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「グローバルと日本のモチベーション」

富士通アドバンストエンジニアリング 小原 由紀夫,PMP [プロフィール] :3月号

 日本のプロジェクトにおけるモチベーションは高いことで知られています。モチベーションを研究するアメリカのある教授が「日本のプロジェクトメンバーは家庭を顧みないほどプロジェクトに貢献される非常に高いモチベーションを持たれています。」と説明されたことがあります。最近、グローバル化の影響からモチベーションに変化が起きていると感じています。「アメとムチ」が強過ぎてマイナスが多くなってしまう場合もあります。プロジェクトのメンバーが、子供が際限なく遊び続けるようなモチベーションで活動できれば、プロジェクトは成功に近づくはずです。

 まず、ダニエル・ピンク 著「モチベーション3.0」からモチベーションについて確認します。
モチベーション1.0=生き残り:生物としての本能的欲求=食欲、性欲(5万年前~)
モチベーション2.0=アメとムチ:「報酬を求める一方、罰を避けたい」(20世紀)
モチベーション3.0=自発と夢中:自律・熟達・目的:活動そのものから喜びを得る(21世紀~)
 モチベーション1.0と3.0は本能的なものですが、モチベーション2.0「アメとムチ」は報奨金というアメと怠けやミスに対する制裁というムチという外的なしくみです。ルーチンワークには、アメを求める、または、ムチを避けようとする動機はプラスの効果を発揮します。一方、創造的な仕事では、①短期思考、②自発的な意欲の喪失、③創造性への侵蝕の3つのマイナスの効果が発生する可能性があります。モチベーション3.0とは「子供が夢中で際限なく遊ぶ」モチベーションを示します。これは先天的に子供に備わっているものであり、教えられたものではありません。むしろ、一見無秩序に見えるこれらの行動を、「いつまでの子供みたいなことしないように」と慎むことを指導します。そして、分別ある大人になっていきます。
 次に、多くの大人が持つ仕事と趣味について考えてみましょう。仕事は「やらなけでばはならない」ことを、趣味は「やりたい」ことをします。趣味へのモチベーションは子供の遊びと同様に自分で自分自身に対して行うモチベーション3.0です。趣味であれば、「やりたい」ことと「できる」ことのギャップを「どうすればできるか」を考えること、何度も試行錯誤すること、そして、その成果を楽みます。ほとんどの人は、子供の頃に夢中で遊んだ経験と趣味を持ちます。つまり、プロジェクトのメンバーは、モチベーション3.0の能力と経験を持っています。
 「やりたい」ことはどこから生まれるのでしょうか?「やりたい」ことは内面にある各々の信条や価値観から生まれるはずです。「アメとムチ」は、組織やプロジェクトの価値観に基づいて提供されます。プロジェクトメンバーの価値観とプロジェクトの価値観の共有部分が大きいと「やりたい」ことと「やらなけでばはならない」ことの共有部分が大きく、「プロジェクトの成功に向け創造的な活動が期待できます。逆に、価値観の共有が小さいと上記に示した「アメとムチ」のマイナス効果が強くでてしまいます。
 最後に、モチベーション3.0のために、プロジェクトメンバーの価値観とプロジェクトの価値観の共有部分を大きくするための方法を考えましょう。PMが仕事を理由に強制するだけであれば、「やりたいこと」の出番はなく、モチベーション1.0の生き残りがプロジェクトメンバーのテーマとなってしまいます。「アメとムチ」だけでは、プロジェクトの価値観だけが優先されてしまい、共有を大きくすることはできません。共有するためには対等であることが必要です。対等とするために、プロジェクトメンバーはプロジェクトの成功が期待される背景を、PMはプロジェクトメンバーのプロとしての期待を理解するために、互いを尊重して会話します。この会話を通じて、多くの懸案事項や前提条件とそれらに関する提案が出されることにより価値観の共有が大きくなります。この会話はプロジェクトの開始時点の計画立案時に行われるとより有効です。モチベーション3.0が発揮される計画立案時の会話によりプロジェクトメンバーのモチベーションが高まり、プロジェクトを成功に近づけていくことができます。
 日本は、相手を思いやり、世間に目を配っていきていく文化を持ちます。本能的なモチベーション3.0を発揮し易い日本の文化に注目して、家庭を顧みる個人の信条を尊重しながら活用していきます。

以 上
<参考文献>
モチベーション3.0 ~持続する「やる気!」をいかに引き出すか~ ダニエル・ピンク (著) , 大前 研一 (翻訳) 2010/7 講談社
プロジェクトマネジメント~部門横断的な方法で行うプロジェクトの計画・実施を習得する基礎コース~,第9.4版,ケイデンスマネジメント社,2009年

<小原 由紀夫プロフィール>
株式会社 富士通アドバンストエンジニアリング
システム技術本部 共通技術センター シニア・プロフェッショナル
1983年富士通入社、出向、転籍を経て現職。20年間、日本の電機・自動車のグローバル企業の工場システム構築にベンダーのプロジェクトマネジャとして参画した。
2009 PMI Continuing Professional Education Provider of the Year Award を受賞した、米国ケイデンスマネジメント社認定講師としてグローバルPMメソッドを普及し、TPSのセミナーと実践支援をしている。PMP。PMAJ会員。PMI会員。
PMAJ-IT-SIG「TPSに学ぶPM-WG主査。
<主な発表>
PMシンポジウム2008/2009/2010/2011
ソフトウェアテストシンポジウム2010(JaSST2010) ベストスピーカ賞
PROMAC2010 [English]
第5回世界ソフトウェア品質会議 Best of Best[English] (Best of Best のNo.7参照)
「ITプロジェクトのためのなぜなぜ5回(階)」

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