組織アジリティSIGコーナー
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「失敗を追体験する質問方法」

小原 由紀夫 [プロフィール] : 10月号

 「失敗から学ぶ」ためには、失敗の原因が未知の場合には失敗した状況を把握する必要があります。また、既知の場合もその既知を生かせずに失敗した状況を把握する必要があります。したがって、「失敗から学ぶ」ためには先入観を捨て、当事者の「私」の視点で失敗を追体験するスキルが必須です。追体験とは、得られた情報だけで失敗した行動を映像化していくことです。刑事ドラマを例にすると、推定状況から短絡的に犯人を推測するのではなく、様々な質問をして見えていなかった行動や証拠を発見して真犯人に迫る姿勢に似ています。適切な情報を得るための質問について述べていきます。

1. 行動の分解
1) 焦点は状況ではなく「私」を主語とした行動

行動の分解

 上記の分析例は、「事前学習」や「確認方法」などを主語として「しまった」、「なっていた」などの状況を提示しています。状況から既知の原因からチェックシートなどの対策を誘導しています。状況から短絡的に推測することは容易ですが、追体験は難しいです。追体験するために「私」を主語として実際の行動を表現します。

2) 共通の分解視点=S字カーブ
 多くの作業は時間と達成度を軸としたグラフのS字カーブで進められます。これは作業の前半、中盤、後半で質が変化することを示しています。工場での「段取り」、「実行」、「検査」を「準備」、「実行」、「確認」と表現すると、様々な業種で適用できます。できれば、桁違いに細かく分解できると分析が容易になります。(3視点の3段階の分解で1/27)
 また、「準備」と「実行」の視点は「失敗を造り込む」視点、「確認」の視点は「失敗を検出できなかった」視点として多くの企業で活用されています。前記の分析例の「事前確認」、「事前レビュー」、「確認手順方法」、「鉄則という意識」は「準備」の視点で洗い出せます。前記の分析例は行動の分解で洗い出せるので、分析例ではなく、分解例と言えます。

2. 人類最高基準の理想 コストと時間を除外した多様性の活用
1) 制約による不適切な事実の受け止め
 日々の行動は時間、工数や情報などへの制約のある中で行われているので、不適切な事実があることを受け止めます。不適切な事実は怒りを呼び易いですが、怒りは失敗から学ぶことを阻害します。怒りを原因の探求心に変えていく訓練が必要になります。

2) 理想による制約の解放
 類似の成功体験や知見を持っているから失敗に繋がる作業を行ったはずです。事実だけでなく、失敗を実行した人が既に持っている成功体験や知見を明確にする必要があります。そのために、全ての制約を解放した理想について質問します。

3) 原因に繋がる事実の理想の差異
 制約による不適切な事実と全ての制約を解放した理想の差異は成功できたスキルを十分に発揮させなかった原因に繋がるため、失敗から学ぶことになります。

3.なぜ以外の5つの質問
1) 「なぜ。できなかったか?」の猛威
 「なぜ、できなかったか?」の問いに答えるためには、制約のない理想と事実の差異を示して、事実の背景にある制約による影響について説明する必要があります。しかし、失敗をして動揺している時に実行することが困難なので、謝罪をしてしまうことが多いです。否定のなぜを避け、肯定のなぜ「なぜ、したのか?」で質問します。

2) 事実と理想への5つの質問
 追体験の情報を得るためにビジネスの基本となる5W1Hを活用します。なぜ(Why)以外の5つの質問(4W1H=5W1H-Why)により追体験の情報を得ます。
4W1H 表現 情報
 Who 静的
(名詞)
 人  固有名詞 (役割、スキル、経験、性格)
 What  入力情報  形式知 (要件、対象物)、暗黙知 (経験、感情、思い込み)
 When  時間  年月日時分秒、時間/分/秒
 Where  場所、環境  会議体、開発環境/本番環境、オフィス、廊下。チャット
 How 動的  方法、手順  口頭で、至急に、~して、~せずに
事実には、「実際には、4W1Hしたか?」
理想には、「本来、4W1Hすべきか?」の質問を行う。

3) 事実と理想の差異による自律
 理想を明確にすることで自分のスキルを確認することができます。もし、全ての制約を外した理想でも成功させられなければ、自分の力不足であり、支援を得る必要があったことがわかります。理想がわかっていながら成功に繋げられないことを「もったいない」と感じて、プロフェッショナルとして自律的に分析に取り込むことが期待できます。
 本来、自問自答した分析が理想ですが、最初は難しいです。周囲の人の質問スキルを活用して分析スキルを向上させていきます。周囲の人に失敗に関する専門知識は必要なく、むしろ、専門知識が誘導を引き起こすことがあるので、無い方が素直に質問スキルを活かすことができます。失敗から学ぶことを通じて、個人、周囲の人、さらに組織が成長できます。

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また、PMAJ組織アジリティSIGでは、組織として変化への俊敏性である「組織アジリティ」とDX推進に必須な風土・組織への重要な取り組みを研究しています。ご興味のある方は、お声掛けください。

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