働きやすいプロジェクト環境のために
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〜他人と関わる「勇気」〜

アーモンド(扁桃):2月号

 キャリアカウンセリングの仕事をしていると、つくづく「コミュニケーションって難しい」と思います。「コミュニケーションの専門家」と自称されるキャリアカウンセラーもいらっしゃいますが、絶対の自信をもってそう言うことができるカウンセラーは多くないでしょう。コミュニケーションは、私たち働く一人ひとりにとって日常的に欠かせないもののひとつだと思います。そこで今回は「関係性」をキーワードにコミュニケーションを考えてみたいと思います。

  コミュニケーションの前提 −関係性−

 思うに、コミュニケーションというものは、まずその必要性、言い換えるならば「お互いの関係性」を認めない限り成立しないのかもしれません。選挙活動などを除けば、多くの人にとって、街中で出会う誰彼かまわず声をかけたり挨拶をしたりすることは稀でしょう。しかし休日に山歩きをしているときには不思議とすれ違う人とごく自然に声を掛け合ったりします。お互いの事情など知らなくても、同じ何かを共有している気持ちが生まれるからでしょうか。この“同じ何か”によって、一種の「関係性」が生まれると考えられます。
 関係性を強く認識すればするほど、相手に対して更に興味が湧いてきます。「この人はどんな人なんだろう。」「もっと話をしてみたい。」「私に何を求めているのだろう。」など・・・。そして、この「興味」からコミュニケーションが始まります。

 関係性の前提 −自分を知る−

 「関係性」は、相手と自分の双方向の関係。ということは、相手の気持ちや状況、相手が求めているモノ、コトに気づくのが大切ですが、同時に自分の心の動きを知っていることもかなり重要です。
 つい先日、チームのメンバーが遠慮がちに声をかけてきました。「あのぉ・・・今・・・話かけてもいいですか・・・?」無意識のうちに、「自分は忙しいんだ!寄るな!触るな!」的オーラを発していることに気づいた瞬間でした。こういう状況が続くと、やりとりはどんどん事務的に味気のないものに変わってしまい、大切な、「生きた」会話がなくなっていくようです。自分の心に気づくことができて、ラッキーだったと思います。
 「他人は自分の鏡である」とよく言われます。周囲の人の反応には、自分の心の反映があることに気づきます。知らず知らずのうちに、自分が周囲に影響を与えている可能性があることを少し覚えておくと、円滑なコミュニケーションに役立つことが多いと思います。

 自分と他人の違いを認める

 とはいえ、周囲への影響ばかり考えて行動するのは、ちょっと面倒かもしれません。人によっては、「そんな面倒なことなら、できるだけ他人とは関わらないようにしよう」と考えるかもしれません。しかしそれは本末転倒です。私たちは他の人と関わらないで生きていくことはできませんし、人と関わることによって、はじめて学ぶこと、成長することも沢山あるのですから。
 カウンセラーとして、IT業界で働く多くの方の相談をお受けしたり仲間同士で意見を交わしたりする中で、私が少しずつ気づいたことは、「みんな、違っていて当たり前なんだ!」ということです。同じ職場、同じ年代、同じ学校、同じ趣味・・・。みんな「同じ」であることに安心を求めているかもしれません。「同じ」になろうとして、でも「同じでない」ことに驚き、傷ついて・・・の繰り返し。そうではなく、はじめから、自分とは感じ方の違う他人の存在を認める。と同時に、他人とは感じ方の違う自分の存在を認めることが大切なのです。そのとき、自分と違う感じ方を受け入れ、他人と違う感じ方を伝えたい、という意識が働き始めるのではないでしょうか。関係性、コミュニケーションはそうして始まるのです。

 他人と関わり続ける勇気

 新しい関係性を始めるときに大切なのは、関わり合う勇気。おそらく最初はうまくいかないと思ったほうがよいと思います。少しずつ上手になっていけばそれでよいのではないでしょうか。
 毒蝮三太夫という人をご存じでしょうか。主にAMラジオで活躍している方ですが、歯に衣着せぬ豪快な口調で中高年層から多くの支持を得ています。昭和44年番組スタート以来、訪れたお店や会社・工場など約8700軒、出会った人は54万人以上。日本の人口の240人に1人は、まむちゃん(最近は老人達にそう呼ばれています)に会ったことになるそうです。(毒蝮氏のホームページより引用)。私も彼のラジオを楽しみにしている一人です。ラジオで耳にしたエピソードを紹介しましょう。ある日、生放送の街頭インタビューで、ひとりの老人から自分の重篤な病気を打ち明けられるという出来事がありました。毒蝮氏は彼に対して「そんなの、忘れちまいなよ!」という言葉で返していました。重大な話を身内に対するように心を開いて語る老人と、一見ぶっきらぼうでストレートな表現でありながら、老人の心の深い悲しみをいたわろうとする毒蝮氏のやりとりを聞き、その道のプロであるとはいえ、驚きを覚えました。そんな彼もいつも上手な会話ができているわけではありません。私は以前からよく彼のインタビューを聞いていますが、相手と話がうまくかみ合っていないケースも少なからずあります。そんなときでもおかまいなしにどんどんオジイチャン、オバアチャンに声をかけていきます。彼の性格もあるのでしょうが、どんなときでも臆せずに人々と関わろうとする彼の姿勢には学ぶべきことがあるように思います。彼の今日のキャラクターもそのような長年(約40年!)の積み重ねが生み出したものなのかもしれません。
 私たちも、日常生活のちょっとしたところから、関わる勇気を出してみませんか。たとえば最初の勇気は、一日の始まりの「おはようございます」から。たとえ無視されることがあっても、「いつか気持ちは伝わる」と信じて。自分から勇気をもって関わり続けることが、新しい世界や新しい発見への扉を開いてくれるかもしれません。


 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「あのさぁ、ちょっと聞きたいんだけど・・・。」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「・・・。」
は:「ねぇねぇ・・・・・。(様子をうかがって)もくちゃん?」
も:「・・・。」
は:「ちょっとぉ、もくちゃんってば。話しかけないでオーラ出してもダメよ。」
も:「あーん、オーラ出してたつもりなんだけど、ダメ?」
は:「だーめ。4時になったらフロア掃除しようって約束したでしょ。」
も:「言ったけど、面倒くさくなってきたから仕事してるフリしようとしてんけどな。」
は:「バレバレですっ。それに話しかけないでオーラって感じ悪いよ。ま、もくちゃんの場合は、面倒くさいオーラだけどね。笑」
も:「たははっ(苦笑)。変にオーラ出して空気を読んでもらおうとするより、これ終わるまで待って、とか言ったほうが結果的には伝わりやすいみたいね。」
は:「そうそう。お互いに伝え合うのが大事ってことよ。で、掃除の時間よっ。」
も:「あーあ。次から、面倒だからやめようって勇気を出してお願いするようにしよっと。」
は:「何を言ってんの。掃除も気持ちいい職場環境の第一歩よ。はい、雑巾!笑」
も:「やられた(笑)。やっぱ編集長には敵わへんわぁ。よっしゃ、勇気出してバケツに一歩前進するぜー!」


 著者:扁桃(よみがな:アーモンド)
PS研究会メンバーで現在IT企業の人材育成部門で働くキャリアカウンセラー。第一線で堅実に働く一人ひとりが、報われる職場作り支援を目指している。最近の趣味はKOBUKUROを唄いながら泣くこと(?)
 著者、編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年にわたり、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けてください」と「華やかな恋」。当コラムの編集チームの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。本業はIT企業で品質向上と人材育成施策の企画推進を担当。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
 バックナンバー
第1回目2006年9月号  〜このコーナーのご紹介〜(花水木)
第2回目2006年10月号  〜ソフトウェア技術者が働きやすい作業場所とは?〜(楠木)
第3回目2006年11月号  〜プロジェクトチームにおける新人の居場所〜(菜の花)
第4回目2006年12月号  〜挨拶は“安全な仲間”のシルシ〜(木犀草)
第5回目2007年1月号  〜うまくほめて正しく叱る〜(花水木)
第6回目2007年2月号  〜私にとっての働きやすさとは〜(杉の木)
第7回目2007年3月号  〜笑顔の効力〜(銀杏)
第8回目2007年4月号  〜モティベーションをコントロールしよう〜(向日葵)
第9回目2007年5月号  〜人を動かす物語、心に宿る物語〜(孔雀草)
第10回目2007年6月号  〜デトックスしませんか〜(木犀草)
第11回目2007年7月号  〜ビジョンとメンバーの関係は?〜(楠木)
第12回目2007年8月号  〜寝て見る夢、起きて見る夢〜(杉の木)
第13回目2007年9月号  〜「へぇ〜!」から始めるチームづくり〜(ねこやなぎ)
第14回目2007年10月号  〜リラクセーションを試してみませんか〜(百日紅)
第15回目2007年11月号  〜プロジェクトマネージャができること〜(松ぼっくり)
第16回目2007年12月号  〜「言ったつもり」の落とし穴〜(木犀草)
第17回目2008年1月号  〜「聞いてるつもり」の落とし穴〜(花水木)
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