図書紹介
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宝島
(真藤順丈著、(株)講談社、2018年12月19日発行、第5刷、541ページ、1,850円+税)

デニマルさん : 4月号

今回紹介する本は、色々な意味で話題性に富んでいる。先ず、第160回直木賞(2019年1月決定)を受賞している。そして、その本の内容が沖縄における諸々の出来事がベースとなって展開されている。その点に関して直木賞の選考委員である林真理子さんは、「平成最後の年になって、沖縄の方々の脊負ってきた歴史を、重く暗く描くのではなく付き抜けた明るさで描いたのは真藤さんの才能です。その結果、圧倒的な票を取り一回で決定しました」と語っている。その沖縄では普天間基地移設問題の県民投票が行われて、多くの県民が移転反対の意思表示をした。これから政府は、どう民意を反映していくのか問題が残されている。今まさに沖縄はホットな話題の火中にある。しかし、この沖縄の問題の本質は、直ぐには解決出来ない、日本の安全保障の根幹を成す問題でもある。著者は、この本の執筆に7年を費やしている。著者はインタビューで、「沖縄の人間ではない僕が書くことに、何度も葛藤した。沖縄の問題を、腫れものに触るように扱うことは、潜在的な差別感情があるのと同じ。(中略)この作品から我々日本人が沖縄の問題を考える時の一助になれば良い」と答えている。著者は、東京都出身の42歳。2008年「地図男」で第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞してデビュー。色々な新人賞を獲得しているが、昨年今回紹介の本で第9回山田風太郎賞を受賞している。山田風太郎賞といえば、「罪の声」(塩田武士著)が受賞していて、この話題の本(2017年6月号)で紹介した。こうした話題豊富な本である。ここでチョット話を変えて芥川賞や直木賞等の受賞と、その本がベストセラー本となるかを調べてみた。最近の事例だと、2018年芥川賞の「おらおらでひとりいぐも」(若竹千佐子著)はトーハンの年間売上ベストの11位、2017年直木賞の「蜜蜂と遠雷」(恩田陸著)で年間売上ベストの3位にランクされていた。各賞の受賞は、ベストセラーになる可能性はあるが、その本の内容と話題性にある様である。その意味では、今回紹介する本は、総合的なエンターテイメント的な小説で、500ページを超える大作である。読み出したら止まらない、スピードとテンポの中に温かさと深みのある本である。更に、著者の云う沖縄の問題を日本人としてどう考えるかが問われてもいる。その答は、本を楽しみながら探って頂きたい。

宝島とは?           ――HERO’s ISLANDである――
題名の「宝島」だが、副題にHERO’s ISLANDとある。宝島だから宝があり、その宝を探すと言うか、略奪する輩がヒーローとなっている。このストーリィは、沖縄をベースに展開されている。その沖縄は太平洋戦争で地上戦が戦われ多くの人命が失われた。そして戦後、アメリカ軍が駐留する基地と化して、自分たちの土地を奪われた状況下にあり、現在の沖縄を重ねている。その基地のある島が、宝島なのだ。その基地のアメリカ兵をアメリカーと呼んでいる。アメリカ人はアメリカンだが、アメリカーとは、親しみを込めたのか皮肉を込めたものか。基地を宝として、若者たちの宿命を背負った宝探しの物語である。

宝島の戦果アギヤー?       ――宝があるから宝を漁るHERO――
この本の文中に「戦果アギヤー」というグループの名前が頻繁に出てくる。戦果とは、戦争での成果物であり、アギヤーとは宮古島の方言で「引き揚げる」の意味だ。ここでは、基地内の物資を略奪するグループの総称としている。その略奪された物資(食料品から医薬品を含む生活必需品等々)は、戦後生活に苦しむ人々に配られていた。だから戦果アギヤーは、義賊の様で多くの人から英雄視されていた。その戦果アギヤーの中で、伝説的なリーダーのオンちゃんが行方不明となる。その行方を探すオンちゃんの弟「レイ」と親友の「グスク」とオンちゃんのガールフレンド「ヤマコ」の活躍が物語の縦軸となっている。

宝島は沖縄の戦後史?       ――史実からのストーリィ展開――
この小説は面白い構成で書かれている。主人公は先の戦果アギヤーの面々で、戦果アギヤーから警察官になったグスクと、ヤクザとなったレイや、小学校の教員となったヤマコの仲間たちだ。この話のベースとなっている沖縄で数々の事件に巻き込まれる。歴史的には、1952年から1972年の間に起きた大きな事件に戦果アギヤーが絡んでくる。沖縄の戦後史の流れの中で、戦果アギヤーと沖縄県民がフィクションとしての物語が展開される。余談になるが、同じ沖縄の問題を小説化した「運命の人」(山崎豊子著)を、この話題の本で紹介したことがある。2010年1月のことであるが、沖縄返還に関する日米交渉の「極秘文書」をスクープした新聞記者の物語だったが、内容的に重なるものがあった。本題に戻ると、沖縄刑務所暴動事件には、グスクが伝説的な活動家・瀬長亀次郎と出会ったりしている。それと宮森小学校ジェット機墜落事故では、ヤマコが教員として生徒の事故対応とその後の処理に巻き込まれている。最後には、基地内弾薬庫の毒ガス漏洩事故騒動から続く住民運動はコザ暴動へと繋がり、物語のクライマックスとなる。それから沖縄返還協定の締結へ歴史は動いていく。その過程を著者はテンポ良く書いているが、途中途中に土地の語り部が語る様に沖縄方言でルビを入れて話を和らげている。最後に、戦果アギヤーが探し求めた伝説のヒーローのオンちゃんの話だが、これは読んでのお楽しみとして残して置きたい。

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