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「エンタテイメント論」(82)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] 
  Email : こちら :1月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●読者への質問
 先月号のエンタテイメント論(81)で理性の「位相転換」に関する質問に答えた。しかし下記の感性の「位相転換」に関する質問には答えていない。

 先ず、「感性の「位相転換」に関する質問」を再度、記載し、その上で答えを下記に説明する。
 「感性で感じられ、異次元の世界に飛翔する世界とは、具体的にはどの様な世界を意味するか? 答えよ! また敢えて1+1=?の数式に表せば、「?」の値は何か? 答えよ! 固定観念や先入観を打破すれば、答えられるかも? これはトンチの質問ではない。真面目な質問である」。

●感性(右脳思考)の位相転換は、1+1= ∞の世界を感じること
 先ず、質問の数式の答えは、無限大 = ∞である。感性で感じられ、異次元の世界に飛翔する世界は、無限の広がりのある世界を意味するからである。言い換えれば、その様に飛翔しないと、優れた発想は生まれないということを意味する。

 左脳思考に凝り固まった人物は、右脳思考を抑圧し、自由発想を妨げる。最近の「脳トレーニング」は、左脳訓練ばかりしている。小中高大と嫌というほど左脳訓練と記憶訓練を受けた人間にこの種の「脳トレ」をする意味があるのか。はっきり言わせて貰う。計算訓練、記憶訓練などの脳トレは時間、労力、費用の無駄使いである。やりたい人はやればよいが、優れた発想を生むためには殆ど効果は無い。

 本発想法の実技指導では、一応簡単な左脳訓練を紹介している。しかしもっと重要な「右脳訓練」を重視し、更に重要な「両脳バランス訓練」を教えている。感性発揮(右脳思考)の位相転換は、上記の通り、1+1= ∞という世界を飛び回ることである。以下に実例を交えて説明する。

 なお感性機能を発揮する「右脳」は、空間認識思、パターン思考などが得意。世界最高最新のコンピュータでも、幼児が認識するパターン認識すら真似出来ない事を知っている人は少ない。

●子供時代の追想的「位相転換」
 子供の頃を思い出して欲しい。無理かもしれない? ならば想像して思い出す様にして欲しい。「夢」の世界を飛び回る「感覚」で自由発想をする。「優れた発想」が生むためには、感性がほとばしる様な「感覚」で、いくら奇想天外でも構わない。

出典 左:Yahoo USA 右:Disney com
出典 左:Yahoo USA 右:Disney Com

出典 両者ともanpop.com/image
出典 両者ともanpop.com/image

●絵画的「位相転換」
 写実と幻想(Reality & Fantasy)の世界を表現した下記の絵画を見た時又は自ら空想の世界を絵を描いた時などに感じる「感覚」で自由発想すると「優れた発想」が生まれる。

出典:牧野邦夫(1925~1986)未完成の塔(写実と幻想の同時・同質の追及実例) 出典:牧野邦夫(1925~1986)
未完成の塔(写実と幻想の同時・同質の
追及実例)

●囲碁的「位相転換」
 囲碁は、チェスや将棋よりも複雑で、考える局面数は、2の360乗である。世界最高最新のコンピューターでも局面調査は不可能。

 囲碁の全体戦と個別戦の関係認識、局面の把握など、真剣勝負時の究極の1手は、右脳による「パターン認識」とそれを支える「直感」と言われている。理詰めの理性思考では囲碁の真剣勝負は勝てない。思い切った局面打開の1手は、まさしく「位相転換」の一手である。この様な感覚で「自由発想」をすると「優れた発想」が生まれる。

出典:いずれも 囲碁 Anoword Com
出典:いずれも 囲碁 Anoword Com

●音楽的「位相転換」
 ジャズ音楽のアドリブ演奏を聞いた時又は自らアドリブ演奏する時などに感じる「感覚」で自由発想する。絵画、写真などと異なり、音楽は、形がなく、手にとれない、最も抽象度が高いもの。

 ジャズ音楽に限らず、音楽なら何でもOK。最も抽象度が高い音楽を聞きながら想像することは自由度が最も高くなり、飛翔度も最大値となる。「優れた発想」を生むには音楽が最適である。

出典:Yahoo USA 出典:Yahoo USA

●自己変身的「位相転換」
 趣味、道楽などの分野だけでなく、ビジネスの分野、研究分野、日々の生活分野で幾らでも「位相転換」の機会がある。しかし最も困難な位相転換は、自らが「変身」することである。これが出来れば「優れた発想」は更に容易になる。自己変身こそ究極の「感性の位相転換」である。

 自己変身によって「優れた発想」どころか、新しい伴侶が見つかったり、新しい職場が見つかったり、新しい人生が見つかったりする。

出典 Transformer AwrTcXIDDJRUzOUA

●感性の位相転換で成功した実例 「ゴリラの鼻くそ」
 「ゴリラの鼻くそ」という黒大豆甘納豆の商品がある。本稿で以前紹介したことがある。本稿を読んだ下記の開発者・岡社長から筆者は電話を受けた。筆者として光栄の至りである。今も元気で活躍されていることを期待している。

 口に入れる食品は、「気持ちが悪い」と思われたら絶対に売れない。この「絶対原則」に敢えて挑戦し、「ゴリラの鼻くそ」の商品名の菓子を作った。まさしく「感性の位相転換」である。

 驚いたことに、この商品は、日本国内の動物園の売店で常に販売ランクの上位の商品。しかも平成13年で発売以来、累計300万袋を売り上げたヒット商品。考案者は、黒大豆甘納豆の製造販売の(有)岡伊三郎商店(島根県出雲市)の岡和正社長。黒大豆甘納豆のしわしわの粒をみて、「落語好き」の社長が思い付いた。

 彼はネーミングの奇抜さにだけに頼らず、当該商品を開発後、動物園をターゲットにして日本全国の動物園の売店とその販売システムの情報を詳細に収集し、分析し、ターゲットの売店とその卸業者を一社づつ訪問する営業活動を展開した。

ゴリラの鼻くそ


 動物園でゴリラを目の前で見た観客は、ゴリラの目、表情、動作などを興味深く観察し、「面白さ」、「不思議さ」などの様々な印象を必ず持つ。その観客が今見た「ゴリラ」の「鼻くそ」という名前の商品が売店で売られているのを見れば、誰しも「吹き出す(笑出す)」。そのため「気持ちが悪い」という感覚が吹っ飛んで、「笑い」の効果によって自然に「ゴリラの鼻くそ」に関心を寄せる。

 一方この「鼻くそ」の食品は、誰もが一度は食べたことがある「黒大豆甘納豆」である。従って嫌いな人でない限り、食べたいと思う人は、既に商品内容を納得し、「面白い」と感じて買う。この商品は、動物園だけでなく、行楽客が立ち寄る高速道路サービスエリアでも売られている。

●感性の位相転換で成功した実例 「ポストイット」
 米国3M社の研究者スペンサー・シルバーは、1969年、「接着力の強い接着剤」の開発依頼を受け、ある試作品を作り上げた。しかしキチンと付着するが、簡単に剥がれた。失敗作と落胆した。

 3M社に勤務時間の15%を自分の好きな研究に使ってよい「15%ルール」があった。シルバーは、失敗作を手に、落胆した気持ちを振るいたたせ、所謂「感性の位相転換」を行い。この失敗作を生かす方法はないか? 社内を聞いて回った。

 それから5年後の1974年、同社のアート・フライ(右)は、某教会で唄っていて、讃美歌の本のページをめくった時、「しおりの紙片」を落とした。その瞬間、シルバーの接着剤を使えば、「貼ったり、剥がしたりできる、しおり」の開発を思い付いた。

 この2人は、「15%ルール」を利用し、会社の設備を使って、遂にポストイットの源になる試作品を成功させた。ポストイットは全世界に広まった。

スペンサー・シルバー(左) アート・フライ(右)

つづく

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