『第202回例会』 報告
PMAJ 例会部会 田邉 克文: 11月号
【データ】 |
開催日: |
2015年9月25日(金) 19:00~20:30 |
テーマ: |
「成功に近づく、メンバー・リレーションシップ・共働マネジメント」 |
講師: |
市川 久浩 氏/株式会社 IDCフロンティア 経営戦略本部 本部長 |
【第202回例会 報告】
プロジェクトマネジメントが成功するためには、関係者とのコミュニケーションは一つの重要な要素となります。講師が今までの仕事を通して学ばれた、発注者と受託者という枠を外し同じチームとして「共働」することの重要性について、経験談を交えてご講演いただきました。
<講演内容>
~はじめに~
プロジェクトマネジメントは、10年前に研修を受けた際に知り、現在の仕事のヒントとしている。プロジェクトマネジメントは、スコープ、リソース、スケジュールの制約の下管理されるが、その中のリソース、特に関係者のコミュニケーションにフォーカスして話をする。
~自己紹介~
新卒でカード会社のアメリカンエクスプレス社へ入社し、マーケティングの仕事を経験した。その時に非常にプライドの高いプロフェッショナルな人達 (広告代理店、編集者等) と仕事をする良い経験ができた。その後、トレンドマイクロ社で、サポートデスクのアウトソーシング業務の改革の仕事を行った。そして、ヤフー(株) に入りカスタマーサポート (CS) 本部にて、課題解決手段として多くのツール (システム) を導入する仕事をしてきている。現在は、ヤフーの子会社である IDCフロンティアへ出向し、データセンターやクラウドサービスの展開を行っている。
今までの経験を通して学んだ重要なことが 3 点ある。
1. |
明確な目的 (ゴール) 持つこと
価値観の違う人達が集まるので、共通の目標を持つことが大切である。 |
2. |
情報の共有
異なるロケーションで、スケジュールをコントロールし、ステータスを共有することが重要。 |
3. |
敬意と尊重
アメックス時代、当時の会社のバリューとしていた言葉で、今も心に残っている。
人に上下はなく平等であり、たまたま発注側と受注側の立場になっただけのことなので、互いに敬意と尊重をもってのぞむことが重要だと考えている。 |
~システムプロジェクトの背景~
経営トップが目標とした201X 年 3 月までに、営業利益を 2 倍にすることを目指してスタートし、その時の問合せ量が現在の 1.5 倍になると想定した。しかし、増加量に合わせて人を増やすことはできないため対策として 3 つの解決力を上げることを掲げた。
1. |
サービスの解決力を上げる。 |
2. |
ヘルプでの解決力を上げる。 |
3. |
回答の解決力を上げる。 |
この3つは、お客様から問合せの流れのステップとなっており、これらを解決できるようにした。(メインの流れ : 【 お客様 】→サービスページ→ヘルプページ→問合せ/回答)
解決の手段としては、オラクル社の Right Now という製品を採用している。
選んだ理由は、シングルプラットフォームで、動線 (サービスページから回答まで) が一貫して管理できる。
上記の 3 つの解決力を上げることで問い合わせを削減することを目標とした。
~プロジェクトで取り組んだこと~
プロジェクト体制は、自分は本部長としてプロジェクト責任者となり、直前に異動してきた経験豊富で有用な人材をITのプロジェクトマネージャーに置いた。特にヘルプ作成の部分は重要視し、フロントエンド、バックエンドの 2 つ体制に分けた。中でも重要だったのは、オラクル社のキーパーソンとの関係だった。
外部の方にプロジェクトをお願いして成功させるためには、能力だけではなくて相性が重要である。我々の課題を同じ言葉で理解してくれ、同じゴールを背負ってくれて、一緒に伴走してくれそうな人を見つけること、その上でその方を完全に信頼してコネクションを深くして、プロジェクト開始することを意識している。そうすることで、時には厳しいことを言うこともあるが、信頼関係をベースに、お互いプロとして仕事ができる。
また、プロジェクト内の情報共有の重要性を意識し、初めて広報担当を任命した。
全国 7 拠点ある中で、なかなかダイレクトにコミュニケーションができていない社員を同じ方向に向かせて、考え方を共有して一緒に動いてもらえるように工夫した。
具体例としては、現場の担当者の顔を見えるようにし、自分がシステムを使う当事者として、プロジェクトに関わってもらえるようにしている。また、研修風景等も記事にして状況を伝えている。
~プロジェクト成果~
ヘルプと回答の解決は明確な数値目標を決めてスタートし、結果、問合せは減らすことができたが、ヘルプページだけではそんなに減らなかった。やはり、お客様からの動線を改善する必要があった。チャットによるサポートは、3月の導入からしばらくしてから開始し、チャットの導入により対応の満足度を向上することができた。お客様が問合せを送信してから最初の回答までの時間が、メールの場合だと24時間以内に90%を返すことを目標としていたため、回答をお待たせする時間が最長で24時間近くなってしまう場合があるが、チャットでは、平均対応時間 13 分で解決できるようになった。
また、チャットの導入により、現場のやりがいも満足度も向上している。双方向のコミュニケーションが取れることから、お客様の言葉が直接受け取れ、「ありがとう」という感謝もリアルタイムで受け取れる。また、不明な点を確認しながら、かつお客様の感情に寄り添った内容で伝えられるので、メールだとクレームになってしまう内容もチャットだとクレームにならずに解決できるようになった。
このような状況から、CS本部ではチャット活用に力を入れており、メールでの対応を極力チャットでの対応へ切り替えようとしている。
参考 : メールとチャットの比較例
~今後のチャレンジ~
今までの経験を通して言える事として、システムは導入しただけでは終わらない。
システム (道具) の力は、それを使う社員のモチベーションや、情熱があって初めて効果が出る。システムだけでは、宝の持ち腐れでしかない。
当時社員に伝えたことは、「能力を磨き情熱を解き放つ」こと。
社員は戦力であり、リソースではない。
戦力 = 人数 × 戦闘力
戦闘力は一人一人の能力を磨き、情熱を開放する。このことを強く感じ、意識していた言葉であり、能力を引き出すのはマネジメントの義務であり、責任だと非常に強く感じている。
ヤフーカスタマーリレーションズ (当時CS部門の社員はグループ会社のヤフーカスタマーリレーションズに所属をしていた) の社員が、ヤフーへ合流することが決まってから東京と東京以外の拠点にいるリーダー職以上 (部長、課長級) のチームワーク強化が絶対必要だと考え、「共働」をテーマにしたワークショップを始めた。
ワークショップは、3 ステップからなる。内容は、お互いの優越を超えた価値観の違いがあることを意識し、自分と向き合って対話してもらう。そして、自分のことを認めてもらうような気づきのワークショップを行い、そこから他者への理解、他者を承認することを期待した。参加者は40人弱で、3 か月間かけて実施した。
ステップ 1 ・・・優越を超えた価値観、自己との対話、自己承認、他者理解、他者承認
ステップ 2 ・・・自己の枠を広げる他者理解を深める
ステップ 3 ・・・信頼・敬意・尊重
ワークショップは、仕事に関する考え方を絵に描くことで進められる。
例えば、仕事で大事にしていることをテーマに各自に絵をかいてもらい最後に、発表する。
大人になってからマインドや考え方を変えることは大変なことであるが、描いた絵を触媒とすることで、各自の「想い」や「根っこ」のようなものが共有でき、なかなか飲み会でも得られないエネルギッシュな経験をすることができた。
~まとめ~
プロジェクトマネジメントを含めどんな仕事をするにも人がかかわらないものはなく、人がかかわる限り、コミュニケーションはどんな手段、やり方でもよいが大変重要である。また、コミュニケーションをする上で意識するのは、ゴール (何のためにやるのか?)、情報共有、他者に対する敬意と尊重である。
最後に、システムの力 × 社員の情熱、この 2 つの抱き合わせが重要で、社員はリソースでなく戦力。そして、戦力が使えるかどうかは組織トップの戦力を使いこなす能力によると考えられ、組織のトップは能力を磨き続ける義務がある。
(以上講演内容)
<感想 (レポート筆者) >
今回の講演を聞いて改めて人と人との関係、コミュニケーションの大切さを再認識しました。受注者と受託者は対等であり、かつ、お互いに敬意尊重し仕事を進めていく姿勢は、自分としても気づきを感じ、普段の仕事の中でそのようなスタンスでのぞみたいと思いました。また、最後の質問の回答で、講師はCS本部の責任者だった当時、クリスマスカードを従業員 430 人分手書きで出されていたとお聞きしました。自分がそれを受け取る立場だと考えた場合、必ずや仕事へのモチベーションへつながるのではないでしょうか?普段当たり前のように仕事の関係でのみやり取りしている上司/部下の関係の間でも、このようなコミュニケーションも大切なことだと思いました。
最後に、我々と共に部会運営メンバーとなる KP (キーパーソン) を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
以上
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