働きやすいプロジェクト環境のために
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〜フリーライダーにご用心〜

銀杏(いちょう:ペンネーム):8月号

  プロジェクトの中でなぜか、いつも忙しい人とそうでない人を見ることはありませんか。今回はそんな状況とその原因について、考えてみたいと思います。

  フリーライダーって何?

とあるプロジェクトの打ち上げ会にて・・・・
リーダー「プロジェクトの完了を祝して、カンパ〜イ!!」
A:「やれやれ、やっと終わったよ。リーダーはいい気なもんだな。リーダーの隣の席のFなんか、ほとんど何もやってないよ。わかってんのかな?」
B:「なんか、Aとかオレとか、Fの分まで仕事したよな。」
A:「そうだよ、自分の分だけでも精一杯なのにさ。何か緊急の仕事が出たりすると、リーダーが”誰かできるやついる?”とか言っちゃってさ。そういうとき、なぜかFがいなくてさ。」
B:「そう、だから、Aとかオレにまわってくるの。だからって、別に評価とか上がる訳でもないのにさ。」
A:「なんか、やってらんないよなぁ〜」
こういう会話、どこかで聞いたことがありませんか?
 現在のプロジェクトは、集団で作業することがほとんどです。その集団の中で、ある成果をあげる時、「何もせず集団の利益にダタ乗りする人」を社会学では、フリーライダーと呼びます。フリーライダーは、環境問題において、エコの推進活動を盛んに実行する人々の活動で環境が良くなったが、何も環境に対して行動を取らない人でもその恩恵を受ける、組合員が会社と交渉して、良い労働条件を得たのに、非組合員にもその恩恵が得られる、などの例として説明されます。
 私たちの身近なところで考えると、毎日パソコンでプロジェクト進捗表を眺めているだけのプロジェクトリーダー、作業の割り振りが始まるとタバコを吸いに出かけていなくなってしまうメンバーなど、様々なところにフリーライダーがいるのです。
 これまで日本では、文化的な側面から、フリーライダーの問題は考えられていませんでした。日本人は、集団で何かを成し得ることに喜びを感じる人が多い傾向にあるから、というのがその理由でした。しかし、近年になって、日本でも、個人主義、成果主義が一般的になるにつれて、このフリーライダー問題が見られるようになって来ました。

 さて、あなたの周りには?

 このコラムを読んでいるあなたは、フリーライダーではないと、筆者は確信しています。フリーライダーはもっと気軽な読み物を見ているでしょう。たぶん、あなたは前述のAさんやBさんのように、フリーライダーに利益をただ乗りされている方なのではとお察しします。文献では、そのような方を貢献者と定義していることが多いようなので、貢献者と呼びます。
 貢献者のあなたは、フリーライダーを発見してしまいました。そして、Aさんのように、(心の中で、かもしれませんが、)叫んでいるでしょう。
「なんか、やってらんないよなぁ〜」
 あなたは、フリーライダーの存在が気になり仕事もモティベーションも下がり気味です。良い機会です。自分がなぜ貢献者側に回ったのかを振り返ってみませんか。リーダーから仕事を頼まれたとき、どうして引き受けたのでしょうか。
 もちろん、プロジェクトの成功は大事なことで、全員の共通の目的です。予定表にないような細かい作業も日々、たくさん発生します。その中で、あなたは過剰に仕事を引き受けることで、自分自身がくたくたになったり、なんでこの作業を引き受けてしまったのかと自分を責めたりしてはいないでしょうか。もっと、自分のことにわがままに、素直になっても良いと思います。
 つまり、自分の担当以外の仕事を受ける時、この仕事を受けるメリットを考えてみませんか、ということです。もし、この仕事を受けて自分自身にメリットがあるならば、そのまま受ければ良いのです。例えば、技術が身に付く、とか、新しい管理手法が身に付く、とか、上司にお昼ご飯をおごってもらう約束ができた、でもいいですね。でも、そうでないのなら、断って逃げることも考えましょう。責任感の強い人が貢献者になるケースが多く、そのことをリーダーも利用しているのかもしれません。仕事のしすぎで燃え尽き症候群になったり、仕事をむやみに割り振るリーダーが悪い、と人のせいにしたりしたら、自分自身が毎日の仕事をつまらなくしてしまうように思うのですが、いかがでしょうか。

 あなたがプロジェクトリーダーだったら?

 フリーライダーは、プロジェクト全体の士気を下げる可能性があります。楽をしようとする気持ちはメンバー内にあっという間に波及します。また、そのような存在を見逃すリーダーのあなたに対しても不信感が生まれます。
 それでは、フリーライダーを予防するにはどうすれば良いでしょうか。フリーライダーは、集団構成の人数が多いほど発生しやすくなります。また、集団の中では、怠けてもその人の遂行量がわからなければ、個人でも作業を手抜きすることが「社会的手抜き」として証明されています。フリーライダーはこれとも関連があります。
 つまり、プロジェクトを細分化し、集団の各人の役割と責任を明確にしておく、メンバーの努力量と報酬、評価とのバランスを適切に保つ、などがフリーライダーの予防策の例と言えます。プロジェクトのメンバー自身がそれぞれの責任を果たし、あなたが適切な評価をすることで、フリーライダーも予防でき、またそこから、新たな信頼関係も生まれてくることでしょう。
 そしてここで、あなたにもう一つ考えてほしいことがあります。あなたは、いつも誰か仕事の頼みやすい特定の人を選んで、仕事を頼んでいませんか。そして、その頼んだ人の仕事ぶりをきちんと評価しているでしょうか。突発性の仕事や緊急性の高い仕事はそれだけでストレスです。あなたとの信頼関係が強い貢献者に、「なぜ、いつも自分だけ・・・」という気持ちが出てくると、ストレス、過労に一層拍車をかける危険性を秘めています。
 貢献者は、フリーライダーによって心身ともにストレスをかけられています。そして、このままで良いのか、自問自答しています。このような状態のままにしていたら、ある日突然、リーダーのあなたの前からいなくなるでしょう。何も言わず、何も告げず・・・・。
そうなる前に、ご用心、ご用心。


 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「あれ、もくちゃん、何かあった?」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「ちょっと聞いてよー。友だちと4人でスーパーのポイントカードの景品が不良品だったので交換してもらってたら、通りかかった人が、ドサクサに紛れて景品もってったんだよー。ビックリだよ。」
は:「そういうのに、うまく便乗する人いるよねー。」
も:「景品交換の交渉したのは私なのにぃー。」
は:「怒ってもしょうがないよ、そういう人いるもんだし。働きアリやミツバチも、真面目に働いてるのは8割で、2割は働いてるフリをしてるんだってよ。」
も:「えー、昆虫の世界にもそういうのがいるんだ。」
は:「働かないミツバチやアリを除けても、また2割がサボるんだって。不思議だね。」
も:「なんか自分だけ頑張るのが馬鹿らしくなっちゃうよ。」
は:「でもさ、もくちゃんなりに達成したい目標があったり、やりたいって思うことがあるわけでしょ?それが達成できるんだから、周りの人を気にしなくてもいいんじゃないかな。」
も:「そっか、景品もちゃんと交換してもらえたし、交渉の目標は果たしてるってことか。よく考えたら、自分の目標とかやりたいことが出来るかどうかだもんね。」
は:「そうそう。ところで、抽選会でペアのランチ招待券が当たったんだけど行かない?」
も:「行く行くー!そういうのは、張り切ってタダ乗りしちゃうー!」
は:「あはは、ゲンキンだなぁ。笑。じゃ、行こうか!」


 著者:銀杏(いちょう:ペンネーム)
PS研究会メンバー。開発系プログラマー、品質管理、PJ管理業務等々を経て、自分も含めたIT技術者のQOL(Quality of Life)の向上に貢献することを目標に、日々、自己研鑽とトライアルを続けています。
 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けてください」と「華やかな恋」。当コラムの編集チームの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
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