マインドセット 「やれば出来る」の研究
(キャロル・ドゥエック著、今西康子訳、(株)草思社、2020年7月21日発行、21刷、351ページ、1,700円+税)
デニマルさん : 7月号
今回の本を紹介する前に、この本との出会いの経緯に触れて置きたい。昨年11月にY新聞が「ビル・ゲイツ氏「最高の本」寄贈5冊、京都の図書館で発見」との記事を掲載した。その内容は、京都府立植物園(京都市)内の図書館が米マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏からの寄贈本5冊を発見した。それはゲイツ氏の関係者が5冊の本とゲイツ氏からのメッセージカードを添付して寄贈したという。当時、ゲイツ氏は世界100カ所の小さな図書館に本を寄贈すると2022年11月にブログで発表していた。詳しく関連の財団に問い合わせて、寄贈の事実を確認したという。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が「人生で読んだ最高の本5冊」として選んだ書籍が、京都市左京区の京都府立植物園にある「平安の郷 こども文庫 きのこの家」(きのこ文庫)に国内では唯一、贈られていた。ついでながら「きのこ文庫」は、京都府立植物園(京都市左京区下鴨半木町)にある「きのこ文庫」で、1985年4月に設立された野外図書館である。その名前の通り緑の木々に囲まれた広場に、黄色にオレンジ、赤、緑と、色とりどりの大小のきのこが点在し、全部で4つのきのこ文庫があり、子ども向けの図鑑や絵本など、約3000冊を所蔵。そばにはベンチがあり、誰でもきのこ文庫の本を手に取って自由に読むことができる様になっている。利用は無料で、植物園に来た子どもたちが主に利用出来ると紹介されていた。本題に戻ろう。ゲイツ氏は、読書家としても世界的に知られている。筆者は、その記事からビル・ゲイツ氏のブログ(GatesNotes)でお勧めの本について調べてみた。2012年12月から283冊もの本を自身の所見も含めて掲載している。その中で2015年にFACTFULLNESSとMINDSETが取り上げられていた。このFACTFULLNESSは、話題の本(2019年5月号)で紹介したこともあり、何かの縁を感じた。しかし、MINDSETは未だ紹介していなかったので今回取り上げてみる事にした。因みに、ゲイツ氏は「MINDSETは教育の現場に留まらず、才能を開花させたいビジネス・パーソンや、困難に立ち向かい成功を収めることの出来る子供を育てたい親にとっても、重要な示唆を与えてくれる。」と評している。MINDSET(マインドセット)についての概略は後述するが、自己啓発に関する本である。筆者はPMAJが未だJPMFと称した雑誌ジャーナルの時代(1999年2月)から書籍紹介の出筆をさせて貰っている。その結果、24年間で250冊以上も紹介している。過去の資料ではPMと経営関連の本が6割で、残りの4割が小説や自己啓発等の書籍である。今回、久し振りに自己啓発の本を紹介させて頂きたい。さて著者を紹介すると、キャロル・ドゥエック氏はスタンフォード大学心理学教授。パーソナリティ、社会心理学、発達心理学における世界的な権威。イエール大学で心理学博士号(Ph.D.)を取得後、コロンビア大学、ハーバード大学で教鞭を執り、現在に至る。人間の思考様式への関心は30年来で、モチベーション、人間関係、メンタルヘルスに関する研究で大きな業績をあげてきた。
マインドセットとは? ――発達心理学から認知行動学――
著者は冒頭に「人間の信念は自分自身が持っている意識であり、その意識に大きく影響される。人生のあり方を左右する意識がマインドセット(心のあり方)である」と書いている。
マインドセットは、知的能力だけなく、注意力、記憶力、判断力等々を総合した人間力も含む統合意識である。このマインドセットは、過去の経験や教育の内容、育ってきた社会、個人的な先入観などの、様々な要素によって形成される無意識の思考パターンや固定化された考え方で、ある状況に対する人の行動や受け止め方は、その人が持っているマインドセットの影響を受けるといわれている。どのようなマインドセットを持っているかによって、チャンスと受け取るかピンチだと考えるか、また能動的に行動するか受動的な態度をとるかなどの行動が決まるため、その後の成果にも大きな影響を与えると考えられている。著者はマインドセットには「硬直マインドセット(Fixed Mindset):自分の能力は石版に刻まれたように固定的で変わらないと信じている人」と「しなやかマインドセット(Growth Mindset):人間の基本的資質は努力しだいて伸ばすことが出来ると信じている人」の二種があると分類している。それぞれのマインドセットの人は、同じ出来事に対して結末が大きく異なる結果となることも書いている。長い人生でどちらが社会により適合し易いかは、ご想像下さい。
マインドセットは自己改革? ――教育・ビジネス等々にも適用――
先の二種のマインドセットに対して、自分はどちらの人間であるかを知る事も大切である。
著者は以下の設問を上げている。①知能は人間の土台だから、変えるのは殆ど不可能である。②新しいことを学ぶことは出来ても、知能は変えることは出来ない。③知能は、現在のレベルに関わらず、伸ばすことは出来る。④知能は伸ばそうと思えば、相当伸ばすことが出来る。以上から知能を芸術的才能、運動能力、ビジネススキル等に変えて考えるとより分かり易い問題となる。人間は肉体的に精神的に進化し続けているので、成長と同時に退歩もする。従って現状を固定化することは難しい。このマインドセットは、色々な意味で変化する過程で、社会に役立つスキルの向上を目指して、自己改革をする方法を教育・ビジネス等々の各分野に向けて多くの事例を書いている。最終章では具体的なマインドセットのステップ方法にも触れている。「いつ、どこで、どのように実行するか」と計画の立案方法も書かれてある。
それも「しなかやマインドセット」と「硬直マインドセット」を項目別に対比させながら図式化している。懇切丁寧に分かり易く書いてある。最終的には自分の実行あるのみと纏めている。最後に自己改革の方法で余談を追加させて貰いたい。WBC(ワールド・ベースボール・クラッシック)やメジャーリーグでも活躍中の大谷翔平選手が、高校時代から実行していた自己改革(実現)方法が話題となった。このマインドセットとは別な手段だが、非常に具体的なのでご紹介する。「マンダラ―ト」と称する9個のマス目(3×3)の真ん中に実現したい目的項目を書く。その目的を達成するのに必要な要素を具体的に8個(上・下、右・左に各2個)列記する。説明不十分だが、ご興味があれば一度調べてみては如何でしょうか。
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