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選ぶ力

井上 多恵子 [プロフィール] :6月号

 先日行った英語コーチングセッションで、ある上位職の方がこう言った。 “I hope I will do my best.” その瞬間、私は小さな違和感を覚えた。「私はベストを尽くせると“希望する”とは、どういう状態なのでしょう?」 そう問いかけながらフィードバックをした。あなたほどの立場の方なら、“I will do my best.”――「私はベストを尽くします」と言い切った方が、言葉の響きも覚悟も、相手に伝わるものが違うのではないかと。

 英語では、自分でコントロールできることに I hope は使わない。 I hope it will be sunny tomorrow.(明日、晴れるといいな。) このように、天気のように自分の力ではどうにもできないことに使う表現だ。 「ベストを尽くすかどうか」は自分で選べる。だからこそ、言い切ることが望ましい。

 そんなことを考えていた朝、いつものようにワイドショーを見ながら朝食を食べていた。 TBS『THE TIME』で毎朝流れる歌―― 「今日もいい日になるように いつでも笑ってやさしくね。 今日もいい日になるように だれかに笑顔でありがとう。」 の歌詞が印象に残った。 「いい日にするように」ではなく、「いい日になるように」という日本的なソフトな言い方だが、ここでも“願う”だけでなく、「いい日になるように」笑顔で人にやさしくしたり、だれかに笑顔でありがとうと言おうと、具体的な行動を促している。

 願うのか。 それとも、「いい日に“する”」のか。 日本人の感覚には「いい日になるように」という表現がしっくりくるのだろう。 でも今の私には、「いい日に“する”」と自分で決める表現のほうが、行動と結果につながると感じている。最近、アメリカのポッドキャストで耳にした表現―― “I will make it a good day.” 「いい日に“していく”」。 その選択を自分で握るという姿勢だ。

 決めると、脳はその前提に合う情報を探し始める。 自分の信念を支持する情報ばかりを集め、反証を無視してしまう確証バイアス。 その確証バイアスが、「今日はいい日にする」と決めることで、良い方向に働き始める。

 たとえば今朝。 一緒に仕事をしている方から資料が届かなかった。以前の私ならイラッとしていた。 「どうして送ってくれないの。早く送ってくれないと作業が間に合わないじゃないの」と。 でも今日は違った。 「この時間が空いたなら、別のことに取り組める」と切り替えられた。お昼ご飯を食べに夫が帰ってくると聞いたときもそうだ。 以前なら「今日は一人で気楽に済ませられたのに」と思っただろう。 でも今日は、「もっと手早く卵焼きを作る練習になる。」と思えた。

 以前、“陽転思考”――起こる出来事をポジティブに解釈し、感謝の心で前向きに生きる思考法――を試した時期もあった。 けれど、毎回続けるのは難しかった。 私自身のベースが長年ネガティブ寄りだったから、すぐに引っ張られてしまう。 朝起きた瞬間から「今日あれをやらないといけない…起きたくない」と思ってしまう自分がいる。 だから、一日中“陽転思考”で過ごすことはほぼ不可能だった。

 それに対して、「今日はいい日にする」は“土台”になる。 このベースを置くだけで、自然と「いい日」の裏付けを探している自分がいる。

 昨日ジムでシェイプパンプをしていたときもそうだ。 筋肉に負荷をかけるので辛く、いつもは「早く終わらないかな」と思っていた。 でも昨日は違った。 「今ここでトレーニングできていること自体が当たり前ではない。いろんなことが上手くいっているから、ここで時間を過ごすことができている。これは未来の自分を支える時間だ」と思えた。

 アメリカに引っ越したばかりで英語が全くわからず、授業中ずっと時計を見て「早く終わらないかな」と泣きそうになっていた小学生の頃の私に教えてあげたい。 選び方ひとつで、時間の意味は変わるのだと。

 今日の午前中、LINEの通知がなかったときも同じだ。 以前なら「誰からも連絡がない」と落ち込んでいた。 でも今日は、「みんな忙しくしているんだ。私も今できることに集中しよう」と思えた。

 選ぶ力の効果は、大きい。 AIが選択肢を無限に提示してくれる時代。 だからこそ、人間に求められるのは、 何を選ぶか、どうコミットするか、どう実践するか。あるコーチング会社のメールにこう書いてあった。 「リーダーシップは、主体的に考え・選び・責任を引き受ける経験を通して開発される。」 来月、グローバルリーダー向けに依頼されたのも、意思決定のワークショップだ。

 正解がない時代だと言われる。 ならば、選択の連続である日々の生活の中で、選んだ選択肢を正解にしていくしかない。 これまでの私は後悔することが多かった。 でも、人生で残された時間も少なくなってきている。 これからは、「今日はいい日にする」というベースを持って、暮らしていきたい。

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