PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (66) (実践編 - 23)

向後 忠明 [プロフィール] :4月号

 前月号では品質保証部でのISO9001の認証取得に関する仕事について話をしてきました。
 この当時、NTTグループは国際化を目指し、電話事業ではタイ、フィリッピン、ベトナム、インドネシア、スリランカ、携帯電話ではアメリカやヨーロッパにて投資を行い、現地キャリア(電話公社)や現地企業と多国籍での組み合わせで事業を進めていました。

 タイの事業は1992年そしてフィリッピンの事業は1995年に筆者が香港にいる時にすでに始まっていました。
 これらの事業はNTTが直接投資を行い現地の電気通信公社や民間の企業と共同で行うものでした。ISO認証取得の作業をしている時もインドネシアの事業は1995年の後半でインドネシアパートナーとの契約が締結され、ベトナムの事業はその後と言うように、NTTは次々と海外投資を増やしていきました。
 このようにNTTが海外での事業投資を増やしている中で、それらの事業の一部を筆者の所属するNTTIに業務支援を依頼してきました。その仕事がインドネシアの事業であり、プロジェクト統括部に話が来て筆者が担当することになりました。

 このインドネシアの事業はNTTが参加できるまで曲折があり、政治的な問題も絡み、混乱したがインドネシア政府の助けもあり、最終的にはインドネシアの国際通信会社、オーストラリアの通信会社そして現地企業が落札した中部ジャワの事業に後から入ったという経緯のものでした。
 そのようなこともあり、投資金額もほかの投資企業よりも見劣りがしたが、オーストラリア、インドネシアそして日本の三か国のジョイント企業での事業としてインドネシア通信公社の了承を得ることができました。

 そして、各グループから代表役員を出すこととなりNTTは主に電気通信設備(電話局建屋及び交換設備、線路設備、伝送設備(光回線)、無線設備、既存設備改修等)の設計業務、調達業務、工事監督、そして戦略企画を含むプログラムマネジメントをやることになりました。
 業務内容は、現在日本政府が多いに推奨している海外におけるインフラプロジェクトです。その事業の方式はPFI(Project, Finance, Initiative)と言った15年間のコンセッションビジネスです。
 この種のビジネスは筆者にとっても初めてのものでした。
 このビジネス方式はイギリスが発祥であり、民間の資金を利用した公共施設の建設運用であり、事業方式にもいろいろあるようです。このインドネシアの事業はBOT(Built Operation Transfer)であり、15年たったら相手国にすべての事業を移転するといったものでした。

 なにはともあれ、この種の事業へのかかわりは初めてであり、本事業の内容と状況を理解するため関連するPFIに関する書籍、本事業の契約(JB契約、建設契約、保証契約等)、株主構成、組織構成等々を勉強しました。
 そして、この仕事はこれまでのプロジェクト業務とは異なった事業運営に近いマネジメントであり、これまでより一段上位のマネジメント能力が必要な気がし、経営学的な知識も必要と感じるようになりました。そのため、この事業の業務全体像に関する上記に示す関連知識の習得を行い、業務知識を深めていきました。
 本事業の初めての仕事として、この事業会社に出向する予定のNTT社員に対する海外業務の心得やプロジェクトマネジメントなどの派遣前研修をNTT本社で行うことになりました。約一週間程度の研修でしたが、その後NTT社員はインドネシアの事業会社に派遣されていきました。

 この頃、筆者はISO認証の取得もでき、時間にも余裕ができたので、インドネシアの支援業務をやりながら、ISO取得で学んだ経験を活かし、各社へのコンサル業務をやっていました。この当時、NTTグループではNTTIが最初の認証取得企業であることから多くのNTTグループ企業からコンサル依頼が入り、忙しくなっていました。

 しかし、その間でも派遣先の代表から現地で起きている問題や業務事情などの報告が送られてきてその都度現地へのアドバイスなどを行っていました。
 この事業も最初は順調に進捗している報告が来ていました。そのようなこともありインドネシア事業にはあまりかかわらず、筆者はコンサル業務に専念していました。

 本事業の活動当初は現地業務も順調のようでしたが、数カ月もたたないうちに工事業者や機器材ベンダーの調達業務の段階で不協和音が聞こえるようになってきました。
 それは業者やベンダーの選定の方法そしてその基準の考え方等において、それぞれの出資母体の担当者間で意思疎通の違いに原因があるようでした。

 そのため、筆者はインドネシアにこの原因を探るため出かけることになりました。
 原因を探ってみると、日本で想定した通り、調達業務の問題が原因で業者もベンダーも決まらない状況で、現場工事が全く進まない状態となっていました。

 「Note」 以降この事業会社の登場人物がいろいろ出てくるので以下に簡単な会社の組織図の一部を示します。

会社の組織図の一部

 この原因は建設本部内のオーストラリアの担当と日本の担当間での選定上の意思統一の不備によるものが原因でした。
 この業者選定には設計部(日本)調達部(インドネシア)建設部(オーストラリア)の各担当がかかわっていて、それぞれの国のエゴが選定の場で発生していることがわかりました。その上、オーストラリア側は他の本部の長(財務本部長及び運用本部長)を味方につけて抵抗するといった状況でした。
 その他の原因としては調達に関する手順書も整備されていないことであり、何を基準として選定してよいかもわからないまま、業者の選定入札を行っていたことです。
 このことは建設本部内の出来事なので日本側の代表である建設本部長が適切な指示と調整を行っていればよいことであった。

 このケースは多国籍での共同事業がうまくいかない典型的なケースです。このようなことにならないように「転ばぬ先の杖」として必要なのはプロジェクト開始前の調達関係を含めた各種プロジェクト遂行に関する手順書(標準)の整備が必要でした。
 一方、海外で多国籍の形態で事業をやる場合は日本人とは異なる社会的・文化的・ビジネス慣習等の違いを考えて対応することも必要になります。
 以上のようなことをインドネシアの建設担当本部長に文書にて具体的に何をどうしたらよいかを具体的に示し、その対応をお願いして帰国しました。
 しかし、この調達に係る問題は日本側の意見は無視され、オーストラリア側の薦める業者の決着となったことを日本に帰国してから聞きました。

 このことを聞いて、まだ始まったばかりの事業であるが今後どうなるか心配になってきました。その後も日本においてはISOに関するコンサル業務を品質保証部としてあちらこちらと動き回っていました。
 ところが今度は設計部(部長:日本担当)と建設部(部長:オーストラリア)の確執が発生し、工事の進捗がままならなくなってしまうという事態が発生しました。
 これは主に建設の各エリアへの設計資料の遅配または誤配によるドキュメントコントロールの問題が発生したことが原因のようでした。

 このようなことで予定の回線工事進捗に遅れが生じ、その状況が顧客であるインドネシア公社にも知れることになり、他のコンソーシアムより進捗が遅れていることを指摘されるようになりました。
 これがこの会社内でも大きな問題となり、役員会でその対応を議論されるようになりましたが、やはりここでもオーストラリア側の圧倒的な発言力により日本側がかなり窮地に陥っているとの情報が入ってきました。
 しかし、このような現地状況にもかかわらず、建設本部長からこの問題に対する報告はありませんでした。

 筆者はこのような状態でありながら、本部長が報告してこない理由がわからないので彼の考えを聞くため、インドネシアに行くことになりました。

以降は来月号へ続く

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