PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (165) (プロジェクトマネジメントとファイナンス)

向後 忠明 [プロフィール] :7月号

 前月号まで契約について話をしてきました。今月は、プロジェクトマネジメントにおいてファイナンスに深くかかわるプロジェクトファイナンスについて話をしていきます。
 ファイナンスはプロジェクトに携わる担当者にとってはあまり関係ない話と思いますが、プロジェクトの種類によっては、前月号などで説明のPFI事業や顧客側に立って事業採算性を検証するに必要な費用対効果検証などにおいて必要になります。このためにもファイナンス知識は必要となります。
 ファイナンスといっても企業活動において企業が金融機関から活動資金を借り入れて企業活動全体のキャッシュフローから債務を返済していくといったことを前提とするコーポレートファイナンス(Corporate Finance)があります。
 それに対してプロジェクトファイナンス(Project Finance)といった企業に対する融資というよりその融資の対象となるプロジェクトに対する貸出や出資などがあります。その融資や出資の返済に契約にもよるが対象プロジェクからのキャシュフローから財源を返済し、対象プロジェクトの有効性を確認するといったプロジェクトファイナスがあります。

 今回はこのプロジェクトファイナンスについてプロジェクトマネジャの基礎知識として知っておいたほうが良いと思われる基本的な内容について話をします。
 プロジェクトファイナンスの最大の特徴は、この融資の返済の不履行が生じても原則として金融機関または出資者はそのプロジェクトを目的に設立した事業会社またはプロジェクトにのみにとどまりその事業またはプロジェクトへの出資者(スポンサー)にまで、(一般的に契約にもよる)返済要求を求めることのできないスキームをとっています。
 このことから、これまでよりプロジェクトのリスクは出資者から金融機関に移ることになりプロジェクトファイナンスの本質は「事業主と金融機関がリスクを如何に分担するか」ということになり、そのためこの視点からの検討も金融機関においても重要なことになります。
 なお、ファイナンスの方法にも大きく二つの形態があります。
  1. ① プロジェクトまたは事業運営がうまくいかず、事業主に責任を全く問うことのできない場合。(これをノン・リコース・ファイナンス:Non Recourse Financeと称する)
  2. ② 金融機関にばかりリスクを負わせるばかりでなく、事業主にも一定の責任を持ってもらう条件を考慮に入れた場合(これをリミテッド・リコース・ファイナンス:Limited Recourse Financeと称する)
 いずれの場合にしても誰でも心配するのが出した金(投資または融資)が前例のない初めて経験する事業から戻ってくるのかどうかです。この心配を払拭するために行われるのが事業化妥当性検証(フィージビリティースタディ)です。
 尚、この事業化妥当性検証については来月号にて説明します。

 日本においては頭の固い金融機関でのファイナンスはコーポレートファイナンス(Corporate Finance)が主流となっていますが、発展途上国では電力、電気通信、交通インフラ、発電所などではこのプロジェクトファイナンスを採用するケースも多く、事例にも上げたインドネシアにおける電気通信PFI プロジェクトもその1例です。
 また、プロジェクトファイナンスに関連する事業は日本企業や金融機関にとってはまだ不慣れな部分もあり、昨今ではあまり聞くことがありません。
 その理由は事業の内容によっては出資も巨額となるからです。例えば著者が経験した電気通信プロジェクトでは設備建設と運営費を合わせて800億円以上の投資となっています。このような場合、一社でのプロジェクト実行ではリスクも発生し、失敗した場合、出資会社の屋台骨にも影響が出てきます。よってリスクを分担する目的で数社のジョイントにより事業会社を作ることになります。
 このようにプロジェクトファイナンスはプロジェクトの規模も大きく関係者も多彩となりそのリスクの所在により、その仕組みも変わってきます。よって、金融機関も出資者に一定のリスクを持たせるリミテッド・リコース・ファイナンスの場合が多いです。
 上記の電気通信プロジェクトもこの方式となっています。以下に著者の経験したPFI 事業のケースでリミテッド・リコース・ファイナンスの話をしていきます。
 今回事例の電気通信プロジェクトは国外のプロジェクトであり対象が国営電気通信会社との協業となるので出資者は国営機関との契約に基づき、事業運営にかかわるライセンスをはじめ各種の認可をもらうことになります。そしてこのプロジェクトを運営する特別目的事業会社(SPC)を設立することになります。
 事業の内容によってはすでに述べたように出資も巨額であり、一社での出資には限りがあり多国籍による数社企業でのジョイント事業会社を作ることになりました。
 この数社の契約に基づきそれぞれの出資比率に従い資本(Equity)を投入することになります。
 しかし、プロジェクト総額規模も大きいので、出資者側もリスク分散を考え金融機関からの融資をプロジェクトファイナンスとして考える必要が出てきます。
 金融機関も当然一社ではリスクもあり金融機関も数社が集まりリスク分散を図ります。
 この金融機関の団体を、読者も新聞などでよく見る、「バンクシンジケート」と言い、その代表機関を「幹事銀行」と称します。
 一般的に大きなプロジェクトの資金は出資金(Equity)と融資金(Dept)に分けられ、プロジェクトの規模や種類によって異なりますが、一般的に比率は出資金(Equity):融資金(Dept)=(2~3):(7~8)言われています。
 以下にリミテッド・リコース・ファイナンスの代表的なスキームを参考に示します。

リミテッド・リコース・ファイナンスの例
リミテッド・リコース・ファイナンスの例

 このファイナンスの特徴として金融機関は:
  1. ① 設備が完成しない限り収入が入ってこず、未完工の設備や施設を担保にしてもどうしようもないので必ず出資者に設備や施設のスケジュール通りの完工保証を求める。
  2. ② 元利返済の先取りを前提としたエスクロー勘定(第三者信託勘定Escrow A/C)を設けることが多い。
  3. ③ プロジェクト資産に対する包括担保(Floating charge)を設定し、担保権執行の第一抵当権者となれるようにする。
  4. ④ その他のプロジェクト活動への各種成約を規定する。(詳細はここでは示さないが他の文献を参照してください)

 このように金融機関は事業会社に各種条件を求めてきますが、プロジェクトを金融機関の求める要件に基づいて実行できる事業会社も少なく、そのため日本ではプロジェクトファイナンスの利用度は低いように考えられます。
 一方の金融機関においても同じことが言えますが、その理由は以下のように考えられます。
  1. ① 貸付のリスクはこれまでの融資方法に比較して、金融機関側のリスクが大きい。
  2. ② 出資者の決算から外れるオフバランス処理なので出資者からの保証を得にくい。
  3. ③ 融資の担保がこれまでの、土地等を代表とする物的担保を中心にしたものではなくプロジェクトから生み出すキャッシュフローにあり、担保としての不確実性が高い。
  4. ④ 金融機関にプロジェクトファイナンスに熟知し。経験した人材が少ない。
 このように考えると、むしろ金融機関の理由によることがプロジェクトファイナンスの普及の阻害になっているようです。しかし、今後、日本における新たな分野への進出、すなわちイノベーション対応の新規事業への投資を含んだ各種事業分野におけるプロジェクトファイナンスへの対応が必要となってきます。

 プロジェクトマネジメント側からはこの種の金融機関にかかわる業務に直接携わることはないが、出資に関係する設備建設に必要な資金の算出やその設備から得られる収入等との関係を検証することが必ず必要となります。いわゆる各種データに基づく技術的そして財務的に検討する作業であり、その企業またはプロジェクトが投資または融資に値するかの費用対効果を算定する必要があります。
 この一連の作業をフィージビリティスタヂー(Feasibility Study)と言い、まさにプロジェクトマネジメントの仕事となります。
 来月号はこのフィージビリティスタヂー(Feasibility Study)に関する話をします。

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