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「エンタテイメント論」(37)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :4月号

エンタテイメント論


東日本大震災でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。合掌。

出典:宮崎市名取市の津波 共同通信社ヘリ

第1部 エンタテイメント論の概要

15 TV放送とTV放送産業の実態
●日本のTVドラマに関する質問
 前号までは、日本と韓国のポピュラー音楽をYou Tubeを中心に述べてきた。今月号は、テーマを変え、日本の「TVドラマ」をエンタテイメント論の観点から論じたい。

 日本のTVドラマは、どの様な「種類」があるのかを、数社のテレビ関係者に尋ねた。「そうですね。メロドラマ、ホームドラマ、喜劇、サスペンス、刑事ドラマ、歴史ドラマなどホントに沢山ありますよ」という一般的な回答であった。次に「種類」別の視聴率について尋ねると、「例えば、NHK大河ドラマなら、江、龍馬伝、天地人などのタイトルで検索すれば、視聴率は直ぐ分かりますよ」と答えた。

 筆者の尋ねた「種類」とは、ある観点(Criterion)から分類体系化されたものである。一般的なジャンル別の分類ではない。テレビ関係者ならば、業界内部の専門的分類体系があるかもしれないと期待して質問した。しかし「理屈をこねる、嫌な奴」と思われては、元も子もないので、「種類」の真意をよく説明し、再度、注意深く質問した。すると誰もが困った顔をして異口同音に「作ってみなけりゃ、分からないですよ」と答えた。「ご協力、本当にありがとうございました」とそれ以上の質問を打ち切った。

●TVドラマの質問の真意
 この「質問」の真意は、①TVドラマ制作関係者は、TVドラマをどの様な観点から専門的に分類しているのか、②どの様な分類に属するTVドラマが時流にマッチすると考えているのか、③マッチするTVドラマをどの様な観点から制作すれば、ヒットすると考えているのか等であった。要するに、TVドラマをヒットさせるための「考え方」や「方法論」を尋ねたのである。

 TVドラマ制作関係者が「作ってみなけりゃ、分からない」と答えたことは、本音であり、真実を語っていると思う。しかし本当にそれだけが答えなのであろうか?

 筆者は、新日本製鐵勤務時代、米国MCA社と組んで、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を新日本製鐵・堺製鐵所に建設するプロジェクトを推進した(現在の大阪USJが開園されるずっと以前)。その時、筆者は、MCA社の映画制作関係者に会う度に、映画をヒットさせるための「考え方」と「方法論」を尋ねた。

 新日鐡は、同社と事業パートナーの関係があっただけでなく、同社からExclusive Right(排他権)を得るために膨大な金を支払った。これは、「浮気させない権利」のことである。言い換えれば、MCA社は、新日鐡以外の日本及び世界の如何なる企業ともUSJプロジェクト、その関係の映画、音楽などに関して絶対に契約交渉や契約をしないと書面で約束した。

 この様な緊密な関係からMCA社の関係者は、絶対に外部に教えない様な種々の「ノウハウ」を筆者や新日鐡関係者に教えた。映画をヒットさせる「考え方」と「方法論」は、そのノウハウの一つである。筆者は、低迷する日本の映画界の活性化に役立つことを期待し、本連載17号(072109=2009年7月21日)で既にそれを開示している。

 なお本稿は、周知の通り、特定非営利活動法人・日本プロジェクト・マネジメント協会(PMAJ)のHPの連載記事であり、営利目的のものではない。筆者は、低迷し、多くの困難に直面している日本の映画、音楽などの「エンタテイメント業界」の活性化に少しでも役立てて貰おうと、筆者の持つノウハウ、貴重な情報、経験則などを可能な限り公開している。その代わり、「出典」を明らかにして、本論に関係する写真、絵、グラフなどを掲載していることを了解頂きたい。

●ヒット映画を作るノウハウ
 ヒット映画を創るノウハウは、映画と同一線上にある「TVドラマ」をヒットさせるための「考え方」や「方法論」に通じる。そのため本連載17号の一部を以下に再度、紹介したい。
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 新しい映画を企画し、制作する場合、それに関係するプロデューサー、ディレクター、脚本家、俳優、制作関係者などすべての人は、「この映画をヒットさせる」と決意し、ヒットを信じて、「汗と涙と血」を流すことを厭わず、実際に流して、映画を制作する。しかし現実にはヒットしないことの方が多い。

 筆者は、MCA社の映画関係者に会う度に「ヒットする映画を制作する秘訣とは何か」を質問した。そしてさまざまな意見を聴取した。彼らは、異口同音「映画をヒットさせる相対的な秘訣はある。しかしこれぞという決め手になる絶対的な秘訣は存在しない」ということだった。

 夢工学は、「夢」を持てば、「夢」が実現し、成功すると提唱している。ならば「夢」のある映画を制作すればヒットするか。残念ながらその保証はない様である。しかし夢工学に準拠し、映画の制作~建設~運営を適時、適切に実行すれば、ヒット映画を作るチャンスを得ることは可能である。

 「絶対的な秘訣」がないとすると、映画会社は、どの様にして「映画ビジネス」を成立させるのか? 世界一の映画産業に発展させたハリウッドを中心とする映画事業の先人達は、どの様にして収益を確保したのか? また現在も映画ビジネスを発展させている経営者達は、どの様なことをしているのか?

 筆者は、この映画ビジネス成功の秘訣について遂にMCA社の映画部門のトップから直接教わる機会を得た。その答えは、極めて納得のゆくものであった。それは、①映画の企画と制作に「ポートフォリオ戦略」を採用していること、②同戦略を策定し、数年間に亘って実行すること、③その戦略を成功させるまでの期間、持ちこたえる経営基盤、経営組織、経営財務体質を持つこと(夢工学の事業プラットフォームに相当)であった。
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 「ポートフォリオ戦略」については、紙面の関係か、らここでは割愛する。連載17号で詳細に説明したので参照して欲しい。

●日本のヒットしたTVドラマ
 TVドラマをヒットさせるための「考え方」や「方法論」は、映画のそれとほぼ同じであることは分かっている。しかしそのことを確かめるため、高視聴率を獲得し、大ヒットしたTVドラマを調査した。その結果、議論に最適なものが見付かった。それは、TBS日曜劇場で放映された「JIN―仁―」である。

出典:Jin・仁 集英社 セブンネット・ショッピングのWeb Site 出典:Jin・仁 集英社
セブンネット・ショッピングのWeb Site

 これは、「村上もとか」が書いたマンガ「JIN-仁―」をTVドラマ化したものである。筆者も見て、楽しんだ番組であった。 「JIN-仁―」の放映が終了した後、多くの視聴者から、その続編の希望が殺到した。そのため今年の2011年4月17日・日曜日・夜9時からTBS開局60周年記念の一環として日曜劇場「JIN―仁―」の続編がスタートすると聞き及んでいる。

●「JIN-仁―」の梗概
 これは、現代の脳外科医・南方仁(みなかた・じん=大沢たかお)が、ある事を契機に江戸時代にタイム・スリップするSFである。満足な医療器具もない中で幕末の人々の命を救い、その医術を通して幕末の英雄である坂本龍馬(内野聖陽)など様々な人物と交流を深める。そして公私にわたり南方を支える橘咲(綾瀬はるか)や吉原の花魁・野風(中谷美紀)と共に幕末の動乱の中を生き抜く「人間ドラマ」である。

 「他愛もないSF」と一笑せず、そのDVDとこれから放映される続編を是非一度見ることを薦めたい。海外でも「字幕化」され、放映されている。参考までに、そのSynopsisを紹介する。

Synopsis

The story follows a brain surgeon named, Minakata Jin, who has spent the last two years in anguish, as his fiancee lies in a vegetative state after an operation he performed. One day, he faints at the hospital and awakens to find himself transported back in time to the Edo period. He is soon attacked by a samurai, but he escapes with the help of a man named Kyotaro. Kyotaro suffers a serious injury to the head while trying to protect him, but Jin manages to save his life despite a lack of proper medical equipment. Because of that, Kyotaro's sister Saki begins taking an interest in Jin and becomes his assistant. Meanwhile, Jin is determined to find a way back to the present.

出典:「JIN―仁―」 TBS日曜劇場
出典:「JIN―仁―」 TBS日曜劇場

つづく
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