〜プロの仕事は“時は金なり”〜
釣鐘草(ペンネーム):4月号
結局のところ、仕事というのは約束事のオンパレードです。5W1Hも全部約束事。仕事を遂行することは、すなわち約束を守ることだと言ってもよいでしょう。今回は、約束のなかでも「期限」について考えてみます。
時間を守るのがプロ
多くの会社では新年度が始まり、新入社員が入ってくる季節になりました。新入社員が先輩に一番きびしく指導されるのは「時間厳守」ではないでしょうか。社会人と学生との最も大きな違いは、どれだけ「時間」にシビアか、だと思います。
もちろん、プロとしての仕事をする以上、その品質に問題があってはいけません。仕事をする上で、一番大切な約束事はもちろん品質、仕事の出来栄えです。頼んだ仕事の出来栄えが悪ければプロとしての信頼が失墜します。ただ、それは当然の事項として、実際に仕事を進めるマネジメントの視点で考えると、一番の約束事は「期限」、「時間」ではないでしょうか。
新しいプロジェクトを始める際、最初に確認するのは納期でしょう。納期に間に合わせるために何をするか、しないかが、マネジメントの最大の課題です。人が不足しているので追加投入するのか、時間が足りないので2交代にするのか、要求事項すべてを実現するのは無理なので一部のみ開発という交渉をするのか・・・等。すべて期限を守るために行うマネジメントです。ではなぜ「時間」が一番の約束事なのでしょう。
時は金なり
「時は金なり」と言います。計画よりも時間がかかれば、その分、多くのコストがかかります。また、時間がかかるということはメンバー交代リスクや要件変更リスクも高くなります。納期延期でモティベーションの低下を経験した人もいるでしょう。時間が計画よりかかることで、たくさんの損失が生まれます。
誰にでも平等にあるのが「時間」です。コストなどは誰かがかぶれば済むし、取り返しがつくこともありますが、時間だけは取り返せません。取り返せないからこそ、無駄はしたくないのです。当然、お客さまの側にも時間は重要事項です。「待たされた」は信用悪化につながります。よって、時間管理はとても重要なマネジメント項目なのです。
プロジェクトマネージャはいつもバタバタ?
仕事をする前には必ずスケジュールを作成しますね。プロジェクトの大日程だけでなく、個人のスケジュールも決めます。つまり、個人が日々の約束「ここまでにこれを終わらせる」を守ることが、最終期限に間に合わせるための一歩となります。
「個人の納期が守られない=プロジェクトの最終期限が間に合わない」という図式はきっとみんな知っているのですが、案外、マネージャが自分のタスクに納期を設定できていないことが多いのです。こういうタイプのプロジェクトマネージャは、“タスク抱え込み”になりがちで、「バタバタマネージャ」と呼ぶことができます。
例えば、タスクとして整理する前の課題検討。いつまでに解消、という目標はあるのですが、なかなかその検討スケジュールが決まらず、「プロジェクトマネージャが方針を決めてからタスクにする」で終わっているケース。きっとプロジェクトマネージャがバリバリ解決してくれるはず、と思いきや、マネージャは他の仕事に忙殺されて全く手をつけられなくなり、課題は解消されず先送り・・・。そんな場面に出会ったことはないでしょうか?
そのほかにも「今日中に決めて、明日の朝会で発表する」と2週間くらい言い続けたプロジェクトマネージャに会ったことがあります。「昨日はバタバタして・・・」と言うのですが、じゃあ、バタバタしない日はあるのでしょうか。マネージャには顧客対応をはじめとしたプロジェクトステークホルダーの対応で、バタバタすることが多いはず。であれば、バタバタを前提にして、出来る期限を宣言するのがスジでしょう。
また、メンバーはプロジェクトマネージャの真似をするので、バタバタマネージャのプロジェクトは、たいてい全体的にバタバタと落ち着かなくなります。メンバーから「予想外のアクシデントがあった」、「バタバタしていて」と言われると、自分も同じことを言っているので反論できなくなります。その結果、マネジメントが甘くなり、プロジェクトの期限全体が遅れていき、さらに問題が増え、調整が必要なタスクが増え、さらにバタバタに・・・と悪循環が始まります。
マネージャ自ら納期を宣言して守る、というのはマネジメントの基本姿勢ではないでしょうか。自戒をこめて言うと、バタバタを計画に織り込めるか。それを自ら守って実行しているか、がマネージャの力量だと思います。
開始時間を守る
期限管理は、約束の開始時間を守ることから始まります。筆者は、一番シンプルな約束事は始業時間だと考えます。簡単なことですが、なぜかIT業界ではこれが守られないことが多く、遅刻することが業界人っぽさの証のように言う人さえいるのです。「昨日遅くまで仕事したので」なんていう言い訳をよく聞きますが、遅くまで仕事していて翌日の始業が守られないなら、そもそも、そうならずに済むようにプロジェクト計画を見直す必要があります。深夜残業が続く状態は、本来のマネジメントから言えば、マネジメントされていない状態なのです。始業時間を守れるような計画にすべきです。なぜそこまで始業が大事なのでしょうか。
プロジェクトは集団作業です。「この時間にこの人がいる」ということが前提でスケジュールを作成します。たとえば、一人で残って考えていても分からなかったので、「明日の朝一番にあの人に聞こう」という計画を立てたとします。それが「朝一番」に「あの人」が来ない。いつ来るかも分からない・・・。これでは仕事の計画が立ちません。また、朝の会議で連絡をしようとしても、来ていない人がいれば会議が成り立ちません。無理やり会議をしても、来ない人を待つ時間が発生したり、その人に後で同じことを伝えたり、と無駄が生じます。始業がおくれても、自分の中で辻褄を合わせればよい、と思う人もいますが、それは自分という領域を超えておらず、プロジェクトの他者に対する配慮がかけていると言えるでしょう。チーム作業としては十分ではありません。
さらに、開始が遅れることは終了が遅れることにつながります。「どうせ次の開始は遅れるし、ちょっとくらいいいか」という意識でずるずると遅れていきます。つまり、全体的に後ろにズレることになり、プロジェクト全体のスケジュール遅延の源となります。
先の章で紹介したバタバタマネージャは、自分自身が始業時間や会議の時間を守らないケースも多いのです。気持ちにゆとりが無いため、いつも「ちょっと遅れます」と開始時間を遅らせて、後ズレを生みます。
まずは始業時間を守ろう
始業時間を、「些細なこと」と考え、ちょっとぐらいいいじゃない、という人もいるでしょうが、本当に「些細なこと」でしょうか。開始時間に拘らない組織なら何時に始業してもいいのです。でも、もし、組織が始業時刻を決めているのであれば、その意味を本当に考えて欲しいのです。「まあ、少々はいいんじゃないの」という風潮が、仕事の納期遅延を生んでいないでしょうか。
先に「誰にでも平等にあるのが時間」と書きましたが、その「時間」を理不尽に他人に奪われることはメンバーの不満に直結します。たとえ、その時間分のお給料をもらえたとしても、メンバーは満足するでしょうか。その時間にいい仕事をしたと思うでしょうか。時間の奪われ方が、単なる寝坊や、ルーズなスケジュール管理が原因であればなおのこと、納期遅延のみならずチームモチベーションの観点からも問題が生じてきます。
「些細な」開始時間を守れなくて、納期など守れるわけがない、と言ったら言い過ぎでしょうか。バタバタマネージャならずとも、プロジェクトマネージャはとかく時間に追われがちです。そこで、「忙しい」を言い訳にせず、自分自身のタイムマネジメントに正面から取り組んではいかがでしょうか。マネジメントは、遅刻しない、お互いの時間を大切にするマネージャの姿勢から始まるのです。
編集者コーナー
このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「いやー、ホント、年がら年中バタバタしてる人っているよね。この原稿の“バタバタマネージャ”は、人ごとと思えない〜。」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「そうやねん、一度、ギリギリで間に合っちゃうと、味をしめちゃうんだよね〜」
は:「何だろうね、ギリギリで間に合うほうが、小さな達成感を得られるのかな?なんかわからないけど、そういうのって癖になるよねぇ。」
も:「ギリギリでも間に合うって油断して、それで年がら年中バタバタするんだよね。まわりにも癖がうつって、みんなでバタバタ!笑」
は:「ホント、バタバタ!ううう・・・・深く反省・・・・。」
も:「そういえば4月は多くの会社が新年度だけど、相変わらずバタバタ?」
は:「そうなのよ。いや、そういえば、2008年の目標で“前倒しでする”って掲げたばかり・・・。残る9ヶ月はノーモア・バタバタでいくように気をつけるわ。あら、そろそろ編集会議の時間じゃない?会議室まで急ごう!」
も:「A会議室までならダッシュで15秒やで!こういうときの足には自信があるねん。」
は:「そんなとこで自信もってどうすんのよ。笑。遅刻しないってことに自信もとうよ。」
も:「たはははっ。おっしゃる通りデス。次は気をつけます・・・」
■ 著者:釣鐘草(ペンネーム)
当コラムの読者。連載を読んでいて、自分もヒトコト言いたくなり投稿しました。本業はIT企業でプロジェクトマネージャをしたりシステム提案をしたりしています。ライフワークバランスを充実させるために、てきぱき仕事をこなせる環境にしたいと奮闘しています。ルーズな周囲(上司?)に振り回されることが多く、ついつい小言を書いてしまいました。
■ 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けてください」と「華やかな恋」。当コラムの編集長。
■ 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
■ このコラムについてのフィードバック: こちらまで、お気軽にお寄せください。感想、コメント、激励、お問い合わせ等、なんでも大歓迎です。
■ PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
■ バックナンバー
第1回目2006年9月号 〜このコーナーのご紹介〜(花水木)
第2回目2006年10月号 〜ソフトウェア技術者が働きやすい作業場所とは?〜(楠木)
第3回目2006年11月号 〜プロジェクトチームにおける新人の居場所〜(菜の花)
第4回目2006年12月号 〜挨拶は“安全な仲間”のシルシ〜(木犀草)
第5回目2007年1月号 〜うまくほめて正しく叱る〜(花水木)
第6回目2007年2月号 〜私にとっての働きやすさとは〜(杉の木)
第7回目2007年3月号 〜笑顔の効力〜(銀杏)
第8回目2007年4月号 〜モティベーションをコントロールしよう〜(向日葵)
第9回目2007年5月号 〜人を動かす物語、心に宿る物語〜(孔雀草)
第10回目2007年6月号 〜デトックスしませんか〜(木犀草)
第11回目2007年7月号 〜ビジョンとメンバーの関係は?〜(楠木)
第12回目2007年8月号 〜寝て見る夢、起きて見る夢〜(杉の木)
第13回目2007年9月号 〜「へぇ〜!」から始めるチームづくり〜(ねこやなぎ)
第14回目2007年10月号 〜リラクセーションを試してみませんか〜(百日紅)
第15回目2007年11月号 〜プロジェクトマネージャができること〜(松ぼっくり)
第16回目2007年12月号 〜「言ったつもり」の落とし穴〜(木犀草)
第17回目2008年1月号 〜「聞いてるつもり」の落とし穴〜(花水木)
第18回目2008年2月号 〜他人と関わる「勇気」〜(扁桃)
第19回目2008年3月号 〜選手が本気で話しを聞くコーチ〜(万両)
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