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「エンタテイメント論」(83)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] 
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エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●読者への質問
 エンタテイメント論(79)で、理性と感性の「位相転換」に関して読者に質問した。前者の理性の質問には同論(81)で答え、後者の感性の質問には同論(82)で答えた。しかし同論(80)のアナロジーの活用という④発想促進法の説明以降、同法の議論を進めていない。ついては本論(83)で発想促進法⑤を説明したい。

●発想促進法⑤
 ⑤優れた発想は、考え続けた末に「直感」の形で突然生まれる。「優れた発想」のためには、一にも、二にも、意識的にも、無意識的にも考え続けることである。無意識的とは、本人が寝ている時、頭脳が考え続けていることを意味する。

 古今東西の科学者、工学者(技術者)、事業家、芸術家は、何故、独創的なアイデアを思い付いたか? 彼らは、異口同音「考え、考え、そして考え続けた」からだと答えている。考え続ける「動機」となる「夢」があれば、考えること自体が楽しくなる。

 夢が実現し、成功した状況を描く。その結果生まれる効果も描く。「夢工学」は、前者を「状況仮説」、後者を「効果仮説」と定義する。この「仮説」は実現すると信じて良い。仮説とは、「夢」でもあるが、単なる「夢」ではない。具体的な仮説である。この仮説によって考える必然性が高まり、ますます考え続ける。考える続けた結果、「優れた発想」が生まれる。その結果、ますます考え続ける。そして「より優れた発想」が生まれる。誰でも、考えれば「優れた発想」は生まれる。その事実を知らいないだけである。

●アイデアの評価(選択と排除)
 頭脳は、意識的又は無意識的に有用・有益なアイデアを「選択」し、無用・無益なアイデアを「排除」する。

 数学者・ポアンカレは、「アイデアの組み合わせは無限にある。しかし有用な組み合せを選択し、無用な組み合わせを排除することを無意識に脳が行う」と指摘している。この指摘は、数多くの学者も主張し、証明している。

 筆者は、新しいアイデアを考えたり、新しいプロジェクトを企画した時、朝起きて、昨夜考えていたアイデアがダメで、一昨日捨てたアイデアが良いと気付いたことが度々あった。寝ている内に脳が勝手に選択や排除したためだ。上記の学者の証明など無くても、筆者と同じ経験をした人は多いだろう。

 数学者ポアンカレは、「審美眼」が選択や排除を行う上で重要な働きをすること。同じく数学者「ベン・ローズ」は、発見、発明には「科学的評価」の他に「美的感覚評価」が重要であると指摘している。

 上記の審美眼は感性の働きを、美的感覚も感性の働きをそれぞれ意味する。理性の働きだけが最も支配していると一般に思われている「数学」の世界で、「感性」の働きがなければ、「優れた数学的発想」、「優れた数学的発見」が生まれないという事は驚きである。

 この事実は、我々が新しい事業を構築し、その意思決定をする時、事業採算性という理性的判断のみ頼っては、優れた事業を生み出すことは出来ないことを意味する。日本が過去20年間、優れた、世界に誇れる商品、製品、サービス、事業を生み出すことが出来なかった本質的問題は、多くの経営者が感性的評価を無視し、事業採算という理性的評価のみを重視したことにあると云えるかもしれない。

●直感は人類に備わった安全弁
 アインシュタインは、「直感は神の神聖な贈りもの、理性は忠実な僕(しもべ)」と直感の存在を極めて重視している。将棋の羽生名人は、「直感を信じて勝負し、勝つことが極めて多かった。直感の70%は正しい」と直感持つ高い信憑性を主張する。

出典:Yahoo USA アルバート・アインシュタイン 出典:Yahoo Japan 羽生 善治 将棋名人
出典:Yahoo USA
アルバート・アインシュタイン
出典:Yahoo Japan
羽生 善治 将棋名人

 直感とは、我々の頭脳が直面する危機から救い、正しい行動を促す「太古の昔から人類に備わった安全弁」ではないかと筆者は考えている。何故なら直感を信じたことに依る好結果の事例が世にあまりにも数多く実存するからである。また「直感」が重大な科学的発見のヒントになった事実も数多く報告されている(紙面の関係から説明省略)。従って「直感」を信じ、使わぬ手はない。

出典:Yahoo USA 直感のイメージ画 出典:Yahoo USA
直感のイメージ画

●夢工学も、本発想法も、「直感」から生まれた。
 「夢工学」は、筆者の直感から生まれた。同時に湧いた直感を信じて、家庭再建を成功させた(参照:夢をプロジェクトで起ち上げる法の著書)。

 「直感」は、検討に検討を重ね、悩み悩んだ末、突如、先方の方から、こちらに向けて訪れて来る。誰しも経験した事であろう。経営の危機の瀬戸際で「直感」を信じて意思決定したことが危機を脱出させたり、事業を成功に導いたケースが数多く報告されている。

 「直感」は、左脳からか? 右脳からか? どちらの脳から生まれるのだろうか? 多くの学説では、右脳の働きと言われている。感性の働きは重要であることが「直感」の事例からも分かる。感性の働きを強化するためには、音楽、絵画、映画など趣味や遊びをエンジョイし、芸術も嗜むことである。

●アイデアはいつ思い付くのか?
 アイデアは、「何が」契機で、「いつ」生まれるか。誰にも分からない。古今東西の多くの科学者、工学者、事業家、芸術家は、「ある日、ある時、ある事を契機にアイデアが閃いた」と異口同音に語っている。このひらめきの瞬間を「幸運の偶然(セレンディビティー)」とか、「運」で表現されることが多い。しかし「ひらめき」を誘発したのは、「考え続ける」ことをしてきたからである。

>最新の脳科学は、以下の事を証明している。
「脳」は起きている時も、寝ている時も、心臓の様に自発的に活発に活動している。
強制的に、意識的に、発想しようとしても効果がない。
考え続けると、突如、向こうの方からこちらにアイデアが飛んでくる。
ひらめきは「いつ」来るか予測できない。しかし間違いなく「ひらめき」の瞬間がある。

 ポアンカレとエルムホルツは、「発見モデル(下記)」として、①没頭期、②潜伏期 、③啓示期を経て発見が現れると説いている。経験的にも納得が行く学説である。

発見モデル

●優れたアイデアが閃いた瞬間
(1) アルキメデス

 アルキメデスは、風呂に入り、湯船から湯が溢れ出た「瞬間」、ある事を発見(思い付いた)した。
湯が溢れ出た瞬間の逸話は、本当か否かは分からないが、自分の体が軽くなったと感じ、自分の体の体積分の湯が溢れ出たと気付いた。彼は、そこから「浮力の原理」を発想し、「黄金の冠」を傷つけることなく、100%黄金製でなく、一部金以外の金属の混入している事を証明した。

(2) ニュートン
 ニュートン(数学者、自然哲学者)は、リンゴが落下する「瞬間」、リンゴを地球が引きつける力を感じた。一方月が何故地球に落ちて来ないかを考えた。そして「万有引力の法則」を発想した。リンゴが落ちる逸話は、彼が自身が書物に書き残しているため「実話」である。

アイザック・
ニュートン
1642~1727
アイザック・ニュートン 1642~1727 アルバート・アインシュタイン 1879~1955 アルバート・
アインシュタイン
1879~1955

(3) アインシュタイン
 アインシュタイン(理論物理学者)は、ひらめきの「瞬間」に関して、筆者の知る限り、述べていない。彼は、その瞬間を内心で感じていたのではないだろうか。誰か彼の「瞬間」を知っている人がいれば教えて欲しい。

(4) ポアンカレ
 ポアンカレ(仏・数学者、数理物理学者、天体力学者)は、散歩の後、馬車に乗る「瞬間」、この定義に使う関数は非ユ―グリッド幾何学のそれと同じだと気付き、数学上の基本原理を発想した。彼は、エルムホルツと共に「発見モデル(既述済)」を提唱し、数々の発想論でも有名。

ジュール・アンリ・ポアンカレ
1854~1912
ジュール・アンリ・ポアンカレ 1854~1912 リサ・ランドール 1962~ リサ・
ランドール
1962~

(5) リサ・ランドール
 リサ・ランドール(ハーバード大学・物理学教授、素粒子物理学者、宇宙論者)は、ハーバード大学に通じる橋の上でキラキラ光る川の流れを見ていた「瞬間」、5次元の世界の存在を示す数学的証明方法を思い付いた。彼女の5次元世界の実存を証明する実験がパリ郊外にある「超大型粒子加速器」で行われている。アインシュタインの「夢」の実現かも?

(6) ケクレ
 ドイツの科学者ケクレは、6人の小人が輪になって踊る夢を見た。これを契機に「直鎖式化学物構造」から「環状構造のベンゼン環」を発想した。

つづく

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