図書紹介
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FACTFULNESS(ファクトフルネス)
――10の思い込みを乗り越えて、データを基に世界を正しく見る習慣――

(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著、上杉周作、関美和訳、日経BP社、2019年1月25日発行、第4刷、397ページ、1,800円+税)

デニマルさん : 5月号

今回の紹介する本は、衝撃的な内容で筆者の過去の認識を疑うことが多かったことと、新たな発見も多々ありお薦めしたい内容である。オビ文には「名作中の名作。世界を正しく見るために欠かせない一冊だ」とビル・ゲイツが絶賛し、2018年にアメリカの大学を卒業した学生のうち希望者全員にこの本をプレゼントした程である。更に、「思い込みではなく、事実をもとに行動すれば、人類はもっと前に進める。そんな希望を抱かせてくれる本」とバラク・オバマ元アメリカ大統領が称賛する推薦文が書かれてある。同時に、貧困、教育、環境、エネルギー、人口問題で「あなたの常識は20年前に止まっている?」とある。実は、この本には世界の現状をどの程度知っているか、13の質問がクイズ形式で出題されてある。その質問の中から「世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったのでしょうか?」の回答は<A:約2倍になった。B:あまり変わらない。C:半分になった。>を選択する。その正解率が7%だと書かれてあるが、スウェーデンが25%、日本が10%、アメリカが5%だという。何故、こんな回答結果になったのかを著者の経験と実践から書いたのが、この本である。その著者は、医師であり、グローバルヘルスの教授であり、教育家としても著名である。世界保健機構(WHO)やユニセフのアドバイザーを務め、スウェーデンの国境なき医師団を立ち上げた他、ギャップマインダー財団を設立している。タイム誌が選ぶ世界で最も影響力の大きな100人に選ばれたと紹介されている。特に、著者がアフリカや東南アジア等の後進国での医療活動から、限られた医療施設や医薬品から伝染病や病人を救うには、健康な人を守り病気に対する正しい知識と教育の必要性を力説している。もう一つこの本から、統計データの数値から分かり易いグラフ化(見える化)の方法を新たに示した様に思う。その中で、世界の人口分布を国の所得別(1日当りの購買力をUSドルに換算)に4区分して大小のグラフ化した表は非常に分かり易い。表紙の裏の「所得と寿命の分布」の図が、健康と金持ちの関係を明確に表している。こうした新たな発見が文章だけでなくグラフからも世界を読み解き、思い込みから解放される良書である。

本能による思い込み?         ――「直線本能」等々――
この本の副題に「10の思い込みを乗り越えて」とある。著者は、この思い込みを人間の本能的なものと捉えて、数々の事例を挙げながら説明している。全部の思い込みを列記出来ないが、直線本能「世界の人口は『ひたすら』増え続ける」という例を見てみると、この『ひたすら』をグラフ化すると直線的な伸びを示す。現在76億人の人口は、国連予測で2100年が110億人である。その後、自然と調和(女性の出産率減少や少子高齢化や先進国の人口減の傾向等)で直線でなく横這いになると予測されている。『ひたすら』という思い込みを改めて、直線からS字カーブにも、下降線になることも知るべきと著者は指摘している。

思い込み本能からの脱却?       ――統計数値のグラフ化――
世の中には数々の統計数値が存在する。その統計数値から、見えない未来を予測・予想をするが、その過程で人間の本能的思い込みが色々と影響する。その思い込みを捨てて、未来予測をするには、数値を時系列的に並べるだけなく、何かと比較して見る。その比較を10年、50年等とスパンを広げ、国や地域等の相違点を探り、収入や消費等の経済的な対比もし、全体的な側面からどの数字で割るべきか検討する。その結果をグラフ化して、過去の思い込みを捨てて、冷静に特性を見出す事が肝心であると書いている。その例から、この本の裏表紙の裏に示された4つの所得レベル毎の写真と人口分布図は大いに参考になる。

ファクトフルネスとは?        ――事実から世界を見る――
この本の題名のFACTFULNESSは著者の造語で、「事実に基づいた世界の見方を広め、人々の世界にまつわる圧倒的な知識不足を無くしたい」と書いている。そしてギャップマン財団を設立し、世界中で講演活動をしていた。そのFACTFULNESSは「データや事実に基づき、世界を読み解く習慣で、賢い人程とらわれる10の思い込みから解放されれば、癒され、世界を正しく見るスキルが身につく」と定義して、世界を正しく見る、誰もが身に付けておくべき習慣でありスキルだと書いている。特に、貧困、教育、環境、エネルギー、人口問題についての世界の正しい見方と、それを妨げている本能的な思い込みの関係を指摘している。具体的には「世界は分断されていると思われている」という『分断本能』は、良いか悪いか、正義か悪か、自国か他国か等の二項対立でなく、その中間部分に多くの事実がある。それと分断には、相互に重なり合いがあって分断ではない事が多いという。その事実を分かり易くグラフ化して示すのがFACTFULNESSだとも書いている。冒頭の「世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったのでしょうか?」の正解は、<C:半分になった。>である。正解率が7%の難問である。それと、この本の著者であるハンス・ロスリング氏は、出版前の2017年2月に亡くなっている。1年前に未期の膵臓癌と宣告され、息子夫婦との共同作業中だったと書いてある。心からご冥福を祈りたい。

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