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〜ポジティブな雰囲気を醸し出すリーダシップ〜

木犀草(もくせいそう:ペンネーム) [プロフィール] :6月号

 リーダシップといえば、リーダがメンバーを目標に向けてぐいぐい引っ張ることをイメージする方も多くいらっしゃることでしょう。でも、実は、そうでないリーダシップもあるのです。今回は、一般に考えられているリーダシップとは、違う一面に焦点をあててみたいと思います。

  他者への影響力

 リーダとは役割のことです。役割ですから、誰かが誰かに任命(または誰かが立候補)して承諾を得て決まります。「xxさんはこのチームのリーダです」という使い方をします。  一方、リーダシップは他者への影響力のことを指します。他者を巻き込み、よくも悪くもその影響を及ぼす力のことです。リーダはメンバーを目標に導く役割ですから、とくにビジネスにおいて、リーダのリーダシップは重要視されています。筆者の属する企業でも、春になると昇格者向けのリーダシップ研修が熱心に行われています。
 リーダシップについては、様々な分野で多くの研究があります。PS研究会で実施しているPSセミナーでも、リーダシップ研究で有名な三隅博士のPM理論を紹介しています。PM理論は、リーダシップを「課題達成(Performance)」と、「集団維持(Maintenance)」の2つの機能で説明したものです。PSセミナーでは、集団をある方向に向かわせるために、場面に応じてPとMをうまく使いましょう、という演習をします。
 PSセミナーを含め、ビジネスの現場で使う「リーダシップ」という言葉は、何らかの目標のために、誰かが積極的に発揮するもの、として扱われることが多いように思います。しかし、リーダシップを他者への影響力、と考えると、わざわざ意識して「発揮」しないリーダシップもあるのではないでしょうか。

 相手の目線に気づく

 先日、とある研修を見学していた時のことです。研修のテーマは「部下のモティベーション向上」でした。受講生はとても真面目で、熱心に講師の話をメモしていました。ところが、突然、講師の方が話を止めておっしゃったのです。「今、みなさんは、私の話を聞いていましたか?」メモをしていた受講生の手が止まりました。これだけメモを取っているのだから、聞いているに決まっているじゃないか、という顔をしたメンバーもいました。講師の方は続けます。「みなさんは、うなずきも質問もなく、ただ下を向いてメモを取っているだけです。話している私には、何も反応がないように見えます。聞いてくれているのか不安になります。みなさんは部下の話を聞く時も同じような態度ですか?もし、そうだとしたら、部下の方は不安になっていると思いますよ。」
 私は、ハッとしました。受講者は、意欲的に部下のモティベーション向上を学びにきたにも関わらず、「意識せずに」あなたの話を聞いていません、という印象を醸し出していたのです。この印象は、部下に不安感だけでなく、上司への不信すらも感じさせている可能性があるのです。講師の言葉以降、受講者は積極的に講師とアイコンタクトをとったり、うなずいたりするようになりました。私から見ても、相手に配慮した積極的なコミュニケーションが行われているように感じられました。
 「聞いているに決まっているじゃないか」というのは、自分中心の発想です。相手が聞いてもらっていると“感じて”いるか、どんな風に受け止めているのか、相手の目線に気づく、それが重要なのです。

 醸し出す「影響力」の効果

 例えば、上司が毎日ため息をついて、暗い顔をしていたとしたら、そのチームはイキイキした職場になるでしょうか?上司がメンバーに声をかけ、話しやすい雰囲気を醸し出していた方が、余裕が感じられ、イキイキした職場に近いのではないでしょうか。
 部下への直接的な指示や行動を通してリーダシップを発揮しなくても、上司の存在から放たれるオーラのようなものが部下に影響を与えているのです。このオーラのようなもの、すなわちプレゼンス(=存在感)、も影響力という意味では、リーダシップのひとつの側面と考えることができます。
 上司が自信に満ちたプレゼンスで接すれば、部下も自然と前に進むパワーを出すのではないでしょうか。逆に、上司が自信なさそうに振舞っていたら、部下は、上司を軽視したり、仕事に熱を入れなくなったりする可能性が高まります。自分に直接指示がない時でも、部下は上司をとてもよく観察しています。上司が気付かないところでも、部下への影響があるのです。
 相手の目線でみて、どう見えているのか、どんな影響を与えているのか、そこに気づくことができれば、プレゼンスをコントロールできるようになります。自分では良かれ、と思った態度や振る舞いでも、相手にとってその意図が伝わっていなければ、そんなハズじゃなかった、ということになります。
 プレゼンスを言い換えると、相手への印象、ということもできます。営業マンはプレゼンスをとても重視しているといいます。営業マンのプレゼンスが商談結果に直結するからです。アメリカ大統領も、自分のプレゼンスをよいものにするためコンサルタントを雇っているといいます。プレゼンスの影響は意外と大きなものなのです。
 私たちも、プレゼンスを「なんとなく醸し出す」のではなく、「意識して醸し出す」ことで、部下にポジティブな影響を与えることができるのではないでしょうか。

 まずは身だしなみと口角から

 自分の存在感、自分の印象を意識してコントロールする、というと難しいことのように感じるかもしれません。しかし、ちょっとしたことで、相手に与える印象は大きく変わります。一番、手っ取り早いのは「見た目」の印象です。
 まずは、身だしなみ。清潔感ある服装と、不衛生な服装では、前者の方が好印象を与えることは容易にわかります。高級品を身につける必要はありません。相手に不快感を与えないようにしている、ということが伝わるだけで、印象はとてもよくなります。
 もうひとつは、表情です。眉間にしわを寄せる癖のある人は多いのですが、そのことに気づいている人は驚くほど少ないのです。もし、肩に力が入っているな、と思うのであれば、眉間にしわが寄っている確率は高いでしょう。トイレに立った時に、ご自分の表情をちょっと観察してみて下さい。
 もちろん、部下には笑顔で接するのがよいのですが、忙しいビジネスの現場で無理して笑顔をつくる必要はありません。左右の口角を少し上げるだけでいいのです。実は、口角を上げながら眉間にしわを寄せることはできないのです。口角を上げると、印象が柔らかくなり、余裕がある表情になります。この「余裕」がボディブローのように、部下にポジティブな影響を与えます。
 明日から、ちょっと余裕の表情づくりに挑戦してみてはいかがでしょうか。

 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「もくちゃん、お昼休みドコに行ってたの?」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「ドラッグストアで、歯磨き粉と歯ブラシ買ってきてん。」
は:「ふぅん、それにしても大量に買い込んできたね〜」
も:「うん、よいプレゼンスのために、まずは白い歯かな、と思ってさ。午後から来客やねん。」
は:「なるほどね。あらら?・・・もしかして、走って買いに行った?」
も:「うん、ランチの後、ダッシュしたよ!」
は:「やっぱりー。髪の毛がボサボサだよ(笑)。ほらほら、シャツの裾も出てるし!汗も拭いて!」
も:「しまった・・・歯磨きだけじゃなく、髪の毛もシャツも気をつけなきゃ、やね。」
は:「っていうか、むしろ、全体の印象が大事だから!(笑) でも、ま、もくちゃんは、何よりも、その元気さがあるからトータルではオッケーかな。」
も:「いまさら、おとなしくて上品なオーラは出せへんから、自分らしいプレゼンスを売りにするよ!」
は:「そうそう。でもTPOは考えようね。場面と相手のことを考えつつ、自分らしくいこう!」
も:「はーい。じゃあ、お客さまがいらっしゃる前に、鏡でチェックしてくるねっ!」
は:「・・・あ〜あ、また走ってっちゃった。あとで身だしなみ再チェックだなぁ(苦笑)。」


 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年にわたり、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けて下さい」と「華やかな恋」。当コラムの編集チームの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。本業ではIT企業の人材育成企画と並行してPMOを担当。現場を走り回ってます。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
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