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「エンタテイメント論」(38)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :5月号

エンタテイメント論


東日本大震災の被災者の皆様に心からお見舞申し上げます。
出典:英紙インディペンデント・オン・サンデー(共同) SANSPO・IZA・産経ニュース 2011年3月13日 出典:ソウル新聞・1面・異例の日本語による哀悼の意 MSN 産経新聞 2011年3月14日
出典:英紙インディペンデント・オン・サンデー(共同)SANSPO・IZA・産経ニュース 2011年3月13日 出典:ソウル新聞・1面・異例の日本語による哀悼の意 MSN 産経新聞 2011年3月14日
出典:宮城県東松島市の被災現場2011年3月24日 SANSPO・IZA・産経ニュース 出典:ニューヨーク・タイムズの震災写真 2011年3月26日
出典:宮城県東松島市の被災現場2011年3月24日 SANSPO・IZA・産経ニュース 出典:ニューヨーク・タイムズの震災写真
 2011年3月26日


第1部 エンタテイメント論の概要

15 TV放送とTV放送産業の実態
●TVドラマ「Jin―仁―」
 前号で「村上もとか」のマンガ「Jin―仁―」がTVドラマ化され、多くの視聴者の心を掴み、大ヒットしたこと、そして多くの視聴者の強い要望によって本年4月から続編が登場することを書いた。

 このドラマは、現代の脳外科医「南方 仁」が幕末にタイム・スリップし、医者の使命感から江戸の人々を命懸けで救うSF(Science Fiction)である。
TVドラマ「Jin―仁―」

●百聞は一見にしかず
 百聞は一見にしかず。以下のシーンをYou Tubeで見て欲しい。このTVドラマが何故ヒットしたかが分かる。字幕は中国語であるが、セリフは日本語である。
  リンクはこちら

TVドラマ「Jin―仁―」

 左画面の人物は、「大沢たかお」が演ずる主人公の「南方 仁」。右画面は、「武田鉄矢」の「緒方洪庵」である。西洋医学所・頭取の洪庵は、仁から医療技術を学ぶ一方、その治療と普及に協力する人物として描かれている。

 同シーンで洪庵は、仁の正体を確かめ、タイム・スリップした仁の孤独を思いやる一方、自分の至らなさを恥じる。そして仁の手を握り、共に男涙する場面である。「未来は、平らな世界(平等)ですか? 私の労咳(ろうがい=結核)を治せるのでしょうか? 冥土の土産として教えて下さい」と死を覚悟した洪庵の問いに、仁は頷いた。それを聞いた洪庵は、大きい安堵感と喜びの笑みを見せた。僅か数分のシーンであるが、現代に生きる日本人が「何を考え、何を実行すべきか」を示唆する場面でもある。

●同番組からのメッセージ
 東日本大震災を機に「同番組からのメッセージ」がWEB SITEに記載された。その一部を要約して紹介したい。
今回の大震災に遭遇し、義援金や節電など私たちに今できる事をやっていきたいと思います。その気持ちは皆同じだと思います。
「JIN―仁―」の続編は、少しでも明るい希望を持って貰うために作りました。これは、幕末の日本が舞台です。明日の、未来の日本がより良き国になる事を信じて幕末を生き抜いた私たちの祖先がいたからこそ、今の私たちがいます。
いつの時代でも懸命に生きる事の大切さ、人が人を想う気持ちの美しさ、人の笑顔の輝きなどを、本ドラマを通して伝える事がスタッフ・キャストの私達にできる事と思っています。それが私達の誇れる日本の姿でもあるという事も。どうぞ宜しくお願い致します。

 併せて同番組に寄せられた視聴者からの感想の一部を紹介する。
待っていました、続編! 地デジできれいな映像でJINを見るのが楽しみです。
4月からの続編の初回が2時間とは、最高ですね。きっと視聴率もすごいと思いますよ。
人気タレントを起用するだけの安っぽいTVドラマよりも、ずっと良かった。続編を期待している。

●「Jin-仁―」の初作
 続編は、どの様な出来栄えのTVドラムになるかは、これからのお楽しみである。しかし初作は、ある部分を除き、SF時代劇のTVドラマとしてはエンタテイメント性があり、良い出来栄えと思う。

 ある部分とは、仁と恋人の友永未来が映っている「カラー写真」をタイム・スリップした幕末に持参し、それが物語で重要な役割を果たす描き方である。これは、米国映画「バック・ツー・ザ・フューチュアー」の劇中での「カラー写真」が重要な役割を果たしたことのパクリと思われることだ。原作者の「村上もとか」がマンガ「Jin―仁―」でその様に描いたので、TVドラマ制作者もそうせざるを得なかったと思う。原作者が何故、もっと良い描き方をしなかったのだろうか。残念である。

 しかし本ドラマでは、木で作った聴診器、各種の手術道具など現実性(リアリティー)のある小道具が作られ、活用されている。もし幕末に仁や仁の協力者が作ったとすれば、その様なモノであろうと思われるモノであった。また稚拙な描き方ではあるが、仁の手術場面は、それなりに上手に描かれている。時代考証もまあまあの出来である。ロー・バジェット(低予算)のTVドラマとしては評価される。

 俳優達は、それぞれなかなか演技をしていることもヒットした原因である。彼らの演技と彼らの演技を支える小道具、背景舞台装置などが相まって本ドラマの質を高めている。音楽もなかなか良い。歌が今一である点が少し残念である。以上のコトが総合化され、「筋の面白さ」をひき立て、高視聴率を獲得したと思われる。「Jin-仁―」は、キチンとしたTVドラマやTV番組を作れば、視聴者はついてくることを証明した。

●2011年マスターズ・トーナメント
 本連載(30号、082510)で日本の放送局による世界メジャー・ゴルフ・トーナメントのTV中継に関するエンタテイメント性を論じた。本原稿を書いている時に「マスターズ・トーナメント」が開催された。東日本大震災とも関係があるので以下に再度、論じた。

 2011年の優勝者は、南アフリカ出身の「シャール・シュワーツエル選手(26歳)」であった。彼は、最終4ホール連続バーディーによって14アンダー・パーを出した。ベスト・アマチャー賞を獲得したのは、1アンダー・パーの松山英樹選手(19歳)であった。松山選手は、マスターズ創設者「ボビー・ジョーンズ」の肖像画が掲げてあるクラブハウスの特別室に於いて、シュワーツエル選手と肩を並べて表彰された。これは、日本のゴルフ歴史上で初めての快挙である。石川 遼選手は、3アンダー・パーの20位タイであった。

 特筆すべきことは、マスターズ主催者、多くの外国選手から東日本大震災へのお悔やみとお見舞いの発言があったこと、そして松山選手と石川選手の活躍が被災者と多くの日本人を勇気付けたことである。東北福祉大2年生の松山選手は、堂々と挨拶をしただけでなく、日本帰国後は大震災へのボランティアー活動をすることを宣言した。また多額の義援金を贈った石川選手は、報道インタビューで被災者への強い思いを語り、「共に頑張りたい」と語った。

●お粗末な解説
 さて日本の放送局によるマスターズのTV中継は、相変わらずお粗末であった。英語が話せないアナウンサーは、別の通訳者に頼り、出場選手の過去の戦歴紹介に終始した。その紹介に依存しながら、某ゴルフ評論家や某プロ・ゴルフ選手の解説は、日本選手ばかりを主観的に応援し、客観的、専門的な解説を怠った。そして選手達のプレー後の結果論ばかり展開し、マスターズに関する興味深い逸話や選手達のエピソードなどを殆ど紹介せず、エンタテイメント性のカケラもない解説で終始した。こんな解説なら誰でも出来ることを本人達は全く気付いていなかった。

 この解説者は、戦を終えた石川選手とのインタビューで、歳下の人間を見下す様に、偉そうな口調で彼のプレー結果に、素人でも言える様なコメントをした。石川選手は、くだらないそのコメントに逆らわず、素直に「頑張ります」と明るく答えた。そのため石川選手の成長ぶりと立派さが却って引き立った。

 オーガスタ・ナショナル・カントリー・クラブのコースの様な超難コースは、日本には過去も、現在も存在しない。しかもグリーンは、日本のそれと比較して異次元の難しさを秘めている。日本のゴルフ場で石川選手がいくら優勝を重ねても、マスターズなどが開催される超難コースで世界的強豪選手達と勝敗を競わない限り、メジャーに優勝する可能性は極めて低い。この事実は、尾崎選手や青木選手などの実例を精査すれば分かるコトである。

 そしてこのコトは、ゴルフ競技に限ったコトではない。日本の企業は、欧米市場だけでなく、アジア、インドなど発展国の市場にリスクを賭けて事業進出し、世界の強豪企業と競わない限り、世界的な企業に発展する可能性は極めて低い。そのコトは、失われた過去20年間で日本の多くの企業が世界的に発展していない事実を精査すれば分かる。

 マスターズで優勝争いをした外国選手達を見ると、精神力と技術力の両面で日本選手達を遥かに凌駕し、異次元レベルの戦い方をしていることが素人目でも分かる。この厳然たる事実を日本の解説者は、TV中継中に何故指摘しないのか、不思議でならない。日本のプロ・ゴルフ界の真の専門家が解説者になること、そして真のリーダー達が石川選手に「日本を離れ、世界の舞台で戦うこと」を説得することを共に期待する。

つづく
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