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〜じょうずに「ごめんなさい」〜

松葉簪(まつばかんざし:ペンネーム) [プロフィール] :1月号

 皆さんは、誰かに謝るとき、何か意識していることはありますか?人によって言葉は違っても、相手に「ごめんなさい」という思いを伝えるときに大切なことは同じではないでしょうか。私は、誰かに謝るとき、必ず3つのことを意識しています。今日はそのことをご紹介しましょう。

  「ごめんなさい」には、大切なステップが3つある

 どんなに一生懸命仕事をしていても、誰にだって、失敗してしまうことがあると思います。そんなとき、謝る相手が顧客であっても、チームのメンバーであっても、3ステップでごめんなさいという気持ちを伝えます。

第1ステップ:「自分が悪かった。」、「申し訳なかった。」と思う、反省の気持ち。
第2ステップ:「辛い思いをさせた。」、「大変な手間をかけさせた。」と相手を思いやる気持ち。
第3ステップ:「次は○○すれば良くなる。」、「△△しておけば同じことはおきない。」など、
具体的な改善策を考えて,本当に良くしたいと思う気持ち。
 私の会社で、ある不手際があり、顧客(窓口A氏)へ私が謝罪するというケースで、この三つを見てみましょう。
まず、第1ステップです。
私:「このたびは、ご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした。
A氏:「まったくです。あと一歩遅かったら、今頃こんなところで話なんかしてられませんでしたよ。まぁ、今回はタイミングが早かったので取り返しがつきますが、今後は2度とこのようなことがないように再発防止策をしっかり検討して下さい。」
私:「はい、本当に申し訳ありませんでした。
 ここまでが、第1ステップです。よく見かける光景だと思います。まずは、とにかく反省の意を伝えること。本当に申し訳ないと思っていれば声、口調、表情さまざまなものから相手にその思いが伝わります。

そして、第2ステップです。
私:「今回の件では、A様にもいろいろとご対応いただいて・・・。別件の対応でかなりお忙しいと仰っていた矢先に、本当にご迷惑をおかけしました。
A氏:「そうですよ。それが私の仕事ですから仕方ありませんが、本当に大変でした。」
私:「申し訳ありません。問題が大きくならないようにご尽力いただいたと伺っております別件への影響はいかがでしたか?そちらのプロジェクトにもご迷惑をおかけして・・・。」
A氏:「いえいえ。別件の対応というのは、そもそも無茶苦茶なことを要求されているので、問題ありませんよ。今回の件があってもなくても大変ですから。どうして私が対応させられているのかも疑問ですし・・・。あ、これは愚痴ですね。聞かなかったことにして下さい。」
 実は、私はこのやりとりをあまり見かけたことがありません。第2ステップは、3つの中で最も難しいですが、その分、単なる謝罪で終わらせないためのポイントになると考えています。
 第2ステップは、表現の仕方によっては、上から目線で話していると受け取られかねません。また、あまり深入りし過ぎると相手を不快にさせてしまうかもしれません。実際、このように相手が愚痴までこぼしてくれるようなケースというのは、意識したからといってすぐに実現できるものではなく、常日頃から良い関係をつくっておくことが重要です。

では、第3ステップはどうなるのでしょう。
私:「今回の件は、他プロジェクトの関係者も交えた会議で議題として取り上げ、再発防止策を検討しました。○○で△△するというルールを執務要綱に追加し、再発を防ぎます。」
A氏:「わかりました。今回の最終報告と再発防止策の詳細を、別途書面にて提出下さい。 これからもよろしくお願いしますね。」
私:「はい、今回は誠に申し訳ありませんでした。それでは、失礼いたします。」
 これだったら、既にみなさんも実践されているのではないでしょうか。私が職場でよく見かけるのは、第1ステップと第3ステップの2つのセットです。3つをセットにする意味は、その順番にあります。

 人には、3つの自我状態がある

 心理学理論のひとつに交流分析(TA)というものがありますが、“3ステップのごめんなさい”はこの理論を応用しています。TAでは、人の自我状態(行動の基になっている心の状態)は大きく以下の3つに分けられると考えられています。
 1.親(P・Parent)の自我状態
 2.成人(A・Adult)の自我状態
 3.子ども(C・Child)の自我状態

 名前の通り、親(P)の自我状態は、親という立場が持つような心の状態、子ども(C)の自我状態は、子どもが親に接するときのような心の状態をいい、成人(A)は(P)、(C)どちらでもなく冷静に物事を捉えたり(P)、(C)を客観的に見て全体をコントロールできる心の状態をいいます。人が持つこれらの自我状態にはエネルギーがあり、状況に応じて常に変化しています。 “3ステップのごめんなさい”のポイントである、3種類のごめんなさいは、
この3つの自我状態に対応しています。

○第1ステップ:私はとにかく謝っています。これは相手の(P)の自我状態にアプローチしています。子どもが約束を破ったり、悪いことをしたりしたときに、親に謝るようなイメージです。
○第2ステップ:私は相手の辛さや不満を引き出そうとしています。これは相手の(C)の自我状態にアプローチしています。親が子どもを心配して言葉を掛けるようなイメージです。
○第3ステップ:問題に対する具体策を提示しています。これは相手の(A)の自我状態にアプローチしています。

 もうひとつのポイントは、順番です。自我状態のエネルギーは、どこかのエネルギーが少なくなれば、別のどこかのエネルギーが多くなります。“3ステップのごめんなさい”では、成人(A)の自我状態にエネルギーが流れるのは(P)と(C)が少なくなってから、すなわち最後になります。これは、どんなに妥当な解決策でも、いきなり突きつけたのでは誰も聞く気になってくれないということを意味しています。

 じょうずに「ごめんなさい」を伝えて、よりよい関係を

 謝る側も人、謝られる側も人、お互いが冷静に物事を受け入れられる成人(A)の自我状態でなければ、どんな良案であっても(P)、(C)のエネルギーに呑み込まれてしまいます。それを回避するためにも、一見、無駄にも見えますが、第1ステップ、第2ステップのごめんなさいはとても大切です。相手が怒り狂っているときは、ひたすら相手の怒りが収まるのを待つ、という交渉術がありますが、これも、相手のエネルギーの状態が変わるのを待っていることになります。
 エネルギーの状態に少し注意を向けるだけで、お互いが冷静に物事を受け止め、改善に向けて進むことができます。
 謝らなくてすむにこしたことはありませんが、もしもそのような状況に陥ってしまった場合は、相手との関係を良好にするための一種のチャンスと捉えて、“3ステップのごめんなさい”を実践してみてはいかがでしょうか?

 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「ごめん、言うのが遅くなったんだけど、このレイアウト左右を逆にした方が見やすいので変更が決まったの。申し訳ないけどやってくれるかな。」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「えーーーーっ。言うの遅いっていうかさぁ、今からだと無理やん。だいたいさぁ、例の別件変更あるしさ、スケジュール厳しいのにさぁ。駄目だって。」
は:「だから、ごめんって。もくちゃんも忙しいの分かってるんだけど、このレイアウト変更は、もくちゃんもやった方がいいねって言ってくれてたじゃない。」
も:「・・・・・・・!☆#$!」
は:「どうしたの?」
も:「ごめん!!今、自分が、(C)の状態にいるのがすっごいわかった!自分が大変なことを編集長は分かってない〜って気持ちでいっぱいだったよ。」
は:「そっか、私、3つめのステップから入っちゃったね。前2つを飛ばしちゃった。」
も:「ばーーっと文句を言ったら、すっきりして、自分でレイアウト変更した方がいいって提案したことを思い出したよ。やります、やります。笑」
は:「冷静になるためにも、吐き出すのが大事ってことかぁ。ほら、もくちゃんとの最初の出会いの瞬間もそうだったよね!伝説の“あのオッサン、いつか刺したる”発言。笑」
も:「あ、それを言われると恥ずかしい・・・」
は:「もくちゃんは、放っといても自分で(C)から(A)に変わってくれるけど(笑)、そうじゃない人も多いから、3ステップのごめんなさいをうまく使いたいね。」
も:「自分にも相手にも、3つの自我状態があることを忘れないようにしなきゃね。私は自分が先にカーッとなっちゃうから・・・」
は:「うん、さっきは怖かった!けど、だいぶ扱いには慣れたから大丈夫。猛獣使いと呼んで♪」
も:「そうだね!・・・え、猛獣って・・・そりゃないよ!笑」


 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバー。IT企業の技術職、教育企画部門を担当後、現在はスキルや人材育成の研究職に従事。長年にわたり、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けて下さい」と「華やかな恋」。当コラムの編集チームの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。本業ではIT企業の人材育成企画と並行してPMOを担当。現場を走り回ってます。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
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