PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (156) (プロジェクトマネジメントと契約)

向後 忠明 [プロフィール] :10月号

 これまでレインバーサブル方式およびランプサム方式での請負に関する価格形態別の契約について述べてきました。しかし、それぞれ実業務を進める場合でも設定しなければならない契約約款が必要になります。
 顧客側(ユーザ)と請負側が顧客要件不明確なまま作業を進めなければならない場合は顧客(ユーザ)との何らかの合意の上での共同作業となります。この時には一般的にコストプラス方式での条件設定を行い時間単位または月単位の技術者の単金を設定し契約し、作業を行います。そして、要件が明確になったところで双方の合意でランプサム方式に変更し、これまでの話し合いで合意した条件や要件を確認し、ランプサム契約の場合と同じ条件で作業を進めることになります。
 一方、一般的な競争入札にて顧客側(ユーザ)がプロジェクトを進める場合は、顧客(ユーザ)は引き合い書(RFP:Request For Proposal)といった書類を準備し請負業者の選定作業に入ることになり、ここで初めて請負業者との接触が始まります。
 この時、顧客側(ユーザ)は要求する自社の求める要件や条件を上記のRFPに詳細に示す必要があります。
 この場合、入札という形で興味のある応札予定の数社に見積もりを出させ、その結果を評価し、決めることになり複数社から同一入札条件の下で競争させます。この場合は入札結果の評価の公平さを期するため各請負業者よりのプロポーザル内容が均一となるように提出書類の様式化を行い、同時に評価手順をあらかじめ設定できるようにしておきます。
 上記項目の中で引き合い時に顧客側の意思を示すものとして大事な書類として「Instruction to bidder」及び「Basis of Quotation」という書類を準備する必要があります。この書類は応札予定者へのプロポーザル作成にあたっての“指示及び注意事項“及び見積もりのための技術的注意事項ということになります。
 以下にその一例を示します。
  • Instruction to Bidder (入札者への一般的注意事項および勧告)
  • Form of Agreement(契約時の様式フォーム)
  • General Terms and Conditions (一般約款)
  • Special Condition(当該プロジェクトに関する上記に述べていない約款)
  • Bid Form and Price Schedule(入札者の入札用フォームおよびプロポーザルコストフォーム)
  • Technical Specification / Drawing (技術資料)
  • Bill of Quantity (B/Q) (機器材の数量を示したテーブル)

 このRFPをもとに請負業者を選別することになり、彼らから価格、納期、品質や請負側のRFP に対する考えや条件を入手することになります。この時点でRFPに示された要求や条件と請負側のプロポーザルの間に齟齬のないようにお互い話し合いを行い、その結果として契約調印が行われます。
 参考にRFPで用意するものには以下のような項目が必要となります。 入札者への一般的注意事項および勧告(Instruction to Bidder)
  1. ① プロジェクトの概要(Project Overview)
    ―プロジェクトの由来および背景
    ―プロジェクトの目的
    ―プロジェクトの規模、種類、場所
    ―プロジェクトを構成するシステム
    ―応札者(Bidder)に求める契約形態(Option もあれば記述)
  2. ② 引合書の構成
  3. ③ プロポーザルの提出方法
    ―部数、提出場所、提出日時
    ―プロポーザルの提出形態
  4. ④ 入札ボンド(Bid Bond)提出の義務
  5. ⑤ 見積期限(Validity of Offer)についての記述
  6. ⑥ コンプライアンスリスト(Issue of Compliance Table)の提出方法
  7. ⑦ バリエーション(Variation Offer)についての記述
  8. ⑧ 応札価格(Proposed Price)の単位、単金の提出またその中にどこまで含むか等々  の記述
  9. ⑨ 支払条件(Terms of Payment)
  10. ⑩ 入札および履行ボンド(Bid and Performance Bond)についての記述
  11. ⑪ ファイナンス(クレジット)を要求する場合の記述
  12. ⑫ 工事完了日(Due Date of Completion)
  13. ⑬ プロポーザル記述内容への要求
    (コマーシャル、技術、その他)
  14. ⑭ 代替案のプロポーザルの提出についての記述(Alternative Proposal)
  15. ⑮ 質問等への窓口(Questionnaire)
  16. ⑯ その他入札にあたっての注意事項
  17. ⑰ 評価基準(Tender Evaluation Criteria)
  18. ⑱ 契約様式(Form of Agreement)

 プロジェクト開始初期にあたってはレインバーサブル方式とランプサム方式を比較するとランプサム方式が上記のような書類を準備しなければならないので、多くの時間を要することになり、顧客側(ユーザ)にかなり大きな負担となります。
 特に、昨今の顧客側の不明確な要件から始まるプロジェクトでも上記で述べたように基本的な条件を決めることなく、そのままランプサム契約に入り請負側も顧客側もプロジェクト開始時点でのなすべきこともしないで、同じようなプロジェクト要件での経験で自信があるといったこと、または顧客(ユーザ)とのなれ合いからくる安易な合意書等で作業を進めてしまい、「プロジェクトの失敗」に陥るケースも多いようです。
 いずれにしても。現在の企業や社会を取り巻く環境を考慮した場合、できうる限り、「顧客は何をしたいのか?また請負側は顧客側に立って共に課題を解決していく」といった姿勢で対象の顧客(ユーザ)の「抱える課題」をしっかり掴んだのちに仕事を進めることが必要になってきています。この場合、お互いの契約上の問題を明らかにし、お互いの責任範囲や必要コストを明確にし、例えばコストプラス契約等を行い、顧客の課題を共に具体化してプロジェクト要件を明確化し、顧客(ユーザ)及び請負側も迷うことなくプロジェクトの実行ができる契約(ランプサム契約)を行うといった手順が必要となってきています。
 さて、どちらにしても、顧客との共同作業で課題解決を行い、要件が明確になって実行段階に入る前にはレインバーサブル条件でもランプサム条件の場合でも、必ず契約調印といった行為が出てきます。そして実際のプロジェクトの行動が開始されます。
 このプロジェクト実現段階では、その契約様式といった書式に関する知識が双方に必要となってきます。
 その基礎的知識としてすでに説明したFIDICやENNA モデルの契約約款の内容を理解し、契約書の作成に対応できるようにしておく必要があります。
 このように、顧客側の要求内容の不明確な状況でのプロジェクトやRFP に基づくしっかりとしたプロジェクト要求内容での作業の進め方は初期段階での顧客側・請負側双方もこの種の仕事の進め方での能力や熟達度に大きく影響されます。
 いずれの場合でもプロジェクトの実現段階までの工程での違いもあるが最終的に「このような条件と内容で本プロジェクトを契約調印する」といった段階では何らかの契約行為が必要となってきます。
 以下にその一般的にそろえておかなければならない様式や約款を参考に示してみました。
契約様式
Form of Agreement)
  • 一般約款
    (General Terms & Condition)
  • 特別約款
    (Special Condition)

注:
契約書は大きく分けて、一般約款と特別約款がある。定型的な小規模プロジェクトやレインバーサブル条件による共同作業での要件明確化後のランプサム契約は一般約款の定型条文でだけでの処理で十分である。しかし、複雑・規模大のプロジェクトでは一般約款だけでは不充分であり、特別約款条文やその他の付帯書類の準備が必要となる。いずれの場合も正式契約までの契約交渉は顧客(ユーザ)も請負う側も必ず実務につくプロジェクトマネージャとの共同作業で、契約書を作成して行く必要がある。特に投資型プロジェクトは財務や法務もからんでくるのでその調整役としての役割も出てくる。このため、プロジェクトマネージャを含むそのスタッフも契約条文やプロジェクトの特性に会った契約形態についての知見を持っている必要がある。

 なお、ここまでは契約までの道筋について述べてきましたが、実際の契約となるとプロジェクトに内在する各種の心配事項があります。
 一応契約書では各種条件を設定するがプロジェクト実行中に「いつ何時何が起こるかわかりません」。レインバーサブル条件においても顧客側と詳細に作業内容を膝詰めで話し合って決めてきても、実際プロジェクト実行中に気が変わり契約時に「決めた事をよくよく考えたら、また担当が変わったから」を理由に変更することもあります。
 すでに「ゼネラルなプロ150」以降で述べてきたリスクマネジメントにおける契約というものが如何に重要であるか読者諸氏は理解されていると思います。
 プロマネの立場にある人の中には契約交渉は営業がやるものと思っている人が多いと思いますが、それは間違いであり、上記に述べたような種々の案件に縦横無尽に対応していくには契約内容や条件設定を十分把握しているプロジェクトマネージャの役割といったものがいかに重要かということです。
 ところで契約における書式は契約様式や約款だけではなく、付帯書類を含む多くの書類から構成されます。
 その一例を大型プロジェクトのケースで示します。

契約書の様式や形態(大型プロジェクトのケース)

 この契約書の様式や形態からもわかるようにお互いに考えられることを書類として残し後で「言った、言わなかった」などの齟齬が生じないようにしておくわけですが、プロジェクト実行段階でいろいろなことが起きます。

 来月号では初期段階の契約での交渉やプロジェクト実行中でのコミュニケーションについて話を進めていきます。

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