PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (164) (プロジェクトマネジメントと契約)

向後 忠明 [プロフィール] :6月号

 いよいよ今回は事業間の投資を含む契約事項にかかわる話となります。このケースは各企業がお互いに出資することにより、プロジェクトまたは事業を公共機関から受注し、プロジェクトまたは事業を立ち上げるものです。この場合、各企業が一定割合の出資をして法人格を要する合弁会社または組合を設立し、この組織を主契約の当事者として事業運営またはプロジェクトの実行を行わせる契約です。
 読者諸氏にとってはあまりなじみのない形態の契約ですが、一般的に資金的に困難な発展途上国の公共事業等のインフラ事業やイノベーティブな新規の事業に利用されることも考えられます。
 主契約の当事者となる事業体はこの目的のために設立され、その事業目的のため特別目的会社SPC(Special Purpose Company)と呼ばれる会社を設立します。
 ただし、SPCは構成する各出資企業により、別法人として設立されて事業を推進するものであり、一般の建設やシステム開発等々の請負を目的としたコンソーシアムやジョイントベンチャーとは異なります。
 この方式は出資を前提とするので、この種のプロジェクトを一般的にPFI(Project Financial Initiative )と称し、公共事業を対象とすることが多いのでPPP(Public Private Partnership)とも称されています。
 この組織の目的はその対象となるプロジェクトの完了すなわち目的とする投資に見合う利益を得ることにより解散となるのが一般的ですが事業の内容によっては投資家または公共側の事情により継続することがあります。よって、このケースは一般的に長期のプロジェクトとなり、対象となる設備又はシステムの規模も大きくそのために要したコストと運用益の関係すなわち費用対効果を明確にし、出資やそれに伴う株式の持分割合、そしてSPCに対する金融機関への保証等々を考慮しなければならないといった多くの課題を解決しなければなりません。
 以上に示すような方式での形態をとることから、設立される会社(SPC)は当然事業会社ということから一般の事業会社と変わらず企業会社設立や運営に必要な組織、体制、条件など合弁契約に準じた設定をする必要があります。
 その一例を筆者が実際経験した事業として海外の電気通信事業があります。この事業は各国の通信事業会社が出資を行い、国営の通信会社の通信設備の更改、新設を行うものでその設置エリアはインドネシア中部ジャワ全域であり、面積にして日本の四国に相当するかなり広大な現場となるものです。そのためどのように広大な通常のプラント建設とも異なりその工事管理や運用の難しさは通常のプロジェクトとは異なります。
 また、このSPCの出資者は3か国で、オーストラリア、日本、インドネシアであり、各国の事業者がそれぞれ出資を行い、インドネシア国の国営通信会社と共に必要回線や関連設備の設置、建設を行うものでした。
 このためにこの事業を推進するため国営通信会社との話し合いにより各国の出資者にて本事業の推進母体として合弁事業会社すなわち特別目的会社(SPC)を設立し、出資割合に応じて責任役員を送り込み、本事業を推進することになります。
 以下に示すようにSPCの内部組織は各国の出資割合及びそれぞれ得意技術分野による役割分担を設定しました。
 この会社の主要組織は設備建設部門であり、この部門は目的会社の目的である設備の期間内完成のほかにその運用も含まれるので、この運用は契約により国営通信会社と一定期間共同で行うこととなっていて、その協力のため国営通信会社にも出資会社より人材を派遣し、運営支援を行うことになっています。
 この会社の目的は予定通りに必要設備と回線を設置、そしてなるべく早く運営を開始し、投資回収することです。そのため構成出資者の中で建設本部(赤字部分)がこのSPCでは最も重要な組織であり、日本企業がこの部分を請け負うことになりました。
 以下にSPCの全体組織体制と建設本部の組織を示します。

SPCの全体組織体制と建設本部の組織

 この組織を見てもわかるようにこの事業は建設本部のマネージメントの良し悪しで本事業の成功か不成功が決まるといってよいと思います。
 この組織は3か国からなる多国籍プロジェクトであり、この組織の中心となる建設本部内の人間関係や各国のビジネス習慣の違いから多くの問題も発生しました。
 その経緯はすでにオンラインジャーナル(ゼネラルなプロ67から71)にて詳細に述べているのでそちらを参考にしてください。
 上記の参考資料からもわかるように多くの失敗やその各種是正処置によりある程度の成績を上げることができましたが、この仕事での多国籍人材を含むマネージメントの難しさを初めて学びました。
 ここまでの話は建設本部の仕事についての話ですが、この事業は常にファイナンスの問題がクローズアップし、例えば投資がドルに対して収入がルピアであり、この事業中に東南アジアでの為替ショックといった事態が発生し、それに従いルピアの暴落が始まり、その対応のため建設本部の戦略企画と財務部が大変苦労し、頭を悩ますことになりました。
 この事業をPFI と言っているようにファイナンスも重要な要素であり、この点についてもいろいろ注意を払わねばなりません。
 今回はファイナンスについても話をする必要がありましたが、次の機会とし、少し前月号での戦闘機開発のことについて、最近の情報を加えて勝手に想像してみたいと思います。

 例えば前月号にて説明した第6世代戦闘機開発の話に戻りますが、業者本件は上記の電気通信プロジェクトと異なり、資金は各国政府が出資し、そのもとにGICOといった政府機関同士のジョイントベンチャー(共同事業体)を設立し、その中に運営機関と実施機関といった組織を作ります。この関係を図示すると以下のようになると思います。

GICO 政府機関同士のジョイントベンチャー(共同事業体)

 多分このGICOがこれまで説明してきたSPCに相当するものになると想像できます。
 この中に運営委員会と実施機関が設置され、この実施機関が各民間業者との契約やマネージメントを行うものと思われます。
 運営委員会の役割は実施機関に対する指導・監督であり、また実施期間は進捗報告を運営委員会に報告する義務を持ちます。
 このようにそれぞれの役割や組織を見るとインドネシアにおける事業の組織形態とよく似ています。異なるところは国が予算のすべてをまかなうことになり、インドネシアは民間の投資であり、この部分が異なるように思います。
 いずれにしてもこの事業も多国籍であり投資が各国の出資であることから、特に実施機関が全体のマネージメントの責任を負うことになると予想される。この実施機関のトップマネジメントの責任は大きく、筆者の経験からも相当の企業経営とプロジェクトマネジメント能力が要求されることになると思います。
 筆者の経験から見てもインドネシアのPFI 事業の事理から見てもこの戦闘機開発事業は一種の新規事業の立ち上げに類するものであり、その上お互い先進諸国同士の多国籍群でのプロジェクトであり、全体をマネージメントするプログラムマネジャにはかなりの高度なマネージメント技量が求められることになるでしょう。
 成功を祈るばかりです。

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