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「エンタテイメント論」(80)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] 
  Email : こちら :11月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●発想促進法 ④
 ④ 優れた発想は、万物と万事の中の「アナロジー(等価性、類似性)」を活用し、「新しい結合や分解」に依って生まれる。


 自然界、生物界、人間界に数多くのAnalogy(等価性、類似性)が実存する事を以下で説明する。このアナロジー(Analogy 類似)を活用することが発想の第一歩である。次に新しいものをそれに結合させたり、それから分離させることで新しい発想を導くことが発想の第2歩となる。

 Analogyの活用と云う所謂「真似」は、自然界、生物界、人間界で太古の昔から実践されてきた真実である。本発想法の根幹は、「徹底して“真似し”、徹底して“真似せず”」である。

●ビッグバン後の物質と人間の構成物質は等価
 宇宙誕生のビッグバンから僅か約3分間で、すべての物質の源が形成されたと言われている。この時の超・超高音の宇宙が急激に膨張しながら次第に冷え、約38万年後、「宇宙の晴れ上がり」が起こった。それまでの宇宙は、超・超高温のため電子が飛び回り、光が電子と衝突して直進できず、雲の様に不透明な所謂「宇宙の曇り」の状態であった。

 その宇宙が晴れ上がり、宇宙温度が3000度まで下がると、電子は原子核と結合し、「原子」を構成し、最初の物質が誕生した。その物質の中で同じ性質の原子が集まり、「元素」を構成し、これが「星」の材料となった。その後、これらの材料が集まり、「星」を形成し、長い年月の末に「地球」が誕生したのである。この地球は、最初、高熱、高圧、高濃縮の所謂「原始の地球」であった。

 地球も冷えるに従って最初の生物が生まれ、長い年月の進化の末、人間誕生に繋がった。ビッグバン以降に誕生した各種の物質の組み合せと進化という自然界の創造の仕組みを経て人間の誕生に繋がったのであるから、人間それ自身、ビッグバンの3分間に等価される。


●心臓とポンプの等価性
 等価の好例として心臓とポンプがある。両者は有機体と無機体の違いはあるが、その基本構造(Form)と働き(Function)は極めて類似している。

心臓とポンプの等価性

●鳥と飛行機の等価性
 鳥は、羽に「揚力」と「推進力」の機能を同時に発揮して飛ぶ。 この同時機能の仕組みをそのまま真似て多くの先人達は失敗した。

 この揚力と推進力の基本機能を真似したが、2つの機能を達成する構造を「分離」し、固定翼の上下にカーブを作り、「揚力」の機能を持たせる一方、エンジンでプロペラを高速回転させて「推進力」に生み出し、その両者を「結合」させて、人が飛ぶことを実現した。鳥の羽の機能を等価し、分離と結合する「優れた発想」が飛行機を生み出した。ちなみに海中の「イカ」は、ロケットと酷似した構造と機能を持っている。しかしロケット開発に際して「イカ」を真似たという話は聞かない。

鳥と飛行機の等価性

●科学的盗用
 人間界で模倣の実例は無数に存在する。「科学的発明や発見は、先人の残した知恵を盗んで組みわせたり、分離したりして作ったに過ぎず、“科学的盗用”である」と言う人物がいる。表現が言い過ぎと思うが、発想の本質を突いている事は間違いない。

●芸術作品に於ける真似と工夫
 レオナルド・ダビンチ(1452~1416)やヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)の優れた芸術作品を後世の多くの研究者が調べた。両者とも先人や同時代の芸術作品に影響され、「真似」ている箇所が数多く指摘されている。しかし彼らは単なる真似ではない。創意を加え、独自の芸術作品を完成させた。

出典:ダビンチ&モナリザ aidobonsai.com 出典:モーツアルト&ソナタK301 music-sheets.com

●ブルネルスキを真似たギベルティ
 フィリッポ・ブルネルスキ(Filippo Brunelleschi, 1377-1446)は、伊国サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のクーポラを建設した。彼が、「遠近法」を発明したと云われている。

 ロレンツォ・ギベルティ(Lorenzo Ghiberti 1381~1455)は、伊国フィレンツエのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂付属の「サン・ジョヴァンニ洗礼堂」の大聖堂の正面玄関に「天国の門」を作った。この時、彼は、ブルネルスキの「遠近法」を真似たと言われている。

ブルネルスキは、自ら創った「遠近法」ででサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂を建設 ギベルテはブルネルスキの遠近法を真似て「天国の門」を作った。

●「ブルネルスキの卵」を真似た「コロンブスの卵」の逸話
 アメリカ大陸(西インド諸島のサンサルバトル島)を発見したコロンブスの有名な逸話「コロンブスの卵」は、作り話ではある。しかし「固定概念を破って最初に新しい事をすることは至難である」ことの例示によく今も使われる。このコロンブスの卵の元ネタは、上記のブルネルスキの逸話から由来していると言われている。

 ある寺院を建築する建築家選定コンペの「場」で、ブルネルスキだけは、図面を提出せず、建築請負いのオファーをした。他の建築家は彼のやり方を強く批判した。そのため彼は「大理石の石の上に“卵”を立てる事が出来た人物に建築を任せてはどうか」と提案した。しかし誰も立てる事が出来なかった。それで彼は卵を潰して立てた。猛然と彼のやり方を批判し、その提案に反対した。彼は平然と「最初に新しい事をすることは難しい。もし図面を提出すれば、誰しも直ぐに真似するだろう」と反論した。この逸話は本当か? 上記の通り、ギルベルテは、ブルネルスキの遠近法を真似て建設しているので、この逸話も実話ではなさそうだ。

●真似から始まる創造と学校教育
 幼児や子供は、親や兄弟の真似をして育つ。学生は先人の知恵を真似して学ぶ。日本の小~中~高~大学に於ける「真似する教育」は基本的には有意義である。しかし記憶力のより優れた人物が断然有利になる受験選抜方法を改善する一方、本格的な創造教育による創造力育成とそのレベルを評価する受験選抜方法を導入すべきである。

 学問だけでなく、ピアノなどの音楽、野球などのスポーツ、そしてあらゆる事は、先ず先人の、先生の、先輩の真似をして習得することから始まる。発想の場合も、全く同じである。

 誰しも最初「似たモノはないか」と探すだろう。真似することは「恥」ではない。要は真似の対象に実存する良い所と悪い所を掴む。そして対象の本質を掴むことが重要である。それに自分の考えやアイデアを結合させたり、ある事を分離させたりして発想する。これが極意である。昔から多くの人がやってきたことでもある。マネの積み重ねの過程で、新しいアイデアも思い付くのである。

動物も、人間も、真似する。筆者が昔、入手した微笑ましい写真。そのため出典が不明

●真似と創造
 如何に新しい発明といえども、過去や現在の発明の一部が何らかの形を変えて取り入れられている。発想に於いて100%完璧に新しいアイデアが忽然と太陽の下で出現する事実はないことを多くの研究者が指摘している。100%真似ることは、パクリ(盗作)で恥ずかしいコトである。しかし創作の途中過程でマネするコトは、発想のためには逆行した行為ではない。「アナロジー」を活用し、自分独自の新しいアイデアをちょっとだけ加えたとしても、恥ずかしいことではない。

●発想とは、「異質馴化」又は「馴質異化」
 発想は、異質馴化(異なるモノから見慣れたモノに変える発想)または馴質異化(見慣れたモノから異なるモノに変える発想) と云われる。

異質馴化の実例

 異質馴化は、宇宙船に使われた見慣れない「金属」を「テフロン加工のフライパン」という見慣れたモノに変えたこと、馴質異化は、大昔から存在し、見慣れた「階段」を「エスカレーター」という見慣れないモノに変えたことを、それぞれ意味する。

馴質異化の実例

●繰り返す。創造の本質とは「真似して、真似せず」
 「太陽の下に新しいものはない」と昔から言われている。その通りである。

 繰り返す。完全無欠の新しい発明は存在しない。人間の子も、動物の子も、真似することで成長すること。成長する課程で親とは違う個性が育つ。真似をしても、最後は真似しない自分に育つ。創造も同じである。「真似して、真似せず」が本発想法の主張する「発想の極意」である。

つづく

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