「経営とITの融合」-経営から見たIT化とITから見た経営の相違-
PMAJ理事 渡辺 貢成:7月号
1.はじめに
IT-SIGからのメッセージは今までIT専門家からのメッセージであった。今回はITの門外漢が見たに平均的な日本企業のITプロジェクトの問題点を指摘し、対策を述べさせていただいた。参考のために門外漢の履歴を紹介する。プラント系PMで、海外の石油精製プラント建設8年、原子力関連プロジェクト12年、最後は国際宇宙ステーション8年のPM生活で、ITとの付き合いはPMAJの前身JPMFの初代の事務局長をした1998年からである。JPMFのメンバーの70%はIT関係者であり、立場上メンバーサービスのためにITの勉強を始め、現在はP2M学会の「経営とITの融合」研究会で教えを受けている。
JPMFで最初に言われたことは、「あなたはKKDのPMで、我々はPMBOKでサイエンスです。技術が何年も変わらないプラント系と違って、私達はドッグッヤーで技術が新しくなっており、やりがいのある仕事をしています」。私はエンジニアリング業界紙に「プロジェクトマネジャー自在氏の経験則」というエッセイを毎月2回書いていたからKKDと思われたらしい。しかし、勉強をしてみると、云われる通り、「なるほどなるほど」である。ITの講演会では、一つの画面にたくさんの図と表が書かれており、わからないカタカナ言葉で説明されるから、わからないながら何か素晴らしいのだと感じて、また、「なるほど、なるほど」だった。
ところが世間の評価は芳しくなく、「ITプロジェクトは3K」だという。これは何かあるなと思ったが、業界の現場を踏んだことのない人間にはホンネが見えてこない。そこでIT-SIG研究会に入れてもらった。お陰でいろいろなことが解かり、これを列記してみた。
① |
顧客が自分の要求を業者に書かせている |
② |
国際的に通用している契約と違って、契約後追加変更を多い。業界では「2-4-2-3の法則」があるという。最初の契約を2で行うと、いつの間にか4に膨れ上り、ベンダーPMの努力で、2に戻すと顧客の現場が3にまで戻されるという法則である |
③ |
IT-SIGが1年掛けて調査したリスクマネジメントによると、本来顧客が負うべきリスクをベンダーに負担させている |
④ |
構想計画をしないでIT化を進めているので、ITの投資効果をほぼ評価していない |
⑤ |
米国で実績のあるソリューションパッケージを導入しても、実質的な業務改革を行わず、現状の業務にあわせたIT化をしている。 |
門外漢とはいえ世界の一流企業のプロジェクトをやってきた目でみて、「ITの発注者は世界の常識に疎い」と思った。しかし、このことを指摘しても、日本の業界では昔から常識として通用しているから誰も取り上げてくれない。発注者は「やりたい業者はたくさんいるから止めてもらっても結構だよ」といわれるから誰も抵抗できないと言う。
2.近年の研究成果
この2年間は国際P2M学会の学者、経験者を含めた「経営とITの融合」研究会で勉強をしている。学んだのは1990年以降から最近の米国企業の動きである。製造業で日本に敗れた米国経営者は日本へのリベンジに「デジタル技術」を経営に最高に取り入れ、グローバル体制を確立し始めた。2001年に出版されたDBD(デジタル・ビジネス・デザイン)という本を読むと経営者の努力がわかる。また、2010年には拡張性の高いネットワーク系のBM(ビジネスモデル)を構築するBMG(ビジネス・モデル・ジェネレーション)出版され、この分野への経営戦略が求められている。
1 ) |
米国企業のデジタル技術活用について日本企業との大きな違いを列記してみる |
① |
顧客への価値提案: |
新しい収入源の拡大(より効率的な市場を新たに生み出す。幅広い製品・サービスの提供、能動的顧客をつくり出し、共同開発等) |
② |
社員の業務の質の向上: |
付加価値の低い業務から高い業務へのシフト(ナレッジマネジメントとの連携) |
③ |
意思決定のための情報の精度向上: |
全社データベースの一元化と評価システムの確立 |
④ |
10倍の生産性向上: |
アナログ時代は5~10%であったが、デジタルは10倍もの生産性に寄与している(事例省略) |
⑤ |
拡張性高いネットワーク系のBM(ビジネス・モデル)が増えている |
2)日本企業のIT化
それに比べて日本企業の経営者は自らがデジタル技術の可能性に賭けるより、米国産の成功したパッケージを導入する手っ取り早い方式を取り入れ、実質的には社内のIT専門家に任せている。残念ながらプロジェクト発注者のIT専門家は経営に詳しくない。そこでITベンダーが提案するパッケージを導入し、自社のシステムとの整合性を図る取り組みをした。この方式なら面倒くさい業務改革なしにシステムの導入が図れるという日本式IT化が主流となった。
最近になり導入したITパッケージが、米国と比較して経営上の成果が出ないことに一部の経営者が気付いた。彼らは経済産業省(METI)を動かし、発注者は自己が求める要求を明確にし、業者に提示すると決めた指針「超上流をIT化する勘どころ」をIPAから出版させた。続いてMETI傘下ITユーザーの経営者は協議会をもち「IT経営ロードマップ2008年」が提出した。内容は3つある。
① |
経営のIT化ステージを2(部門内最適化)から3(全社最適化)にすること。
現在日本企業はステージ2までが70%、ステージ3までが20%2008年 |
② |
経営のIT化は「業務(とIT)の見える化」から「共有化」、「柔軟化」へ |
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○ |
「経営・現業・ITの融合」における夫々の役割:経営は「視点」、現業は「情報活用」、ITは「メカニズム」を生かすことでIT経営が実現できる。 |
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○ |
現状分析: |
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・ |
現在経営者は経営戦略で自らITの活用を考えていない |
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・ |
IT部門と業務部門がそれなりに連携しようとしているが、それらの動きが現場に閉じており、経営とは分離されている。 |
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○課題: |
対応 1 |
「業務の見える化」;経営者は経営課題を示唆する。現場とITで個々の課題の見える化に取り組み、その具体的な業務改革案とそのIT化を考える |
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対応 2 |
「見える化」が十分進んだ段階で「見える化」した情報や業務の「共有化」に取り組む |
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対応 3 |
最終的には外部環境の変化に備え、ユーザー業務のシステムの「柔軟化」に取り組む(グローバル化への備え)。 |
3)サムスンのデジタル化の現状
・ |
Step1 |
-1993 |
日本製品のベンチマーキング時代 |
・ |
Step2 |
1993-1998 |
リバース・エンジニアリング(設計の本質理解) |
・ |
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1996 |
データベースの全社一元化完了 |
・ |
Step3 |
1998-2000 |
日本製品へのキャチアップ |
・ |
Step4 |
1999-2000 |
「日本追従型」から「新興市場」へ |
・ |
Step5 |
2000- |
グローバル化(新興国での顧客関係性構築を推進) |
サムスンはIMF危機に経営者の世界市場制覇への強い意思で社内体制が完備し、社内データベースの一元化、日本人からCAD/CAMシステムの徹底導入、設計、部品に関する必要技術については退職日本人技師からノウハウを徹底的に確保し、新製品の開発期間を短縮するシステムを構築した。すなわち日本の新製品を購入し、不要な機能を削除し、新興国向けの必要機能を付加して、新興国市場を席巻している。残念ながら日本では新興国との顧客関係性構築の努力を怠ってきた。
3.今後の方向性への提案
日本のIT化は経営戦略的に決定的な遅れがある。その最大の原因は事業者であるITユーザーの経営者のIT能力の欠如といえる。これまでのITプロジェクトはITという道具を利用するベンダーの価値観で動かされ、ITの活用が経営にどのような効果をもたらすかと真剣に考えたものではなかった。この基本的視点の欠如が、このような遅れの原因である。
プロジェクトには使命・目的・目標が明確なプラント型プロジェクトと使命・目的・目標を探しながら進めるマネジメント型プロジェクトがある。プラント型プロジェクトは発注者が明確な要求を受注者に示すため、構想計画をしないPMBOK型のPMで間に合った。しかし、グローバル競争に関連するプロジェクトは構想計画なしに使命・目的・目標を明確にすることができない。経営者は自らが陣頭指揮するグローバル競争に対し、戦闘的な「事業者のためのPM」であるP2Mを採用し、経営戦略とITとの融合を図ることを切に願うものである。
以上
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