PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (67) (実践編 - 24)

向後 忠明 [プロフィール] :5月号

 インドネシア事業の問題がさらに大きくなりこの件の出張はこれで2度目です。
 この事業は「何で!このように多くの問題を起こすのだろう!」と思いながら、飛行機の中であれやこれや考えをめぐらしていました。
 筆者は、これまでのインドネシアにおけるプロジェクトの経験から、インドネシア人との仕事はどちらかと言うと他の国に比較してやりやすい国と思っています。
 J社そしてNTTでのプロジェクトでの経験からも彼らと一緒にやったプロジェクトはこれほどもめたことはありませんでした。
 本事業で前回インドネシアにきた時の問題はオーストラリア人との関係構築があまりできていないことが大きな原因となっていました。このことを考えると、今回も同じことが原因と考えざるを得ないと思いました。
 今回は本部長からのヒアリングではなく、現場や担当者の意見を聞くことを主目的としました。これによりこの事業での真の問題を探し出し、その対策を考える事としました。
 ヒアリングの最初での雰囲気でもやはりオーストラリア人との関係が以前よりさらに悪化した状態となっているようでした。現場の仕事の遅れを設計の遅れとしてその担当である日本人に責任を押し付けているようでした。
 その上、筆者が建設部長をサポートするオーストラリア人のスケジュールコントローラに直接ヒアリングしても、その説明がシドロモドロでした。現場の進捗管理が全く機能していない状態となっていました。
 その理由は、彼の進捗報告は彼自身の持っているパソコン内のコントロール用バーチャートを利用して行っているもので他の人が見てもわかるようなものではありませんでした。
 また、筆者がこのパソコン内のデータを見て彼に何がどのくらい進捗が進み,クリティカルパスはどこにあるのかを聞いても、細かいチャートをパソコン内から検索しているような状態でした。ましてや、プロジェクトの各部の進捗(設計、調達、建設)の関連もわからない状態でした。
 プロジェクトスケジュールの作成方法にはいろいろありますが、単なるバーチャートでそれも監視する対象項目を多くすればするほどコントロール(モニタリング)が難しくなります。またお互い関係する仕事の連携もわからず、ある作業が終わらないと次の作業ができないといったように多くの作業を必要とするプロジェクトは必ず関係する作業の関連性を示す必要があります。
 このようなことから、設計作業と機材調達の連携がわからず、そしてその結果として、現場作業との連携ができていなかったりしていました。
 次の問題としては建設部門の組織の在り方と役割配分についても問題がありました。
 この現場建設に係る組織は建設部長を頂点として各現場にエリア単位のプロジェクトマネジャ(以降PMと言う)を配置し、その人に現場作業の全責任を与えていました。
 しかし、このPMは本社側にいて各現場にはサイトマネジャ(以降SMと言う)を置き現場はその人に任せていました。
 当然、各PMは現場に出て実際の作業状況の把握もしていないし、そのため現場での進捗や問題については電話かファックスでの報告でしか知ることができない状態でした。
 例えば、Aと言うサイトの問題が発生し、Aサイトの報告がAサイトに責任を持つPMに来た場合、その報告は建設部長に報告されていました。
 ところがこの問題は設計上の問題であり他のサイトにも関係する内容のものであります。しかし、建設部長はその問題を建設部内の問題として処置してしまい、設計部にも相談なく、AサイトのSMにのみその処置を指示しました。
 すなわち、設計図の変更もないまま、他の現場も作業はそのまま続けることになります。このため当然のことながら、同じクレームが他のサイトSMからも上がってきます。
 このようなことが作業が進むにつれてあちらこちらに起きて、現場作業は停滞するし、設計部と建設部の仲もさらに険悪となっていました。このような状態になっても本部長は何も手を打てず、手をこまねいている状態でした。このためオーストラリア人建設部長の強硬な態度へ抗する術もない状態でした。
 一方、建設本部内の設計部、建設部そして調達部に所属している日本人スタッフからのヒアリングでも、このままでは現状を変えることは非常に難しいと筆者も感じました。
 また、調達部長(インドネシア人)と設計部長(日本人)へのヒアリングでも同じ意見でした。
 このまま放置しておくと建設部の問題が全体事業そのものに大きく影響し、この事業そのものが頓挫するのではとの危惧を筆者は持ち始めました。
 何とかしなければならないと思い、問題の建設部長(オーストラリア人)に調査した結果をぶつけてみました。
 彼からの答えは「私は中近東を含め多くのプロジェクトに関与し、成功させてきた。プロジェクトに責任を持っていないあなたからとやかく仕事の進め方を聞く必要もない」とつれない返事で終わってしまいました。
 「これではいくら建設本部長が建設部長に現状の是正を要求して言うことを聞かないなー!」このままではいけないと思い、ホテルに帰ってからこの課題について自分なりに考えました。
 そこで、筆者の独断でこの事業会社に投資しているオーストラリア側の代表に会うことにしました。また、同時にこの事業会社の社長に会って調査した結果を説明し、何とか手を打つようお願いすることにしました。
 そして、今回の調査結果をもとにこの事業会社の建設に係る「現状とその対応策」について以下の点をつたない英語で5ページ程度にまとめました。

スケジュールの遅れとその理由と対策
建設部の組織と各下部組織の担務と役割の問題と対策
ドキュメント管理とその配布手順の問題と是正
プロジェクト全体の業務の品質を保証する手順と対策
建設部、調達部及び設計部間の協調とその方策

 等々を早急にまとめ、翌日スマランから代表が事務所を構えるジャカルタに飛び、オーストラリア側の代表にアポイントメントをとり、会うことにしました。
 そして、筆者のまとめた報告書に基づいて、この事業会社の問題について話をしました。
 この話を聞いた代表は「自分たちの派遣している担当からの報告では設計やその承認行為の遅れが最大の建設スケジュールの遅れと判断している」と言っていました。
 この話を聞いて「やはり!」と思い、早速筆者のまとめた報告書にて現状の説明を行いました。この筆者の報告書を見て、その代表は少し顔を横にまげて????と考え込んでいました。そして、彼が疑問と思うことを筆者に説明し、さらに詳しく調査してほしいと依頼してきました。
 その後、今度はジャカルタからスマランに飛び、この事業会社の社長に会い、同じ説明をしようとアポイントメントをとりました。
 しかし、筆者の立場はあくまでもNTTのプロジェクトアドバイザーと言う立場であることから断られました。
 後で聞いた話ですが、その理由は、以前オーストラリア側のアドバイザーに入札及びその評価そして仕事の進め方等でかなりこの事業会社内部を混乱させたこともありアドバイザー嫌いになっていたとのことでした。
 その後、オーストラリア側の代表の依頼もあり、さらなる独自調査を行い、前回の報告書をさらにブラッシュアップさせNTT本社及びオーストラリア側代表に送りました。

 建設本部長に対しても同じ報告書を提出、説明して、少なくともスケジュールの遅れの対策のための建設本部内の組織変更を早急にするようにその変更案を提出し筆者は帰国することにしました。

 帰国してから筆者の所属するNTTIの社長に報告のためすでに送ってある報告書を基に説明しました。
 ところが、思いもよらない社長からの「すでに私の方からも調査員を君とは別に送っています。その報告書では君の危惧しているような事実は見つかっていない」とのことでした。
 この話を聞いて「びっくりポン」でした。
 そこで筆者は、「この報告書は現地事情をよく知っているオーストラリア側の代表にもすでに説明し、彼からも納得を得られているものです。」と強くその報告書に対して反論しました。そして、「社長の受け取ったその報告書に問題があります。」とはっきり社長に言いました。
 一方、社長への報告をしている頃、インドネシアでは事業会社の投資企業の代表(日本、オーストラリアそしてインドネシア)が筆者の報告書を基に限られた人だけで密室会議を開かれたようでした。
 その結果がNTTIの社長にも連絡され、それにより事の重大さを認識したようで、社長本人も急きょインドネシアに出かけていきました。

 筆者もこれでホッとして自分のやりかけた品質保証部長としての仕事に戻り、いくつかの企業に出かけていき、コンサルの仕事を続けていました。
 このコンサルの仕事はやっていると慣れもあり楽しいものになっていました。
 そのような時に、NTT関西支社(現在のNTT西)よりのコンサルの仕事が舞い込んできました。この仕事はかなり大きなものとなるのでチームを組み、提案書をもって大阪の関西支社に出張しました。そして、ISO9001の説明と今後の作業の進め方についてのプレゼンテーションを行いました。
 このプレゼンが終わったころになって、関西支社の社員から筆者に「インドネシアから電話です。」という連絡が入ってきました。
 その電話に出ると事業会社の日本側投資企業の代表が電話で筆者に対して「すぐにインドネシアに来てください。場所はジャカルタのインドネシア側代表企業の本社事務所です。」
 連絡はそれだけで、筆者は「?????」でした。そして、急きょ東京に戻ることになりました。
 戻るとすぐに日比谷の本社に呼ばれました。そこで、担当者が「インドネシアに出かける際に必要です。」と筆者に書類を渡してくれました。
 内容を見ると想定問答集でした。
 内容は「この事業会社の経営の在り方や現在の問題の解決策に関する経営者としての思考と行動そして会社経営に当たって大事なことは何か!」と言うものでした。

 経営に関する知識についてはJ社にいる頃、興味本位で中小企業診断士の通信教育を受けてその試験にトライしたことがありました。その際の教科書もあったので復習のつもりで読み返しました。
 しかし、何のための問答集かわからないまま、一応その想定問答についての予習をしてインドネシアに再度出かけることになりました。

 次号に続く。

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