PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (166) (プロジェクトマネジメントとファイナンス)

向後 忠明 [プロフィール] :8月号

 ファイナンスに関連する知識でプロジェクトマネジメントに必要な知識としてフィージビリティスタディー(Feasibility Study)というものがあると前月号で説明してきました。
 この知識はPFI事業にも必要な財務的分析作業ですが一般的に下記のような2種類があります。
  1. ① 既存事業に追加投資して事業を進めていく場合
  2. ② 全く更地から事業を始めるような場合。(起業などもその一例です)
 上記の①の追加投資のケースは既存事業の財務体質を見ることも必要です。この場合は通常の伝統的な財務分析手法を使う必要があり、既存の事業に対する財務諸表をベースに下記の考えに基づき行う必要があります。
 すなわち、投資対象事業または地域における調査(Due Diligence)によって得られた各種資料を基に下記を調査しておく必要があります。
  • 収益性:どのくらい既存事業が儲かっているのか?
  • 安全性:既存事業の財務的健全性すなわち支払い能力に問題ないのか?
 この分析の方法には損益計算表(P/L)と貸借対照表(B/S)を関連させてみる分析方法とキャッシュフローによる分析方法があります。
ここでは投資活動によるキャッシュフローを中心に話を進めます。なお、キャッシュフローとは投資対象における「キャッシュ(現金)のフロー(流れ)」を表します。 入ってくる現金を「キャッシュ・イン・フロー」、出ていく現金を「キャッシュ・アウト・フロー」と呼び、この2つから投資活動キャッシュフローが成り立ちます。

 今回説明するものはフィージビリティスタディー(Feasibility Study)に類するキャッシュフローを前提とした財務的分析です。
 主に上記に示す①②に示す場合を前提とした投資を対象としています。すなわち、新たな設備投資に伴って事業展開する場合、投資によって得られるキャッシュフローはどの程度あるか、また融資した資金が確実に戻ってくるか、これを投資家も金融機関も“資金”を出す前にその価値判断をする方法です。
 すなわち、
  1. ① 投資及び融資した金が回収できるか?
    全事業期間を通して事業運営に必要な運営費を払い、ローンの元利や金利を払っても、十分な収益を残し、投資家または金融機関に利益または金利を所定移管に還元できるかという事業の収益性からの検証が必要です。
  2. ② その回収にどのくらいかかるのか?
    金融機関も投資家も投資した金が早く戻ってきたら、その金を再投資や再融資の資本として使えるので、この金の回収機関が重要となってきます。
 このような理由により投資回収可能性の検討が必要となるのです。なお、この投融資の意思決定にあたっての財務分析方法には下記の2種類があります。

  1. ① DCF(Discount Cash Flow)法
  2. ② IRR(Internal Rate of Return)法

 以下に設備投資を含む新たな分野への事業進出などを含むプロジェクトを例にその投資分析に必要な手順を示します。

投資分析に必要な手順

 DCF法は事業が生み出す毎年のキャッシュフロー(金利、税金、減価償却前利益、すなわちEBITED: (Earning Before Interest ,Tax and Depreciation)の見込み計算を行い、そしてそのキャッシュフローを利子率(i)で割り引いて(ディスカウント)投資の回収額を現在価値(NPV: Net Present Value)に置き直す方法です。
 この計算の結果、累積の現在価値が、想定事業期間内において投資額以上のその計算法は以下の通りです。すなわち
想定事業期間内において投資額以上のその計算法
となり、上記の計算の結果よりも投資額または融資額よりNPVが大きい場合は投資または融資にかかわる金利で割り引いても問題なく資金の回収ができているということになります。
以下にその例を示すと:              (ただし利子率(i)は10%)
投資案

 上記の例で示す投資案は5年目にして831という累積現在価値となります。
上記のキャッシュフロ―にあらゆる支出(元金を含むローン返済金及び諸経費)をもりこんだキャッシュフロー合計であれば、0年度で投資した4000は5年目で回収されたことになり、その回収時間は5年ということになります。

 下記に示す、IRR法による意思決定は投資額がその投資の生み出すキャッシュフローの現在価値(NPV)になるように割引金利を算出し、その数値がある一定の投資に対する基準利回り(ハードルレート)以上であれば投資を行う価値があるし、そうでなければ投資を行わないなどの判断をする意思決定の方法です。

IRR計算
上記式は、毎年のキャッシュフロー(C1,C2...Cn)を上記に示す指数で表している(1+r)n でn年間割り引いた場合n年後の合計がC0(NPV)となった時のrが求められるIRRです。
 このように、IRR法は投資額がキャッシュフローの現在価値と同等になる割引金利を計算し、その数値がハードルレート以上になっているかどうかによって、投資すべきかまたはやめるべきかの意思決定をするための手法です。なお、このハードルレートは企業独自で決定するものであるが、通常は企業の資金調達金利にリスクプレミアムを上乗せしたものが良く利用されているようです。ちなみに筆者が経験した電気通信を例にとると13~18%でしたが、この数値も事業実施国での公定レートによるもので一概に決められないのです。

 以上がフィージビリティスタディー(Feasibility Study)におけるファイナンス面からの検討ですが、この計算はあくまでもある一定の前提条件かつ、定常状態での計算方法です。
 しかし、実際は収入の変化、設備建設費、保全費、管理費、インフレ率、物価上昇率、為替レート等の変化により影響されます。このような事業またはプロジェクトを取り巻く環境の変化を取り入れて、ベースモデルからのキャッシュフローの変化度合いを見て、投資判断をより正確にすることも必要でありこれを「感度分析」と言います。

 これまでの説明内容は設備投資や融資にかかわるP2Mガイドブックに示されるスキームモデルの最終段階での検討項目となるのでプロジェクトマネジャは必ず習得しておく基本的なファイナンス知識であると筆者は思っています。
 よって、読者諸氏も高位のPMレベルになるとファイナンス全般にわたる知識も必要となるので、今回述べてきた基本的知識ぐらいは習得しておく必要があるでしょう。

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