PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (68) (実践編 - 25)

向後 忠明 [プロフィール] :6月号

 前号では筆者がNTT担当者に「インドネシアに出かける際に必要です。」と言われ、書類を渡され、その予習をしてインドネシアに行くことで終わっています。今月号はその続きです。

 インドネシアに着いたらすぐに本事業の代表会社であるインドネシア国際通信会社(I社)の本社に来るようにと言われ、宿泊予定のホテルにもいかず直接I社に行くことになりました。
 この会社はインドネシアを代表する国際通信の会社であり、その建物も威容を誇る立派なビルでした。「何のためにこのようなところに呼ばれてきたのか?」その趣旨もわからないまま、このビルの指定された部屋に案内されました。
 部屋に入るとNTT本社の役員と本事業の担当者数名がそこにいて、「早速ですが!」と言って、別の大きな待合室に通されました。
 そこには一人のインドネシア人が何かを待っているような感じでいました。多分I社の人だと思いますが、何やら一人ブツブツ言っていました。
 その人に話しかけてみると緊張した感じでしたが「何も言われず社長にここに来るようにと言われて待っているだけです」とのことでした。
 筆者も同じような事情でここにきていると話をしましたが、途中で彼は秘書らしき人に呼ばれ、どこかへ行きました。
 30分ほどして彼は何も言わずに筆者の声にも耳を傾けず通り過ぎて行ってしまいました。その直後、同じ秘書らしき人が私を呼びに来ました。
 「一体何が起きているのか?」と不安な気持ちで案内された部屋に入ると、大きな部屋に4人並んで座っていて、私に指定された席に座るように言いました。
 そして、おもむろにいろいろと質問をしてきました。もちろん英語です。
 質問の内容はこの4人の人達が出資している事業についての質問でした。
 そして、偉そうなインドネシア人の人(後で分かったのですがI社の社長でした)から
現在、現場で起きている現状とその問題、そしてその解決策についてどのように考えているか?
もしあなたが会社経営の一員だったらこの問題をどのような采配で処理していくのか?
会社経営において一番大事なことは何か?
あなたの専門はプロジェクトマネジメントと聞いているが経営マネジメントとどう違うのか?
 等々、まるで面接試験のようなものでした。
 その後、次々にほかの投資家代表者(現地インドネシア人、オーストラリア人、そしてNTTの役員)に順次質問され、何とか下手な英語で答えることができました。
 そして、その面接が終わり部屋を出て歩いていたところ、後ろからNTTの役員が追いかけて来てI社の社長の面接時での筆者に関する印象を伝えに来ました。彼は「“侍”のような雰囲気を持っている。気に入った」とのことでした。
 そこで、この場を借りて、「今回のこの目的は何でしょうか?」と質問しました。それに対して「実を言うと、君も知っているようにインドネシアでのこの通信事業がうまくいっていない。そこでI社出身の社長と建設及び企画を担当しているNTT出身の役員を更迭することになった。その代わりの人選をしている。」と言うことでした。
 よって、I社の社長の話から君は合格のようなので「その正式な交代の発令を君は受けることになるので明日もこちらにいてほしい。」とのことでした。
 全く予想もしていないことだったので、日本側の筆者の所属のNTTIには何も伝えてありません。そこで「NTTI側には話はしてあるのですか?」と質問したら、彼は「すでに社長も了解のことです。」とのことでした。
 このような経緯で、筆者はこの事業会社の取締役建設兼企画本部長になることになりました。
 とんでもない役割となり、筆者が以前この事業の問題点とその改善策をすでに提出していることもあり、自分で自分を締め付けることになり、全く「天唾」となりました。
 そして、任命された直後にこの事業会社の社長(I社出身のインドネシア人)のところに挨拶に行き、今後の仕事の遅れをどうするかを担当役員として説明しました。
 前回は全く、門前払いになりましたが、今回の筆者の立場はアドバイザーではないので断ることもできず話を聞いてくれました。
 しかし、話をしても何となくこの社長には落ち着きもなく、また筆者の話が理解できないのかただうなずくばかりでした。
 それから、一週間ほど事業部内の関係者を集めて、事業部方針や今後のプロジェクトの進め方などを説明し、一時帰国することにしました。

 帰国してから、これまでのNTTIでの仕事を新たに来たプロジェクト統括と品質保証を担当する部長に引継ぎ、そして今度担当する事業の生い立ちをNTTの担当者から聞いたりして忙しい毎日でした。
 同じような事業をNTTはタイ、フィリピン、ベトナムでもやっていることは筆者もすでに知っていました。しかし、NTT担当者の話では、「これらも何らかの問題を抱えているが、最もひどい事業はインドネシアです。」と言うことでした。
 そして、今度は本格的にこのインドネシアの事業に関係することになるので、この事業に関する契約(コンセッション契約、ジョイントベンチャー契約等々)書類の精査、そして、NTTが本事業への投資を決定するまでの各種資料なども見ました。
 それによると、本事業の全体投資金額も金融機関からのファイナンスや投資家からの資金などの合計が1000億に近い額であり、そのほとんどが設備建設コストであり、筆者の担当する建設事業部が扱うことになります。
 筆者のこの事業での役割の位置づけはすでにゼネラルなプロ (66) (実践編-23)にてその組織図を示しているのでそちらを参照してください。
 すなわちインドネシア人の社長の下にオーストラリア人の運用保守と財務管理の2名、マーケッティングと人事のインドネシア人2人そして筆者の体制でした。

 日本で本事業に関する知識を学び、長期の駐在となることから引っ越しの準備や駐在に当たっての各種手続きを行い、長くなるインドネシアでの生活を覚悟してインドネシアへの機中の人になりました。
 インドネシアについてからは家の確保、引っ越し荷物の整理等をおこないながら、前本部長との業務の引継ぎやインドネシア電話公社への挨拶回り、そして初めての役員会議への出席などで忙しくしていました。
 最初の役員会では前本部長も最後の役員会と言うことで一緒に参加しました。この時の話し合いでも前本部長の発言に対して、オーストラリアの役員は全く無視の状態で、時には彼に罵詈雑言を浴びせたりしていました。筆者もこれには驚きましたがあまりにもひどかったので、筆者は「黙れ!言うことに事欠いて失礼な話し方はないだろう!」と英語で怒鳴りつけました。
 社長はじめ「今度来たこの日本人は何なのだ!」とキョトンとして、その後は失礼な発言はありませんでした。
 この会議の話し合いを通して、異文化の人達から構成される集団での事業の難しさや異質さを感じました。また、皆がこの困った時に協力するというよりも前本部長を責め立てるばかりであり、このような状態ではここで働く従業員にも良い影響があるわけはないと感じました。

 そして、いよいよ本部長としての仕事として、以前筆者が提言した以下の内容に沿って、まずは建設事業の遅れを取り戻す仕事に専念することにしました。

スケジュールの遅れとその理由と対策
建設部の組織と各下部組織の担務と役割の問題と対策
ドキュメント管理とその配布手順の問題と是正
プロジェクト全体の業務の品質を保証する手順と対策
建設部、調達部及び設計部間の協調とその方策

 この提案の中で、まず行ったことは現場の総指揮者である建設部長(オーストラリア人)配下の組織の編成替えを下記のように行うことにしました。
 その理由は各エリア(5エリア)担当の本部付きプロジェクトリーダと設計部とのコミュニケーションの悪さのため、各エリアの現場間での情報共有がなされていないことが理由です。


 もう一つの変更は建設部長のもとでスケジュールのコントロール担当のオーストラリア人を本部長のもとに置くことにで、設計と建設との齟齬をなくすこと、そして建設の進捗だけではなく全体スケジュールの調整を行えるようにしました。
 この、組織の変更に一番反対したのが建設部長であり、かなり強硬な反対とこの新組織に対する批判をほかの本部のオーストラリア人役員を巻き込んで抵抗してきました。
 この建設部長は前々から前本部長からも聞いていましたが、かなり偏屈で自信家であり、自分が一番と言うような人で全く手に負えない人のようでした。
 今回のこの組織編制においても筆者の意見に対して常に反対し、他の件でも協力する態度が全くありませんでした。このままでは今後の事業運営にも問題が起こると感じ、今の時期が一番と思い建設部長の変更を社長に求めました。
 しかし、この社長も生返事であり、どうも白人には弱く何も言えないようでした。そのため、オーストラリア側の投資家の代表に談判することになりました。

 そんな時、投資家達との臨時定例会議が開かれるということで、役員が全員集められました。

 今月はここまで

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