PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (155) (プロジェクトマネジメントと契約)

向後 忠明 [プロフィール] :9月号

 前々月号の「ゼネラルなプロ153」ではランプサム契約とコストプラスフィー契約について簡単に説明しましたが今月号はその各々の特徴について説明します。

ランプサム契約について

ランプサムの利点
  1. ① プロジェクトの全体像があらかじめ特定されるので、請負契約者は工事の全体スキームが組みやすく、顧客(ユーザー)は予算の目安が付きやすい。
  2. ② 顧客(ユーザー)はプロジェクト全体の価格を定額で保証される。
  3. ③ 工事または設備設置遂行上の責任をすべて単一の請負業者に負わせることができる。
  4. ④ 競争入札が可能である。
  5. ⑤ 入札の評価が簡単である。

ランプサムの欠点
  1. ① 請負業者は故意による仕様変更、手抜き工事で利益を出そうとすることがあるので、保証が厳しくなる。また、業者選定においての発注者(ユーザ)側の高度な選定能力が求められる。
  2. ② 入札を行うにあたっては、RFP作成に時間がかかると同時に、請負側にとっても、応札のために時間と金がかかる。
  3. ③ 入札に間に合わせるため顧客(ユーザ)、請負側共々、設計の最も重要な部分を短い時間で仕上げればならない。そのため、受注後の設計での食い違いが発生し、スケジュール遅延の原因となる。同時にコスト超過となる場合もある。
  4. ④ コストコントロールは請負側が行うが、機材等は設計時における承認行為の結果での請負業者による購買となるので安易に介入できない、そのため必然的に顧客の介入が容易でなくなる。
  5. ⑤ RFPの不確定部分がエスカレーションやコンテンジェンシー条項が契約上適用される場合はプロジェクトコストが高くなる。よって顧客側のRFP 作成に十分な時間と正確さが求められる。

コストプラスフィー契約について

コストプラスフィーの利点
  1. ① プロジェクト全体の主要な要件規定はいらない。全体の見通しは不明であるが、仕事に早く着手できる。プロジェクトの詳細が決まり次第、段階的に分割しランプサムで請け負わせることもできる。
  2. ② 入札時間を要さない、顧客側のミッション(大まかな方向性)の具体化ができ次第、業者選定できる。
  3. ③ コストコントロールは業者の労務単金が明確化されているので、変更管理やそれに伴うコストコントロールも顧客(ユーザ)側の意向で自由に反映できる。ただし、顧客側の意思決定の迅速な行動が求められる。
  4. ④ 設計及び仕様書作成で顧客(ユーザ)・請負業者間の利害対立は少ない。請負業者も費用の心配がないので顧客の思い通りの設計または仕様書作成が可能となり、手抜き作業も少なく、クレームの発生も顧客(ユーザ)の責任となるが結果として顧客の思い通りの結果を得ることができる。
  5. ⑤ 変更が行いやすいし、また代替え案を採用しやすい。
  6. ⑥ 顧客(ユーザ)は契約を途中で停止または終結することもできる。
  7. ⑦ 請負業者のコスト的負担は少ないが大きな利益を得ることができない。
  8. ⑧ プロジェクト全体が確定し、ランプサムに移行できる状態になった時点で顧客との合意によりランプサム契約に移行できる。

コストプラスフィーの欠点
  1. ① 請負業者の選定において最終費用の予測がつかないまま業者決定となるのでその単価設定が他の競争相手に比べやすくても最終費用が高くなるケースがある。
    すなわち、入札の評価が難しい。基本的にはUnit Rate(単金)ベースの競争となるが、請負業者の能力や経験からの参考定額価格を求められる場合もある。
  2. ② 顧客(ユーザ)は請負業者プロジェクト関連の収支明細を出させ、プロジェクト進行中での請負業者のプロジェクト関連コストのチェックを行う必要が発生する。このチェックをするためには顧客(ユーザ)は請負業者の技術的説明を理解し、できれば反論ができ、最終結論も速やかに行うことができなければならない。この能力もなくコストプラスフィー契約を選択した場合には、トラブルが発生する。
  3. ③ コストプラスフィー契約の場合は顧客(ユーザ)も請負側もプロジェクトのフェーズが基本設計、詳細設計そして機材調達運搬そして機材設置とフェーズが進むにつれて費用把握も複雑となり、そのための書類、プロジェクトに従事するスタッフや関係者のチェック役務が増加し、プロジェクト運営が双方とも複雑となり、いわゆるドキュメント戦争となりプロジェクト運営がより複雑となる。
    すなわち、Cost Justification が一つの作業となるため、請負業者側には財務、またはアドミの人員配置が必要となる。
  4. ④ 顧客(ユーザ)の変更要求があって請負側はそれに従順にしたがって作業をすればよいが顧客(ユーザ)側の技術及びプロジェクト遂行能力がないと頻繁な変更はコスト上昇そしてスケジュール延長の原因となる。
  5. ⑤ 顧客(ユーザ)側のプロジェクト進行中での問題発生時での決定権者の不在は費用増加やスケジュール延長の原因となる。
  6. ⑥ 請負業者には、プロジェクトを早く終わらせ全体コストを安くしてもあまりメリットがないため納期がルーズとなる。

 以上に説明してきたようにランプサム契約もコストプラスフィーもそれぞれ利点・欠点もあります。
 昨今の顧客要件の不明確なプロジェクトでは要件を明確にするまでどうしても、顧客(ユーザ)との共同作業が必要となります。そのため、顧客(ユーザ)の意思が請負側に示されない限りプロジェクト計画やその実行もできません。このようなケースではランプサム契約は無理です。そのため、コストプラスフィー契約が有利となりますが、すでに上記にて欠点として述べたようなものもあります。一番の問題は③に示すようにプロジェクト進行が進むにつれてコストプラスフィーの場合は顧客(ユーザ)も請負側も費用把握も複雑となり、そのための書類、プロジェクトに従事するスタッフや関係者のチェック役務が増加し、プロジェクト運営が双方とも複雑となり、いわゆるドキュメント戦争となりプロジェクト運営がより複雑となります。
 筆者が実際のプロジェクトで同じような境遇に出会ったときに採用した方法として以下のような方法をとって成功した事例があります。
 すなわち、コストプラスフィー契約とランプサム契約の併用です。
 その実例では海外化学プラントのプロジェクトトやNTTに移籍してからの海外システム開発プロジェクトなどがあります。
 エンジニアリング会社にいた時は顧客(ユーザ)もRFP作成に熟達したメジャーオイルであり、システム開発系プロジェクトを除くとほとんどがランプサム契約でした。そのため、顧客要件が比較的しっかりしたケースが多かったように記憶しています。
 さて、それでは顧客要件が明確でないプロジェクトの場合は「どうしたか?」ですが、コストプラスフィー契約の欠点である③を例にして示すと:

詳細設計そして機材調達運搬そして機材設置とフェーズが進むにつれて費用把握も複雑となり、そのための書類、プロジェクトに従事するスタッフや関係者のチェック役務が増加し、プロジェクト運営が双方とも複雑となることを、顧客(ユーザ)との話し合いで、避けたことです。
 このことは顧客(ユーザー)要件が不明確なフェーズの仕事は顧客(ユーザ)の信頼と請負側のプロジェクト遂行能力にもよるが、双方ともこのままではプロジェクト遂行は無理と互いに判断したことによります。
 このことはアジャイル方式にて説明されているプロジェクト遂行中における意思決定体制が重要なものとなります。それはスクラム方式における意思決定者である「プロダクトオーナー」とプロジェクトの実行責任者である「スクラムマスター」を中心とした、専門チームメンバーの組み合わせの開発体制とその能力限界を知ることが重要となります。
 しかし、体制だけではなく大事なことは要件が明確になるまでの顧客(ユーザ)との共同作業において仕様設定や基本設計時における決め事におけるプロダクトオーナー側の決定権者としてのあり方も重要な要素となります。同時にプロジェクトの進捗状況を見てランプサムへの移行タイミングを正確に顧客(ユーザ)側が判断できるように請負側のスクラムマスターが情報を与えることも重要となります。そのためにはリーダとしてのスクラムマスターのプロジェクト実行中での信頼醸成や交渉能力といったものが必要となります。
 しかし、それでも要件が明確になった後でも顧客(ユーザ)側の心変わりも発生することもあるので、その時の契約上の対応も必要です。
 ちなみに、要件の明確化よるランプサム契約への移行タイミングとしては前月号で説明したマスタープラン作りまでの基本的事項の設定までがコストプラスー契約の終了とすることも一つの考え方です。

 ここまでがコストプラスフィー契約とランプサム契約の話ですが、来月号は契約約款や契約にかかわる交渉や調印に至るまでの話をしたいと思います。

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