PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (51) (実践編 - 8)

向後 忠明 [プロフィール] :1月号

 <シンガポールエチレンプラント建設:続き ②>
 現地調査、シンガポール政庁との会議、計画書の作成、プロジェクトのキックオフ、技術検討と顧客との調整と数度のシンガポール現地での再調査、コスト積算、総予算の確定、一括契約への変更等々を完了し、本格的活動に入ることになりました。

 この時点では既にプロジェクト計画も基本設計も完了し、プロジェクトの具体的な実行に入る段階でした。すなわち、詳細設計、調達、機器材送り出し、現場設営、建設といった作業です。
 プロジェクトチームの仕事は上記のそれぞれの作業が遅滞なくかつ間違いの無いように関係各所での作業を計画通りに、そして問題があればそれを是正することが仕事です。
 そして、さらにその作業の工程の中で飛び交う図書類の迅速・正確に関係各所に間違いなくスケジュールに従い配布することも重要な仕事です。
 すなわち、以下がプロジェクト計画に従ったプロジェクトチームが行わなければならない業務です。
スケジュール管理と是正処置
技術上の品質管理と是正処置
仕事の範囲の逸脱とその是正処置
仕事の進捗に合わせたリソース管理
上記に関連するコスト管理と是正処置

 もちろん、その結果は毎月のレポート(いわゆるマンスリー報告書)に示して、顧客に提出するといった義務もありその作成も必要となっていました。

 なお、プロジェクトチームがやらなければならに上記に関連する業務のモニタリング&コントロール詳細についてはゼネラルなプロ(21) (22) (23) (24) 及び(25) にて説明しているのでそちらを参照してください。

 特にプロジェクトスケジュールについてはプロジェクト全体を俯瞰するマスタースケジュールがあり、各プロジェクト担当のスケジュール情報をもとにプロジェクト全体のスケジュール総合管理をするプロジェクトスケジュールコントロラーと言った職種を置いていました。
 オンサイト及びオフサイトを一つのシステムとしてプロジェクトを総合的に見るスケジュール管理を任された職種です。

 このようにプロジェクトチームの業務は上記の①~⑤に示すようなものが主なものでした。
 しかし、①~⑤に示す作業の原点となるプロジェクト関連図書が正確に必要な所に的確に配布するといった重要な仕事もプロジェクトチームにはあります。
それはドキュメント管理です。
 プロジェクトが大きくなればなるほどそこで作成される図書類は膨大なものになり、その1つでもかければプロジェクトに支障をきたすことになります。
 また、コミュニケーションに関する管理も重要となります。

 このプロジェクトではこのようなことを考慮し、コーディネーション要領と言う手順書も作成し、図書類やコミュニケーションに支障が出ないように契約書の一部として準備しておきました。
 このことは先月号のゼネラルなプロ(50)(実践編-7)での以下の説明です。

 「過去の大型プロジェクトでの事例そして先輩や上司の助言を得ながら、筆者なりの識別手順書を作りました。この時は設備にかかわらずプロジェクト仕様書や技術図面、連絡文書、会議手順、議事録作成等々の図書類まで識別についてもまとめました。」

 もちろん、この手順書には識別に関するものだけではなく詳細な図書類の承認権限、やり取り手順、会議の種類と開催頻度及び議事録作成、報告書作成、そして機器/図書類の識別番号付与要領等々が示されています。

 大きなプロジェクトではこの手順書がないとプロジェクトそのものが混乱することになるので早めに作っておきましたが、実際の業務に入ってみると膨大な量の図書類が各所から作成・配布され、少しでも気を抜くと関係各部門からクレームが飛んでくることになりました。
 本プロジェクトでは早々とこの手順書を作っておいたのでそれほど大きな混乱もなく上記に示したプロジェクト管理5要素の活動に大きな齟齬もなく的確に運用することが出来ました。
 一方、本社サイドの作業が進むにつれ、シンポール側の現場も仮設事務所も建設され、必要なスタッフもスケジュールに従い派遣され、順次必要な作業が開始されました。
 この時期になると現場からは土木/基礎関係の図書類の送付と業者の選定を急がされることになります。
 本社サイドではいろいろな事情から作業の進捗にずれが発生することも多々ありますが本プロジェクトでもスケジュールの遅延が発生しました。
 このため、業者の選定作業が急がされ、既に入札にて技術的審査の終わったもので予算的に問題の無い業者を通常の手順を省いて選定したりして何とか現場作業を遅滞なく始めることが出来ました。
 この時思ったことは、スケジュール上にてクリティカルパスとなる設計、業者選定そして現場土木工事にもう少し余裕を持っておく必要があったと反省しました。
 もちろんこの時、この問題となりそうなクリティカルパスについてはスケジュールコントローラとともに見直しを行い、スケジュールの全体調整も行いました。

 現場が本格的に動き出すとスケジュールに従い人、物の派遣または送り出しという事がプロジェクトの仕事として発生します。
 その為、順次関連機器材料の調達及び現場への搬入という事になります。この時に重要なのがプロジェクトチームと調達部門との連携です。なぜなら、プロジェクト担当も調達仕様書の作成から入札、発注、発注後の工場での品質チェックそして搬出といった工程にも調達部門とともに関与します。
 また、本プロジェクトの現場は海外であるので、調達や機材の搬送は国内だけではないのでその搬送には貿易実務の知識がないと問題となります。一般的にこの作業はフォワーダーと言う業者にまかせますが、その搬送にかかわる仕様書の作成やその結果のモニタリングも必要となります。
 筆者はこのプロジェクトを通して機器材の調達にその役務にかかわるエクスぺダイティング(製造メーカの納期に対する工程管理)や機器材の検査(メーカに対する品質検査)も調達部門との連携で仕事を進める等のことを初めて経験しました。
 フォワーダーとの関係では貿易に関する実務も経験し、海外でのプロジェクトでは必ず必要なプロジェクト担当としての知識であることも学びました。
 その他、業者との契約に関する一連の流れや作業の内容も多くの業者とのやり取りの中で実践することもできました。

 すなわち、具体的にはプロジェクト計画に従って①調達手順の確認②引き合い書の作成③引き合い、見積もり入手④評価、確認、契約・発注、⑤業者よりの図書類の照査、承認⑥工場検査、受け入れ検査⑦輸送、保管(海外への搬出にはここで貿易に関する実務が必要)等の作業が上記で言う作業内容でした。

 これらの業務はそれぞれの担当や業者に任せてしまう場合が多く、筆者もこのプロジェクトに従事するまではそれほど深く関与したこともありませんでした。しかし、このプロジェクトで、この業務が日本側作業と現場作業との接点であり、プロジェクトの工程では最も重要な部分であることに気づかされました。
 また、関連業者との良好なコミュニケーションがこの時に醸成され、良好な環境つくりの期間ともなり、プロジェクト成功の要素となったと思います。
 特に、本プロジェクトで新しく得た知識としては海外にいてプロジェクトを実行するために必要な貿易に関する知識であり、これまで全く知らなかった分野であり、これまで誰がどのようにしているのだろうと思っていました。
 この知識は建設場所と機器材の製造・搬送をつなぐ重要な工程であり、海外プロジェクトを志向するプロジェクトスタッフには必須の知識と思うようになりました。

 しかし、実際はフォワーダーに任せたままとなり、これまでは実質的にこの役務への関与をあまりしていませんでした。しかし、この役務はこれからのビジネスのグローバル化を考えた場合、筆者はこの役務をもう少し真剣に立ち入り、人任せにしてははまずいとこのプロジェクトを通して考えるようになりました。
 参考に、工場搬出から現場までの流れを以下に示します。(筆者の「ワンランク上のPMをめざして」から抜粋)

工場搬出から現場までの流れ
工場搬出から現場までの流れ

 もちろん、上記以外に必要となる知識はありますが、ここに示したのは輸送から保管までの流れの一例であり、詳しくは関連図書にて学んでください。

来月はいよいよシンガポールの現場に話が移ります。

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