関西P2M研究会コーナー
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ファシリティマネジメントの時代が(やっと)くる!?

林 健太郎 [プロフィール] :7月号

オンラインジャーナルは2年ぶりの投稿です。前回は「アーキテクチャの魅力」というお題で、学生時代からの「アーキテクチャ」との関わりを紹介しながら、自分にとってのP2Mの魅力を表現しました。今回は、先月大阪・本町で開催された第87回関西例会で紹介された『総務の山田です。』というファシリティマネジメントに関する小さい書籍に関連した話をします。

1. ファシリティマネジメントとは
多くのPMAJの会員にとっては、なじみのない「ファシリティマネジメント(以下、FMと記す)」から説明します。『企業・団体などの組織体の全施設及び環境(ファシリティ)を経営的視点から総合的に企画・管理・活用する経営管理活動』というのが我が国の専門家集団における定義で、この概念の生みの親はやはりアメリカです。この専門家集団は、なぜか3つの団体がこの狭い日本にあり、その一つが「日本ファシリティマネジメント推進協会(以下、JFMAと記す)」です。「FMに関わる新たな専門家を育成、普及することにより、快適かつ機能的なファシリティを継続的に供給し、企業理念の具現化及び経営目標を達成し、かつ健全な社会資本の形成に貢献する」ことを目的として、平成9年度から「ファシリティマネジャー」資格制度が始まりました。昨年度までに6500人弱の有資格者が誕生し、私も創設時に取得しました。当時の職務であった「建築設計」において「お客様」にあたるのが、施設部、管理部、総務部などと呼ばれる部署に所属しておられた「ファシリティマネージャー」にあたる方々で、彼らが常日頃、どういうことを考えてFM業務を実践されていて、建築設計者に何を期待しているのかを理解することがその目的でした。

2. 経営管理活動の一環としての施設建設・維持・管理
資格取得のための学習は、自分の思考領域を拡大してくれる貴重な経験でした。それまでは、「いかに美しくかっこいい建築物を設計して、お客様に喜んでもらえるか」という姿勢で建築設計業務をしていましたし、建築雑誌等で取り上げられるスター建築家の作品もそういう視点で眺めていました。しかし、FMに出会ってからはその考え方が大きく変わりました。建築物は所有者や社会に上手に使われれば、長い寿命を全うすることができます。しかし、その幸運に巡り合うためには、長い寿命を想定した「計画力」とそれを実現する「実践力」が必要であり、建築主・設計者・施工者が一致協力して持てる知恵を集結しなければなりません。どうすれば、自分が携わる建設プロジェクトをそういう状況に置くことができるのか。その鍵が、私にとってはFMを理解することであり、お客様の立場に立って、経営管理活動の一翼を担う責任感を持って施設計画を考えることでした。

3.『総務の山田です。』が世に出るまで
資格を取得してから、しばらくしてPM業務に携わるようになるのですが、それは建築主であるファシリティマネージャーを施設建設プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメントを支える専門家としての役割でした。東京でのPM業務をしていた時に、JFMAのFMプロジェクトマネジメント研究部会に参加して、多くの同志と「新しい時代のオフィスをどうつくるか」について語り合いました。その時に中心的なテーマとして挙げていたのが、「人間を中心とするファシリティ」であり、オフィスを人間中心に考えて、いかに能力を引き出すか、いかにコミュニケーションを促進させるか、が検討されていました。そのために必要なプロジェクトマネジメントをファシリティマネージャーの視点で分かりやすく説明する本を書こうと意気投合しました。当時、『トコトンやさしいPMの本』がPMAJの前身であるJPMFから出版されており、それを参考にしながら、「総務部の若手社員が苦労しながらオフィス移転プロジェクトを経験する」ストーリーで書けば、FMの社会的認知と浸透ができるのではないかと考えました。しかし、アイディアはでても出版というプロジェクトを実現させるのは並大抵の苦労ではありませんでした。実質5年かかりでしたが、研究部会のリーダーとこの出版プロジェクトのリーダーの信念にメンバーの想いが結集されて、『総務の山田です。』が5月25日に見事に出版にこぎつけました。私は、本当に大変なこの2年ほどは研究部会への参加もできませんでしたが、本の企画当時のメンバーとして大変うれしく思います。

4.『総務の山田です。』が伝えたかったこと
本社移転というプロジェクトを通して、@FMプロジェクトマネジメントの流れとノウハウを広く世の中に伝える、AFMプロジェクトマネジメントの重要性、専門性、経営貢献の大なることを広く世の中に伝え、浸透させる、BFMは「一生を掛けて取り組む価値と夢のある仕事である」であることを広く世の中に伝える、という3つの狙いがあります。それが実現できているかどうかは、これから実証されますが、FMになじみのないPMAJの関係者のみなさんやみなさんの周りにおられる総務部門の方に、是非この本を読んでいただいて、感想を聞かせていただければと思います。まずは、6月の関西例会の講演資料がPMAJのライブラリに登録されていますので、そちらをのぞいてみてください。新書版の200ページ強の本ですが、おまけとしてインターネットから「オフィス移転業務フロー(13ページ)&解説シート(39ページ)」がダウンロードできる特典が付いています。これも、今の時代ならではの新しい試みです。
地球環境への配慮が社会の常識となり、太陽光をはじめとする自然エネルギーを上手に活用するエネルギー革命が始まろうとしている現在、建築においてもようやくFMの時代が本格的に到来しようとしています。私の本業である建設会社の業務も、これから大きく変わるかもしれません。しかし、時代のニーズの半歩先を見つめて、P2Mの概念を適用していけば、なんとかなると考えています。オフィス移転という身近なことから、FMが社会に浸透すればと願いながら、筆を置くことにします。

以上
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