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「守破離」

富士通株式会社 育成WG主査 木野 高史 [プロフィール]  :4月号

私は社内でPM教育の企画・運営を担当している。その中で表題に掲げた「守破離」のコンセプトを活かそうと取り組んできたが、あらためてこのフレームワークはどこにでも有効なものだと実感するようになった。「守破離」とはウィキペディアによると技芸の上達についての言葉で、 守=まずは決められた通りの動き、つまり形を忠実に守り、 破=守で学んだ基本に自分なりの応用を加え、 離=形に囚われない自由な境地に至るというものである。 つまり形をしっかりと身に付けることではじめて、高度な応用や個性の発揮が可能になるという教えを意味している。茶道、武道、華道など道に通じる奥深さを持つ技芸はこのフレ−ムワークが必ず当てはまると考えている。私の好きなサッカーを例にとり守破離を考えてみたい。今年はサッカーのワールドカップの年である。日本代表も出場権を獲得しており、戦果を期待したいところだが、どうも最近の戦績では心もとないと思っている。数年前、イビチャ・オシムが日本代表の監督を引き受けるとき、「日本のサッカーを日本化したい」という印象的な言葉を残したが、道半ばで倒れ、岡田監督が引き継いだ。岡田監督も日本人の特徴を生かした日本的なサッカーを志向して現在に至っている。その意味でオシムが掲げたコンセプトは、サッカー先進国のものまねだったそれまでの日本サッカーが脱皮するきっかけとなった意義深いものだったと思う。

さて「守破離」であるが、岡田監督もこれまで日本らしいサッカーの型を作って、日本代表にたたき込んできている。例えば日本人の協調的な組織力や俊敏性を生かした、パスサッカーであり、忠実さを生かした運動量豊富な全員攻撃、全員守備などである。その点では日本サッカーの型を忠実に実行する「守」は確実にできるようになってきたのではないかと思う。ところがそれだけでは敵には勝てない。そう来ることがわかっていれば、敵も確実に備えができるからである。最近日本代表が壁にぶちあたっているのは、「守」の段階から「破」の段階にステップアップができないからではないかと考えている。「破」の段階からは「個」を前面に出して行かなくてはならない。選手個々人が自分の持ち味を生かすために、局面に応じて時には型を破って自分の長所を生かした戦いが必要になる。例えばドリブルが得意であるならばパスではなくドリブル突破を図ったり、ミドルシュートが得意ならパスではなくシュートを打ったりという戦い方である。このようなことが無意識でできるようになれば「破」の段階は卒業できたといえる。しかし、残念ながら現在は意識して、しかもぎこちなく型を破ろうとしているという段階ではないだろうか。岡田監督が掲げるワールドカップでベスト4という大目標はさらにその上の段階の「離」 に至らないと難しいと思う。

話をPMに戻したい。私は超大規模プロジェクトを成功に導くのはPM道を極めた人でしかできないと思う。従ってPMの道も奥深いもので、その成長過程では上記の「守破離」のフレームワークはあてはまるものと考えている。我々はいままでPMBOKというモデルに従って、PMの型を学び、その通りに実践できるように演習を通じてスキルアップするという教育をいろいろと整備してきた。しかし、現場で起こる問題はそれだけでは解決できず、プロジェクトの失敗を引き起こしてきた。現場でおこる問題を解決しプロジェクトを成功に導くためには、時には基本からはずれても、自分の個性を生かして難題をなんとかよい方向に導く実戦力が必要である。このような「破」のPM力をどのように身につけさせるのかが、現在のPM育成における喫緊の課題ではないかと考えている。従来、この力は現場で実際にPMを経験してみることや、プロジェクト・リーダのそばについて指導を受けるOJTにより身につけてきた。またそのような場もそれなりにあったが、現在のプロジェクト・スピードがそれを許さなくなったのではないか危惧している。言い換えればプロジェクト側にPM育成を任せることが困難になって来たといえる。そのため組織的な育成方法でこの「破」の力を身につけさせることが必要で、いろいろなやり方を試行錯誤しているというのが現段階ではないだろうか。IT-SIGの育成WGではこのような認識のもとで、この「破」の段階のPM育成法を研究してみたいと考えている。たぶん答えはひとつではなく、その組織の環境(ビジネスや人材など)に応じていろいろなやりかたがあるのではないかと思う。少しでもその部分の道標になるような成果が得られれば幸いだと考えている。

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