組織アジリティSIGコーナー
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「失敗から学ぶ」

小原 由紀夫 [プロフィール] : 9月号

 変化が激しいVCUA環境では失敗することが従来より増えていきます。失敗が増えることは競合も同じなので、素早い失敗から学ぶことが競争優位に必須となります。多くの日本企業が失敗を分析してきましたが、本来の目的を達成している企業は多くありません。
失敗から学ぶ本来の目的を阻害する要因とその解決について述べていきます。

1. 失敗から学ぶことの阻害リスク
 該当の失敗に関する有識者の知見で効率的に失敗を分析する場合に失敗から学ぶことを阻害するリスクがあります。有識者は自分の知見から立てた失敗原因の仮説に合致する事象を収集して、仮説を失敗原因として知見から既に存在する対策を導いてしまうことがあります。これは、有識者の仮説の検証であって、失敗から学ぶことではありません。変化が激しい環境では有識者の知見を塗り替えていかなければならないこともあるので、失敗から学ぶことの阻害リスクのマイナスの影響がより大きくなっていきます。
 既に存在する対策に導く有識者の仮説の例を以下に示します。

既に存在する対策に導く有識者の仮説の例

2. 本来の失敗から学ぶ目的
 本来の失敗から学ぶ目的をトヨタ生産方式とスクラム論文から考えます。
1)トヨタ生産方式(大野耐一著「トヨタ生産方式」1979年)
 なぜなぜ5回を提唱し、「5回の『なぜ』を自問自答することにより、企業存続の利益の意味を問うことにもなるし、ひいては働きがいの本質について自問自答することになる」としています。これは、投資判断や人材育成、組織風土・文化まで踏み込んだ自問自答を意味するので、有識者の知見からの仮説を越え、経営者を含んだ分析が必要になります。
2)スクラム論文(野中郁次郎、竹内弘高著「The New New Product Development Game」
 「スクラム」とは、様々な専門性を持った人がラグビーのように最初から最後まで一緒にチームとして働くことです。チームが持つ6つの特徴のうち2つを以下に示します。
  • ④ 「マルチ学習」
     個人、組織、企業などの複数のレベルでの学習である「多層学習」と別々のスキルを持った人が集まることで専門外の知識について学習が起こる「多能力学習」を意味します。
  • ⑥ 学びを組織で共有する
     過去の成功を組織に伝える、もしくは、意識的に捨てることを意味します。外部の環境変化が速いため過去の成功が逆に足かせとなる場合、強制的にその過去の成功を捨てます。
 ④「マルチ学習」は有識者の仮説と相反します。⑥学びを組織で共有するでは、有識者の知見自体が意識的に捨てる対象となる可能性もあります。

3. なぜなぜ5回(階)
 本来の失敗から学ぶ目的を達成する「なぜなぜ5回」を以下に示します。
1) 問題識別
 失敗に影響する様々な事象を複合的に分析することが困難なので、事象を空間(成果物)と時間(工程)の2つの視点で分解します。ITにおける分解視点の例として、空間視点はシステム構築の標準プロセス体系:SDEMのカテゴリ、時間視点は共通フレーム2013とS字カーブで停滞する最初の「準備」と最後の「検証」および順調な「実行」の視点です。
 また、事象自体は日々変わっていくので、事象を引き起こした行動を焦点とします。その行動をしたのも、今後の同様な事象へ行動に学びを活かしていくのも「私」です。「私」が活かせる学びを「マルチ学習」して組織で共有するので、行動の主語を「私」とします。
2) 行動観察
 失敗の行動を理解するため、対象の「私」の行動を5W1HからWhyを除いた4W1H(What, Who, When, Where, How)を確認します。最も失敗に影響した4W1Hの1つについて「私」の理想を確認し、不十分な場合にのみ該当する領域の有識者から知恵を得ます。
3) 多層学習
 なぜを繰り返して堂々巡りをする原因は動詞が同じためです。動詞を変えます。各階層で最も失敗に影響した4W1Hについて以下の動詞で深掘りします。
  1. ① 実施:事象を引き起こした「実施」を焦点とします。
  2. ② 判断:理想と異なる4W1Hでも成功するとした「判断」を焦点とします。
    「判断」の基となる規範(ルールや仕組み)を探します。
  3. ③ 遵守:規範を「遵守」すべき行動と実際の行動の差異を焦点とします。
  4. ④ 支援:遵守すべき行動するための「支援」を焦点とします。
  5. ⑤ 運営:遵守と支援ができるための「運営」を焦点とします。
 ①~③は現場、④は管理者、⑤は組織運営者の行動なので、多層学習と投資判断や人材育成、組織風土・文化まで踏み込んだ自問自答を実現できます。
 1項の事例を再分析した現場と管理者、組織運営者が連携する対策を以下に示します。

1項の事例を再分析した現場と管理者、組織運営者が連携する対策

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また、PMAJ組織アジリティSIGでは、組織として変化への俊敏性である「組織アジリティ」とDX推進に必須な風土・組織への重要な取り組みを研究しています。ご興味のある方は、お声掛けください。

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