PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (154) (プロジェクトマネジメントと契約)

向後 忠明 [プロフィール] :8月号

 プロジェクトの起源は「新しい事業を作る」「技術革新への対応」「現状より高い生産性への対応」といった時代の要求及び企業を取り巻く環境変化に伴い、顧客側またはユーザー側の経営者や起業家による挑戦者の立場から、「何を今やらねばならぬか?」といった経営にかかわる問題を課題として取り上げ、その試行錯誤から始まります。
 昨今はSDGs、DX、GX、地域創生といった漠然とした構想による既存事業のイノベーションが求められ、会社(顧客(ユーザ)経営者も自社の能力にあった具体的事業のアイデアをいろいろと模索しているようです。
 この作業の段階は顧客側(ユーザ側)が知識人や学者を招いての協議会でいろいろアイデアを出させたりして、顧客(ユーザ)の事業の未来や必要な技術の未来を創り出そうといった顧客(ユーザ)によるミッション創生に類するものです。
 この時点で想像された事案は言ってみれば「生まれたての赤ん坊」であり、これを顧客(ユーザ)側が「生まれたての赤ん坊」を健康に育てる必要があります。
 このイノベーション課題からのミッション創生とその具体化を顧客(ユーザ)が単独で進めるためには困難が伴い顧客(ユーザ)自社内だけで対応が困難な場合、第三者に依頼するケースもあります。このような要件が不確定な案件を第三者に依頼する場合の契約形態が先月号で説明したコストプラスフィー契約、レインバーサブル契約です。
 なお、それぞれの作業の段階で顧客(ユーザ)だけで行うケースもあれば請負業者と共同でやる場合もありますが以下に請負側の立場から受注契約の類型について説明します。

コストプラスフィー契約
(注) コストプラスフィー契約(コンサル契約もこのケース)
RFP: Request For Proposal

 上図に示す流れは漠然とした構想による既存事業のイノベーションが求められる顧客(ユーザ)側の動きとそこからから始まる最終の設備またはシステムの完了そしてその試運転(サービス)までの流れを請負側と顧客(ユーザ)側との契約の関係について示しています。
 ①から②の間の仕事はすでに課題解決及び問題解決(ゼネラルなプロ136~143))にて説明したように解決を含むアイデアの創出といったミッション創生の活動であり、かなり幅広い創造性豊かな思考を持った特別な能力が必要です。このフェーズは主に顧客(ユーザ)側の活動です。この場合、もし自社だけの能力では不安を抱く場合はコンサルタントを雇います。ただし、このコンサルタントの役割は顧客(ユーザ)の悩みを解決し夢をかなえる手助けなど未来に向けての問題解決や夢実現を助けるといったことであり、高度の特別な能力を持ったプロフェッショナル人材の採用が必要となります。この場合でのコンサルタントとの契約はコストプラスフィーが妥当と考えます。

 ②から③も同じく課題解決及び問題解決(ゼネラルなプロ136~143)に示していますがP2Mガイドブックで示すスキームモデルのフェーズに相当します。すなわち顧客(ユーザ)の事業を取り巻く環境を考慮し、与えられたミッションを各種分析によりそこから課題、問題を抽出して、プロジェクトの全体枠組みの構想を作成し、そしてRFP等など発注先選定に必要な書類の作成に至るまでの作業がこれに相当します。
 このステージはJICAなどのフィージビリティースタディー(マスタープラン作成業務)などが良い例ですが、この例はコストプラスフィー契約に当てはまります。特に昨今のITシステム開発やインフラ開発のプロジェクトにも応用できます。
 以下にフィージビリティースタディー(FS)で作成されたマスタープランに示された項目の事例を以下に参考として示してみました。
1.スタディーの背景
 1.1 背景
 1.2 スタディーの目的
 1.3 スタディーの内容
 1.4 スタディチームの編成と人選
2.現状調査と分析
  対象設備またはシステムの現状
3.技術的検討
 3.1 対象技術とその検証
 3.2 対象技術の基本設計
4.プロジェクト実行計画
 4.1 プロジェクト計画
 4.2 操業及び保守計画
 4.3 プロジェクトコスト
5.財務的経済検討(FS)
6.スタディー結果と推奨コメント

 以上の書類を今度は顧客(ユーザ)側がRFP用として書類をまとめ、ランプサム契約用のITB(Instruction to Bidder)として利用します。
 なお、プロジェクトの種類によってRFPに記載される内容はそれぞれ異なりますが、ここに示す例は一般的に顧客(ユーザ)が請負業者選定のために準備される書類(Instruction to Bidder)に示される項目の一例です。

  1. ① プロジェクトの概要(Project Overview)
    プロジェクトの由来および背景
    プロジェクトの目的
    プロジェクトの規模、種類、対象エリア(場所)
    プロジェクトを構成するシステム
    応札者(Bidder)に求める契約形態(Option もあれば記述)
  2. ② 提出日時
  3. ③ プロポーザルの提出形態
  4. ④ 入札ボンド(Bid Bond)提出の義務
  5. ⑤ 見積期限(Validity of Offer)についての記述
  6. ⑥ コンプライアンスリスト(Issue of Compliance Table)の提出方法
  7. ⑦ バリエーション(Variation Offer)についての記述
  8. ⑧ 応札価格(Proposed Price)の単位、単金の提出またその中にどこまで含むか等々の記述
  9. ⑨ 支払条件(Terms of Payment)
  10. ⑩ 入札および履行ボンド(Bid and Performance Bond)についての記述
  11. ⑪ ファイナンス(クレジット)を要求する場合の記述
  12. ⑫ 工事完了日(Due Date of Completion)
  13. ⑬ プロポーザル記述内容への要求
    (コマーシャル、技術、その他)
  14. ⑭ 代替案のプロポーザルの提出についての記述(Alternative Proposal)
  15. ⑮ 質問等への窓口(Questionnaire)
  16. ⑯ その他入札にあたっての注意事項
  17. ⑰ 評価基準(Tender Evaluation Criteria)
  18. ⑱ 契約様式(Form of Agreement)

* 見積ベース(Basis of Quotation)
  1. ① 仕事の範囲(Scope of Work)と事業者側の役務の説明
  2. ② プロジェクトの総合線表(Project Overall Schedule)とその説明
  3. ③ 技術要件(Technical Requirements)
  4. ④ 機器材集計表(Bill of Quantity)

 上記のような内容にて顧客要求が明確に出されればそれに従って請負側は正式なランプサム契約用としての書類を出すことができます。

 以上が受注契約に関する各段階で行われる内容がわかってもらえたと思います。
 しかし。プロジェクト契約には上記に示す仕事の範囲にかかわるものだけでなく例えば③以降にも下請け契約、機材調達に関する契約、秘密保持契約、人材派遣契約、海外プロジェクトでは船積み契約等々のプロジェクト実行中での各種の契約関係が発生します。

 その中でも大事な契約はすでに述べた価格形態別の契約、すなわちランプサム契約(代金が一括定額制)とコストプラスフィー契約(実費報酬・加算性)です。

 来月号ではプロジェクト開始当初の最も重要な契約であるこの2種類の契約についてそれぞれ利点も欠点もあるのでその特徴について説明します。

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