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〜苦しい時には待ってみる〜

アーモンド(扁桃) [プロフィール] :7月号

 テレビや映画の世界では、ピンチになると「ウルトラマン」や「ドラえもん」が、ドンピシャのタイミングで助けに来てくれますが、現実の世界ではそのようにうまくいくことは滅多にありません。自分でピンチを切り抜けなければいけないときは、どうしたらよいのでしょうか。

  助けて、ドラえもん

 先日、ある後輩から相談を受けました。これまでにも彼からは何度か相談を受け、技術的なことやテクニックについてアドバイスしてきました。しかし今回ばかりは、いまのタスクの進捗状況、お客さま、健康への不安、等々の問題が複雑に絡み合っていて、端から見ても、どうにもならない状況です。私と部署がかなり離れていることもあり、直接、力を貸してあげることもできません。
 彼自身もいろいろと手を尽くしているのですが、今のところ、事態を打開するまでは至っていない、というのが現状です。話を聞いているうちに、自分も辛くなってきました。まさに、誰か助けて!という気持ちでした。
 結局、その時、私ができたことは、自分の経験から学んだことを事例として話すことだけでした。自分が彼と同じような年頃で経験した辛かったことと、そんな時、どう過ごしたかをとつとつと話しただけでした。しかし、話が終わったあと、なぜか、彼は何かひらめいた顔をして戻っていったのです。私は体験談しか話していないのに。

 自分の身についているもの

 仕事に直結する技術的な知識については、すぐに身につける必要がありますが、それらは賞味期限があって、誰もが絶えずメンテしなければならないものです。ほんとうに自分の強みといえるまでは、努力も必要ですし、時間もかかります。つまり、実力なんてそう簡単には身につかない、ということかもしれません。しかし、日々をどう過ごすかを意識するだけで身につくものもあるのです。
 私自身も、自覚していなくても何か身についているものがあるようです。相談しにきてくれた彼は、おそらく私の苦労との向き合い方から、何らかのヒントを感じとってくれたのでしょう。彼との対話をきっかけに私の仕事生活を振り返ってみると、およそ10年前に学んだ技術や考え方でも、いま、周りの人に提供できることがあるようです。
 私が若い時、自分の強みだと思っていたものは、体力です。それは子供の頃から学生時代までに培った貴重な元手でした。その体力を使って、がむしゃらに働き続けました。しかし、ある頃から、がむしゃらだけでは通用しなくなりました。また、何となく忙しさに流され続けて、(もちろん、自分なりに努力してきたつもりではありましたが、)結局、自分が何をしているのか、何のためにもがいているのかさえ、わからなくなっていました。まさに、助けて欲しい、そこから逃げ出したい葛藤と向き合う日々でした。
 今思うと、その時期に大切な何かを学ばせてもらった気がします。一見、状況は何も進展していないように見えたその頃から、少しずつ、それまでとは違ったものの見方、考え方を身につけるようになった、と思います。

 ポジティブに「待つ」

 私が日々の葛藤から身につけたもの、それは、「待つ」ということ。ただ「待つ」のではなく、10年後のために、ポジティブに待つことです。
 多くの仕事に振り回され、短期的な成果を上げるためにもがきつつも、できるだけその仕事の中から「何か」をつかみ取るようにしました。仕事をこなすのではなく、その先の「何か」を探しました。「問題の本質はどこにあるのか」「本来どうあるべきなのか」「この問題の先に、どんなことが必要になるだろうか」「どうしたら、みんなが幸せになれるのだろうか」そんなことばかり考え続けていました。
 それは、当時の私の仕事や評価にはあまり関係のない思考作業でしたが、「これが、後々に役に立つかもしれない」という予感めいたものが私を駆り立てていました。その経験は、10年後の今、確かに役に立っています。私が思いも及ばなかったかたちで。

そのとき私が学んだことは、
(1) 今の成果・評価は「過去の蓄積(不足)の結果」と考えて、謙虚に受け止める
(2) 今の仕事の中に、将来に投資する行動を織り込む(データ収集、分析等)
(3) 必ず「自分の頭」で考える(そのために、本を読む、有識者と接触する)
(4) 周りの人にとって(今すぐでなくても)プラスになることはないか、考える
だった、と思います。
 目先のことを考えるのは大切です。しかし目先のことだけ考えていてはダメだと思います。忙しくて何もできない、と思うときは、その忙しさについてよく考えるのです。
考えたところで忙しさからは抜け出せませんが、その考えたことが活きてくるのです。陳腐な言い方かもしれませんが「明けない夜はない」といいます。また、「夜明け直前がもっとも暗い」ともいいます。
 そうやって悩み苦しんでいると、ある日、ドラえもんに出会うことでしょう。そのドラえもんはポケットから、問題解決のヒントを出してくれるでしょう。ただし、そのドラえもんは、かつて悩み苦しんできたあなた自身が、学んで成長した姿に他なりません。

 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「見て見て!芽が出てん!」
花水木(はなみずき、以下「は」)「あ、ハーブ。種を蒔いたんだっけ?」
も:「うん。なかなか芽が出なかったから、心配してたんだけど、一気に芽が出たんだよね。」
は:「ツヤツヤしてるね。この前、観葉植物を枯らしちゃったから、今度はがんばってね。」
も:「そうやねん、観葉植物は水をあげすぎちゃってさぁ。今回は、忙しくてほったらかしてたんだけど、ちゃんと育ってるんだよ。」
は:「いろいろ世話を焼きすぎるのも考えモノってことかな?種にはもともと成長するためのパワーがあるからね。」
も:「そうやねー。信じて待つってのが大事かもね。」
は:「待ったり、世話したり、バランスを考えたり。よーく観察して、考えて、の繰り返しだね。」
も:「人生といっしょかぁ。深いなぁ。」
は:「あはは、そうだね、先を信じて、じっくり力を蓄えてって、同じだね。」
も:「で、実ったら収穫して、ハーブでパスタを作るんだー。あと、ハーブティと、ピザにしてもいいな。クッキーもいいよね。それから・・・」
は:「先を見すぎて、取らぬ狸の・・・にならないようにね。笑」


 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年にわたり、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けて下さい」と「華やかな恋」。当コラムの編集チームの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。本業ではIT企業の人材育成企画と並行してPMOを担当。現場を走り回ってます。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
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第33回目2009年5月号  〜「終わりよければ‥・」は真にあらず〜(はなみずき)
第32回目2009年4月号  〜『ダイバーシティ & インクルージョン』を推進しよう〜(とりかぶと)
第31回目2009年3月号  〜メンバーの価値観を感じよう〜(あじさい)
第30回目2009年2月号  〜プロジェクト現場における「親」たるべし〜(金木犀)
第29回目2009年1月号  〜群群力(ぐんぐんりょく)アップのすすめ〜(行者大蒜)
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第24回目2008年8月号  〜フリーライダーにご用心〜(銀杏)
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