PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (65) (実践編 - 22)

向後 忠明 [プロフィール] :3月号

 香港の駐在予定は少なくても2年以上と考えていました。
 駐在開始から約1年8カ月程度、人脈も形成し、これからと言う時の大事な時期でした。そのような時に日本から電話がありました。
 その電話は「すぐ日本に帰国するように!!」とのことでした。
 また、タイの時を思い出し「何も失敗はないのに!!何のことかと!!」と、不安に思いながら「急に理由もなく帰国の要請をするあなたはどなた?」と少し不満気な態度で質問しました。「OOOOです」でした。私の知らない名前の人だったので、NTTの国際本部の人かと思ったら「今度、NTTIの社長になったOOOOです」。
 この時、「また、不祥事でも起こしたか!!!」と思い、何はともあれ急きょ日本に帰国することにしました。

 日本に帰ると、以前とは異なりNTTIの内部組織が変わっていて、会社の中に入っても自分の席もなく右往左往するばかりでした。しかし、何はともあれ、まずは社長室に行きました。
 そこで、疑問であった香港からの急な帰国要請の理由について質問をしました。
 質問に対する返事ではなく唐突に「君にはプロジェクト統括部と品質保証部の兼務で仕事をしてもらう。そして、NTTの各海外の投資事業のプロジェクトマネジメント面からのアドバイスと今後のNTTIのISO9001認証取得のリーダーをやってほしい」とのことでした。

 全く急な話であったが、香港の事務所はどうするのか疑問に思い、社長に尋ねたら「今後はNTT国際本部がそこに代表を送るので君は帰らずに、日本で仕事をやってほしい。」とのことでした。
 いずれにしても、急な話であり、香港から何も準備もせず帰ってきたので、香港側での撤収作業は何もやっていませんでした。
 そのため、社長の許可を得て、一時的に香港に戻り、バタバタと各種手続きや引っ越し準備をして、あとは後任の人に任せ日本に帰ってきました。

 この時はこれまで海外の仕事ばかりであった筆者もこれで日本でゆっくり仕事ができると喜びました。

 早速、プロジェクト統括部でISO9001について話を聞いたところ、この仕事の重要性を以下のように説明してくれました。
 「ISO9001シリーズはヨーロッパやアジアのいくつかの国で企業の品質システムを評価する手法として公共事業の資格要件として採用されている。日本においても入札などで入札企業の品質システムの審査を行うことになる。
 その時、品質計画書と施工計画書を合わせて提出させて、ISO9001国際規格を満たすかどうか事前審査を行うことになる」とのことでした。

 このようなことから、筆者もこの取得は非常に重要と思い、この国際規格についての勉強を始めました。
 その内容を見てみると、これまで筆者が学んできたプロジェクトマネジメントの手順そのものであり、よくまとまっているので自分の頭の整理にはすごく参考になりました。
 これまでの筆者のプロジェクトマネジメントの知識はJ社でのプロジェクト遂行で先輩に教えてもらいながらのものでこれといった教本はありませんでした。

 早速関係者を集め、この国際規格取得のため動きを開始しました。
 なお、この国際規格取得には外部審査があり、その資格取得の過程でその外部審査員が必要に応じて指導及び作成書類のチェックなども行うということでした。そのため、この外部審査企業との契約をすることから始めました。
 そして、さらにこの審査会社の審査員から品質保証部及びほかの関連部の人達を集め国際基準についての説明を受けました。
 この説明の中で質疑応答の時間をとりましたが、各部からの質問を聞くと、全くISO9001の内容が理解できていないようでした。
 このようなことを考えるとこの資格取得にはかなりの困難が生ずることを覚悟しなければならないと思いました。
 筆者はISO9001に示される手順がJ社で学んだプロジェクトマネジメント手順と同じと感じていたことから、この国際基準には抵抗はありませんでした。ところが、ほとんどのNTTIの社員はNTTからの出向であり、この種の規準や手順には慣れていませんでした。
 ましてや、ISO9001にしたがって作成される各種書類が各部品質担当者がその内容を理解し作成できるか心配になりました。
 このような会社を取り巻く環境を考え、どのようにこの作業をスムーズに進めることができるか、考えなければと思いました。

 ISO9001取得といった仕事はまさにこれまで筆者が遂行してきたプラント建設やシステム開発のプロジェクトと同じです。ISO9001取得といった固有の目的及び短期間に遂行するといった目標設定もあり、プロジェクト的発想で進めることにしました。
 まさにトルコの中央銀行で各担当者が英語もできない、技術的知識レベルも低い状態の中で無事に成功させたこともあることを思い出し、品質保証部の中に効果的プロジェクト遂行のためのプロジェクトタスクチーム(品質保証委員会)を作り、担当者の配置とその役割を明確に決めて動くことにしました。

 このプロジェクトの目的は:
全社がISO9001の国際規格に従って以下のような内容のことを企業の各部門共通で仕事をすることができるように文書化し、それを全社に周知し、実行させ、業務品質を向上させることです。
経営者の責任(品質基本方針及び品質目標の設定)
作業手順と判断基準のルール化と文書化(仕事のプロセスを明確に宣言する)
担当者の責任と権限の明確化(問題があった場合の曖昧の解消)
作業記録の管理(言った、言わなかったの解消)
測定、分析及び改善(内部監査、モニタリング、不適合管理とその継続的改善)
 等々です。
 この内容を見ると組織と役割分担を明確にし、資源を調達して業務プロセスPDCAを回して業務の品質向上を図るといったものでした。
 そして、このプロジェクトにはその実行において常に外部のコンサルタント(認証機関)が張り付いて、指導監督するといったものです。

 筆者にとってはすでに多くのプロジェクトの経験から上記で述べているようなことに慣れています。しかし、NTTIの社員はなかなかISO9001の内容がわからず、それを理解させるには、品質保証部のプロジェクトチームだけが動いても各関係部門が動かなければうまくいきません。
 そのため、各部門に品質管理責任者を置き、各部門の品質管理責任者を定期的に集め、国際基準のISO9001の内容について具体的に事例を挙げて説明し、理解してもらうようにしました。そして、品質保証部が中心となって具体的な手順書のサンプルも作り、各部にその説明を行い、各部固有の書類作成をしてもらうようにしました。

 時間がたつにつれ各部の品質管理責任者もISO9001の内容を徐々に理解できるようになり、各部の部員にも説明できるようになりました。最終的には全社員にその理解が広がり、徐々に手順書や各種様式の作成を自ら行うえるようになりました。
 このようにして、目的とするNTTIの品質保証マニュアルが完成しました。
 最後は社長はじめ各部の責任者が審査機関よりのヒアリングに対して会社及び各部の品質に関する方針や考えを説明し、無事審査にパスすることができました。
 そして、品質システム登録証が平成7年(1995年)7月に審査会社より、品質保証部の代表として筆者がいただくことになりました。

 これまで、NTTIにきて各種プロジェクトや今回のISO認証取得プロジェクトの過程を考えてみると、NTTI(NTTも含め)の社員は一つの方向や目標を与えると、一丸となってその方向にすすむ教育がなされているように思えました。
 このことは、企業として、会社のトップまたは上司が適切に社員を指導していけば、多様なプロジェクトや事業に進出できると感じました。

 なお、ISO9001認証取得後も品質保証部は会社の内部監査員として各部の作業内容を定期的に監査し、不適合部分があれば指導したりして、その定着化を図りました。
 このような地道な努力により会社全体の日常業務の活動にも変化が出てきました。ある部門では名刺交換の時にほかの会社の人に「ISO取得されたんですね!」「大変だったでしょう!」とよく言われ、「胸を張って仕事をするようになれた」等と言っていました。

 なお、NTTIの認証取得はNTTグループでは初めてのことであり、NTTグループ各社からも講演依頼やコンサル依頼が来るようになり品質保証部はかなり忙しくなってきました。

 一方、筆者はこのISO認証取得の仕事のほかにプロジェクト統括部としての仕事も行っていました。
 この時はインドネシアのPFI事業を主体的に見ていました。この事業はNTTが出資し、オーストラリア、インドネシアの各社も出資し電話システムの建設・運営に係る事業です。

 プロジェクト統括部での仕事については来月号とします。

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