働きやすいプロジェクト環境のために
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〜「ないよりまし」の方針の話〜

楠木(ペンネーム) [プロフィール] :12月号

 皆さんの組織にも、方針とか、ビジョンってありますよね。何となく、偽善くさいというか、役に立たないと思いがちではありませんか。今日はそういう「方針」たちが、働きやすい環境のために役に立つのかどうか、考えてみたいと思います。

  方針があると、ちょっと助かる

 「納期遵守、品質向上、コスト削減」などの方針が、壁にドカーンと飾ってあったりすると、見ただけでげんなりしませんか?それに、この三者って突き詰めると相互背反だし…などと考えると、この矛盾をどうするのよ、という嫌な気分になることも。
 方針とかビジョンって、もともと「いざという時の心の支え」みたいなもんです。心の支えは、毎日は必要がないのですが、あればあるだけ、日々を安心して過ごすことができる気がします。例えば何かで迷った時に、「あ、そうそう、まずは納期第一だったし」とか、「新しい内容のプロジェクトなので、学習・経験の重視だったな」とかを判断できます。
 こんな感じで方針やビジョンがあると、ちょっとした判断のガイドラインになったりして、助かるわけです。目前の作業の完成かセミナー受講か、なども判断しやすいし、メンバーにも言いやすい、納得感が得られやすいです。納得しないまでも、「まあ、上がそういっているからしかたがないな」と思われやすいです。「さほど反対じゃないけど、賛成でもない」メンバーを、「まあ、いいかも」くらいの立場に引き入れやすいと思います。だから、やっぱり方針とかってあった方が良いと思います。

 方針だけが大事なのか

 でも、実は、今回は「方針やビジョンが大事」という話がしたいわけではないのでした。方針やビジョンの中にひそむ矛盾とのつきあいかたについて考えようと思います。「納期重視」の方針がある時、「納期だけが最優先」というわけではないよと言いたいのです。
 最近読んだ本からの受け売りですが、「ものごとには完全な悪も完全な善もなく、だいたいがその中間である」とのこと(*1)。ものごとにはグレーゾーンが多いのです。できるだけ善(白)に近づくように、にせもの(偽善)でも良いので、グレーゾーンからちょっとずつ進みましょう、ということです。
 偽善という言葉のネガティブな印象や漢字の難しさから、偽善にたいして葛藤もあると思います。他人の目が気になり「偽善くさい」ことはしにくいです。例えば、ここで小さな気配りをしておくと、後で小さな幸せを生むことはわかっていても、偽善くさいと思ってしまうと、もう、動きが取れなくなってしまう。プロジェクトの協力会社メンバーの作業を少し手伝ってあげれば全体が進むのに、自社メンバーの目が恐くてできない。偽善くさいと自分が思うと固まってしまう。小さい箱に入ってしまっている感じです。自分が他人を見るのと同じ目つきで、他人も自分を見ているのでは、と考えてしまうのです。
 そこで悩みつつも、「偽善でも良いじゃん、すこしずつお互い助け合おう」と冷静に考えられると、プロジェクトの状況も違ってくるのだと思います。
 先の3つの矛盾する方針の話に戻ると、納期重視の方針があったとしても、きちんとレビューをして、かつ、決めた試験密度を達成して、品質もあげた方がいいかなって、誰でも思いますよね。そんな偽善が大事かなと思います。

 なんでも「ほどほど」に

 ここで再び、「なんだ、じゃあ、方針とか不要では?結局みんな大事なのね」という意見が出そうです。しかし、それはちょっと違うと言いたいです。3つの方針はすべて大事だけど、その中で今回はまあ納期を重視しつつ進めましょう、というくらいの話だと思います。100%不要とか、100%絶対はない。みんな大事だけど許せる範囲でそのことを重視しよう、ということだと思うのです。ないと困るけど、あるからといって絶対視しないというぐらいでしょうか。そうか、結局、完璧主義はやめましょうっていう話になってしまったのかな。
 正しいか正しくないか、善か悪か、方針に合致しているかいないかなどについてはっきり白黒つけるのは、考え方のレベルとして低位にあると思います(*2)。白か黒か、1かゼロかじゃなくて、その間にもたくさんのものがある。その中で、プロジェクトが安心安全で、お互いにケアしながら健康にするためにはどうしたら良いかをみんなで考えて、実行していくことが重要なのだと思います。
 こういうことができるようになるための心の支えが、方針やビジョンであると。だから大事で、少なくとも「ないよりまし」だと思いたいです。「お互いをケアするための方針やビジョン」と考えたいのです。プロジェクトで、「偽善くさいな」と思う奴がいても、それを非難しないで、ちょっとずつやっていくってことが大事。たとえ偽善くさくても、他人の目は気にせずに、自分で周りをケアしていこうかなって再認識しました。
 なんだ、結局、やっぱり方針やビジョンは大事ってところに戻ってしまった・・・。

参考文献
*1:「偽善入門―浮世をサバイバルする善悪マニュアル /小池 龍之介 (著)」
*2:「ジーパンをはく中年は幸せになれない/津田秀樹(著)」

 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「なるほどね。楠木さんって、前にも方針について書いてくれてたよね。本人はすっかり忘れていたらしいんだけど(笑)。方針をかかげてメンバーを引っ張るって、相当チカラがいることなんだよねー。」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「引っ張るって、力がいるよね。特に最初に動き出すまでの大変さときたら!」
は:「しかも、引っ張る側は一生懸命だけど、引っ張られる側はイマイチ何で引っ張られるかわかってないっていうか。」
も:「そうそう!あのさ、例えば、何か食べたいなーって思った時に、カレーの匂いがすると、あ、カレーもいいなって思うじゃない?今回の話は、そういうもんかなって思っちゃった。」
は:「カレーの匂い?」
も:「うん、ちょっとしたきっかけで方向が決まりやすくなるっていうか。理屈付けしてカレーを食べようって訴えるより、匂いの方がくすぐるっていうか。」
は:「なるほどね。・・・なんか、分かったような分かんないような・・・。でも、確かに肩に力を入れて引っ張るより、匂いを漂わせた方がそっちに動きやすい感じがするね。」
も:「でしょ!ビジョンを掲げて引っ張らねば!って思うと、肩も凝るし、しんどいけど、さりげなくみんながそれっぽい方向を向いてくれると、後ろから押しやすいじゃない」
は:「引っ張るより、押す、かぁ。さりげない方向付けがポイントだね。」
も:「方向だけに、芳香・・・笑。」
は:「え〜、それはちょっと・・・笑。」
も:「楠木さんは肩凝りで眠れないから安眠枕を買うって言ってるけど、枕にホウコウ作戦をプラスしたら、ばっちり肩凝り解消やね!」
は:「熟睡しすぎて仕事に遅刻しそう!笑。私も枕を買いに行こうかな〜!」


 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバー。IT企業の技術職、教育企画部門を担当後、現在はスキルや人材育成の研究職に従事。長年にわたり、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けて下さい」と「華やかな恋」。当コラムの編集チームの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。本業ではIT企業の人材育成企画と並行してPMOを担当。現場を走り回ってます。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
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