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「プロジェクトでの決断と価値観」

株式会社ビズモ 板倉 稔 [プロフィール]  :3月号

 プロジェクト管理は、一所懸命考えたいい加減な仮の値でたてた計画に、実際の値を近づけていく過程である(注 弊編著 「プロジェクトの解明」)。計画時に、一所懸命考えて、規模や生産性などをきめる。それに時間やコストなどを考えて計画をたてるが、 実際には計画通りには行かない。そこで、実際に得られた値を計画値に近づける様々な工夫をする。これがプロジェクト管理である。
 計画と実際の値が同じ時も、違いが出たときも、プロジェクト管理者は何らかの決断をしている。この決断の質が、プロジェクトの正否をきめる。計画の値や測定値の精度 など、決断の質を左右するものが色々あるが、ここでは、決断を考えてみたい。
 時々刻々、人は、様々な決断をしている。例えば、「今トイレに行くか、もう少し後にするか」でも決断している。同様に、「こちらの道から行くか、あちらの道から行く か」でも決断する。この様に、人々は、小さな決断を年中やっている。時々、結婚、就職などの大きな決断も必要になる。どちらも、影響の大きさの違いはあるにしろ、同 じ思考過程を踏んでいる。
プロジェクトを遂行して行く上でも、人生同様、様々な決断をしている。「今の打合せをつづけるか中断するか」、「納期を延ばすか、もう少し様子を見るか」など大小様々な決断をしている。これらのプロジェクトでの決断の質が、プロジェクトの正否を決めるのだ。
 ここで、少し考えてみたい。まず、「今、トイレに行くか、もう少し後にするか」を例にとると、『我慢できるか』あるいは、『今仕掛かっていることを中断することと、トイレにいくことのどちらが重要か』を判断しているはずだ。つまり、「今、自分にとって、何が重要か」をきめると解は決まる。自分のそのときの価値観が結論を導いている。

 「そんなことはない。私は皆の為プロジェクトの為を思って決断している」と言う人もいるかもしれない。でも、皆やプロジェクトが重要だと思っているのは本人だ。この場合も、自分の価値観で決断している。
 「こちらの道から行くか、あちらの道から行くか」も、同様だ。我慢できないから出す結論は無理やりなので、この道の選択問題の方が多少論理的である。さて、こちらの道は、近いが暗いとしよう。あちらの道は明るいが遠い。近いことが重要と思えばこちらの道を選ぶし、明るいことが重要だと思うと、あちらの道を選ぶ。しばらく立ち止まってどうするか考える決断もあり得る。プロジェクトで遅れが出たとき、『様子をみよう』、『人を増やそう』、『対象をへらそう』などの中から、何が重要かを判断し、その結果、結論を得ている。
以上のことは、次の2つのことを言っている。
(1)実世界に存在する問題には、一長一短の選択肢が殆どらしい。
 一長一短の時、結論は、その人にとってどの価値が重要かで決まる。
(2)大抵の場合、決断可能な条件が整わないにもかかわらず決断をせまられる。
 この場合、「エイヤ!」と解を出さなければならない。しばしば、設計時にこの「エイヤ!」をやってきたが、裏に美学が隠れていたように思う。
 (1)について補足しよう。私達は、小学校からずっと色々なことを学校で習ってきた。
例えば、1+1=2であると習った。1+1=3と言うと間違えでバツを付けられる。1+1は、分かりませんと書くと、大抵は零点だ。この様に、学校で習ったことの多くは、正解が存在する問題を扱っている。逆に言うと、正解に合わせて、問題を作っているわけである。
 ところが、プロジェクトでおきる問題は、未来の状況を想定して判断する問題が多い。例えば「今、品質が悪いが、完成時には、良いかもしれない」し、「今、品質が良いが、完成時には悪いかもしれない」と言う類の問題である。
 (1)は、何が重要か(価値観)が決まれば結論は決まる。(2)は、何が重要か(価値観)が決まれば、選択すべき解の方向が見えてくる。何れの場合も、解の精度をあげるには、価値観を磨く(より美しい価値観をもつ)ことだ。価値観の元には、哲学がある。
 松下電器を創った松下幸之助は、「水道哲学」と言った。水道の蛇口をひねると家電が出てくる」様にしたい。そのようにすれば、対価は自然に返ってくるので、対価を考えずに何で貢献できるかを考えろという意味である。ソニーの創始者の井深大は、「技術の力で祖国を復興しよう」と説いた。先人の哲学も参考に自分を作ることが必要だ。
 決断の精度をあげる為の知識については、誰でも言っているから、私は言わない。私は、スポーツ、芸術、哲学、何々道、修行などで、直感を鍛えることを本気でやることが必要な気がする。
 翻って、今、ソフトウェア業界には様々なフレームやパターンがあるが、本当に役立っているのだろうか。玉石なんでも入ってきてしまう情報過多の今、真贋を見極める力を付ける必要がある。勉強して、誰かが言った通りにやれば良いと思ってはいないだろうか。自分を鍛え直して、本質を見抜く目を鍛えてほしいと思う。

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