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「SIシステム開発現場におけるリアルタイムの創出について」

MM4リーダー:富士通株式会社 松田 浩一 [プロフィール]  :5月号

 私が非常に感銘を受けた書籍のひとつに「生命知としての場の論理 清水博 著」があります。まず興味深いところは、柳生新陰流の極意の話が出てくるところです。日本的なものの代表である剣について述べられており、欧米の技術革新の輸入が多いSIシステムの開発に、もし日本古来の技術や考え方が活かせるとしたら大変嬉しいところです。
 剣の世界に「後の先」と言う言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、剣道の経験者でもないので私の理解では「相手が攻撃した後に自分が攻撃すること」くらいでした。また「自分の剣を振り下ろす力を最大に鍛錬し相手より一刻も早く斬ること、一撃必殺を洗練すること」は薩摩示現流の極意のひとつだろうと想像していました。こういった剣の極意を捉える際に「生命知」と「場の論理」を述べたのが前述の図書です。真剣勝負である1対1の斬りあいをする時に「自分のスピードを極限まで向上させること」は生き残るために最も大切な極意のようにも思います。勝負の世界で自分の力量を向上させる観点はSIシステムの開発を遂行する際に「知識を向上させる」ことにあたり、PMPの資格を得ることや開発言語やフレームワークに精通することなどに通じると思います。どのような剣の極意にも自分を鍛錬することは必要なことであり、欧米も日本も変わらないことだと思います。ところが、柳生新陰流に代表される「場の文化」は日本独自のものだそうです。1対1の斬りあいに「場の観点」を持つこと、例えば、自分の力量の範囲を剣の技術に閉じないで考えることが必要だと言います。目的そのものを生き残るための技術という捉え方をしますと斬りあいに勝つことが具体的な手段ではなくて、1対1に対峙しないようにすることもひとつの手段ではあります。また、斬りあいそのものになった場合に、どれだけ自分が早く相手を切るか、という観点ではなく「相手に仕掛けさせて、仕掛けた相手のストーリに乗っかって自分の動きを決める」ということが「後の先」というらしいのです。このような解釈は私の個人的な見解なので、おそらく目的のレベルが変わってしまうことにも通じるような意味にもなりますが、簡単に言い換えると「ひとりよがりの動作」ではなくて「全体を場としてとらえ、その場で相手の動きを許容し、自分がどのように演じるのがよい動作か考える」ということが大切なのだと思います。
 剣には各流派はありますが、基本的な型というものがあります。この型を自分の物にすること自体は将棋の定跡、囲碁の定石のように先人が考えて最良の手順を残しているものと同じように思いますが、全ての事態に対応できるものではありません。無限定な状況において自分がどのように振舞うかは、毎日違う体験をしているこの世界での自分のリアルタイムの判断によります。無限定な状態で最良の判断を下さないと死んでしまうというぎりぎりの状態で最も重要なのは「機械的な知」ではなくて「生物的な知」といいます。つまり、辞書的に整理された知識、覚えたらその条件のなかでは必ず正しいという知識は機械的な知であり、コンピュータに任せられる領域です。しかし、生物的な知は「初めて遭遇した時に最適な判断を下すこと、又は結果最良となるように場のストーリを演出すること」なのではないかと思います。SIシステムの開発現場でもコミュニケーションが最も重要だと認識されており、1対1の真剣勝負もありますし、より良いシステムを完成させるために多くのステークホルダーを満足させるための場のストーリを演出することが非常に重要です。
 SIシステムの開発は初期計画が重要で成功の鍵は計画次第であると言われることもあります。開発した後で思い直すと、見積りに大きなミスがあった、お客様との契約条件の詳細が決まっていなかった、計画作業の詳細化が足りなかった、と沢山の反省点が出てきます。しかし、実際の開発現場では今困っている問題が山積みになっています。初期に立ち返ることは出来ない進行中のシステム開発は、今どう振舞えば良いかをもう一度考え直す必要があります。リアルタイムの創出とは刻々と創造し続けることであり、変化する環境に合わせて「何をすべきか、最良の動きを作り出す」ことのようです。まさに苦境に陥ったシステム開発現場で最も必要な考え方と思います。また、初期開発時点でもお客様が分からない、計画書をどのくらい詳細化したら妥当なのか判断がつかない、など後から当たり前のように反省されることが悩みとして沢山あるのではないかと思います。このような場合は「場の論理」が必要です。お客様と開発部門その他のステークホルダーを場に引き出し、「後の先」を取る必要があります。具体的にはキーマンを見極めるという事や、何を明確にしたら納得性が高くなるのか、ものごとを決めるストーリを演出することが必要です。本書は、システム開発現場に従事されている皆様に読んでいただけたらと思いお奨め図書としてご紹介させていただきました。

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