葉で書きましたが、いつも使っている「俺」「僕」などに読み替えてみてください。どうでしょうか?「私」「あたし」が頻繁に出てくることに気づきましたか?
 日本語は主語が省略されることが多いので気がつきにくいのですが、一般的な日常会話は「私」が主語の場合が圧倒的に多いと思います。普段のプロジェクト室では、筆者は黙って作業していて遠くでの他の人たちの会話を聞く機会が多いのですが、主語が「私」の話がよく聞こえてきます。
「あ、○○さん、いま会議終わったの?」
「そう。昨日、明け方までかかって提案書作ったんだけど、今の会議で修正入って、これから直さないといけないんだ」
「私も、昨日の夜は遅かったんだ〜。体制がまるごと見直しになっちゃって、体制表から役割分担から全部やり直し。もう、眠い!」
「そう。じゃあ、またね。」
 相手の話を聞いているようで、主語は暗黙のうちに「私」の話。どうして、お互いのスケジュールを言い合うんだろう?お互いに自分の話だけしておしまい?「それで?」って突っ込みたくなります。
もうひとつサンプルを。
「黒酢って身体にいいの?」
「いやー、よくわからないけど、最近宣伝してるよね」(お、いい感じ!)
「酢とか、ガンガン飲める人?」 後ろにいた人、「アタシ、飲めるー」
(・・・・アナタに聞いてないって!!)
 また「わたしばなし」なの?どうして相手のことをもっと聞かないのかな?相手のことに興味ないのかな?もっとちゃんと聞こうよ。それで?どうなの?どう思ったの?それって何?どういう意味?って、突っ込んで質問しようよって、遠くで聞きながら思います。

 キーワードの関連で話しをつないでいるだけ?

 前述のような会話は極端だとしても、この類のことは多いです。話を聞いているつもりでも、実は、相手が言ったことに関連するキーワードから思い出した、自分の経験を話しちゃっています。明示的または暗黙的に、「私」が主語の文章、そう、「わたしばなし」に持っていっちゃうのです。確かにこれもひとつの会話スタイルといえるかもしれませんが、「相手の立場になって聞く」というスタイルからは、ちょっと距離があるように思います。「聞いてるつもり」の落とし穴にはまっていると言えるでしょう。
 こういう人は、「キーワードがインプットされると、関連する自分の経験を思い出して話せと命ずるジョブプログラム」がメモリに常駐しているのかもしれませんね。もし自分がそういうパターンの会話をしていると思うなら、そのジョブが動き出すのを感じたとき、ふと考えてみましょう。
 「この人は結局、何を私に伝えたいのだろう?」
 「喜怒哀楽の4つの中では、相手は今、どれを強く感じているのかな?」
 「いま私は、この人に何て言ってあげたら喜ぶだろうか?」
・・・会話のテクニックとしては、ちょっとわざとらしいかもしれませんね。それにしても、相手に興味を持っているだけ、自分のことをしゃべりだすよりもまだマシだと、筆者は、思います。

 「相手の靴の中に入る」ふたつの方法

 「相手の立場になって考える」は、英語で
 Put yourself into her shoes. (相手の)靴の中に入ってみる
といいますね。さすがにすごい表現ですが、そのものずばりだと思います。自分の経験や感情を言いたい衝動、アドバイスしたい欲求などを一切おさえて、相手の靴の中に入ってみるのです。・・・考えただけで大変そうです。
 でも、そうする練習を繰り返すことによって、本当に、少しずつ話しを聞くことができるようになるのです。練習のポイントを2つご紹介しましょう。
 まずは、「質問されるまでは自分のことを一切話さない」と決めて、相槌を打ちながら、とにかく聞くこと。別に気のきいた質問やツッコミなんてしなくてもいいのです。「ふーん、それで?」「それから?」「そのときどう思った?」などと、相手の話が続くように促せばよいのです。相手が満足するまで話し終わって「あなたはどう?」と聞いてくるまでは、絶対に自分のことは話さないと決める、これだけです。
 そして、2つめは、相手がポロリと漏らした感情の切れ端をすくいあげること。「そう〜、忙しくて大変だったのね」「それは嬉しかったね〜」と相槌とともに、相手の言ったワンフレーズを捕まえて、そのまま繰り返すのです。これで感情を共有することができるのです。
 話している側が、聞いてもらったと実感できるのは、2つのパターンがあるそうです。ひとつは、話の内容を理解してもらったと感じるとき。二つめはそのときの感情を理解してもらったと感じるとき。相手の靴に入るというのは、最後まで話を聞くことに加え、内容と感情を理解しようと試みることなのです。

 奥深いコミュニケーション

 PS研究会のメンバーは、コミュニケーションのプロフェッショナルですから、誰かが話してるときに他の誰かが話の主役を持っていっちゃうことは少ないです。それどころか、こちらの気持ちを先回りして、「はいはい、ほめてほしいのね、エライエライ」みたいに、行間を読んだ会話になることもあります。なので、研究会のメンバーとの会話は気持ちがすっきりする一方、聞き上手に囲まれて、ついつい自分の気持ちをさらけ出し過ぎちゃうことがあります。それでも言い過ぎたなと思うことはなく、聞いてもらって心地よく感じます。
 こんなふうに偉そうにコラムを書いている筆者ですが、まだまだコミュニケーションについては悩むことも多く、普通の友達相手に「それで?」「だからどうしたいの?」「私に何してほしいの?」とせっかちに迫って、ドン引きされることも多いです。何事もバランス、受け流すことも重要かもと、最近思います。
 このコラムを読んで、もしコミュニケーションにご興味をもたれましたら、一緒にPS研究会で研究していきましょう。


 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「行きは1つ、帰りは2つ、なーんだ?」
花水木(はなみずき、以下「は」)「どうしたの?なぞなぞ?」
も:「そう。コミュニケーションなぞなぞ。」
は:「何それ?うーん、行きは1つで帰りが2つ?わかんない。」
も:「コミュニケーションの出入り口だよ。口は1つで耳は2つでしょ。笑」
は:「なるほどー!そっか、耳が2つあるのは、話す倍をかけて聞かなきゃいけないからだって聞いたことがあるよ!」
も:「聞いてるようで、聞いてないこと、多いもんねぇ。」
は:「コミュニケーションって奥が深いよね。」
も:「ほんと、そう。でね、勉強会をしようかなって思ってるねんけど。」
は:「あ、ゆるやかな勉強会?1月から開始だっけ?」
も:「そう!PS研究会のメンバーで集まって月例勉強会。メンバー固定にしないで、ゆるやかなつながりでテーマを決めてやるねん。」
は:「毎回メンバーが違う可能性があるってことね。コミュニケーションの腕も磨かれそう!笑」
も:「1月19日から始める“ゆる勉”にご興味を持った方は、ぜひご連絡くださいね〜」
は:「今年もPS研究会はいろんな活動をしていきます。今年もご意見どしどしお寄せくださいね!」
は・も:「今年もよろしくお願いします!」


 著者、編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年にわたり、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けてください」と「華やかな恋」。当コラムの編集チームの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
 バックナンバー
第1回目2006年9月号  〜このコーナーのご紹介〜(花水木)
第2回目2006年10月号  〜ソフトウェア技術者が働きやすい作業場所とは?〜(楠木)
第3回目2006年11月号  〜プロジェクトチームにおける新人の居場所〜(菜の花)
第4回目2006年12月号  〜挨拶は“安全な仲間”のシルシ〜(木犀草)
第5回目2007年1月号  〜うまくほめて正しく叱る〜(花水木)
第6回目2007年2月号  〜私にとっての働きやすさとは〜(杉の木)
第7回目2007年3月号  〜笑顔の効力〜(銀杏)
第8回目2007年4月号  〜モティベーションをコントロールしよう〜(向日葵)
第9回目2007年5月号  〜人を動かす物語、心に宿る物語〜(孔雀草)
第10回目2007年6月号  〜デトックスしませんか〜(木犀草)
第11回目2007年7月号  〜ビジョンとメンバーの関係は?〜(楠木)
第12回目2007年8月号  〜寝て見る夢、起きて見る夢〜(杉の木)
第13回目2007年9月号  〜「へぇ〜!」から始めるチームづくり〜(ねこやなぎ)
第14回目2007年10月号  〜リラクセーションを試してみませんか〜(百日紅)
第15回目2007年11月号  〜プロジェクトマネージャができること〜(松ぼっくり)
第16回目2007年12月号  〜「言ったつもり」の落とし穴〜(木犀草)
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