a ) 日本の実践知
アジャイル開発はアメリカで提唱されたXP(eXtreme Programing)、スクラムを中心に実践されている。スクラムはリーンをソフトウェアに体現している。
b ) リーン
1984年日米貿易摩擦により現在と同様に「アメリカで売る車はアメリカで生産しろ」の要請によりゼネラルモータース(GM)とトヨタ自動車が合弁で生産を始めた。GMが工場と労働者を提供し、トヨタ自動車が生産した。数年後、その合弁企業の工場はどのGMの工場をも凌駕する生産性と品質を実現した。GMは、労働者ではなく、経営(マネジメント)で負けたと気づいた。そこで、産学共同でトヨタ生産方式(TPS)を分析し、全産業に適用できるリーン(考え方)を確立した。シリコンバレーの起業家たちにもリーン・スタートアップとして実践され、TPSの提唱者、大野耐一氏を皆が知っている。
c ) スクラム スクラムガイドの著者であるジェフ・サザーランドは、チームで活動すると生産性が飛躍的に向上することを実証した。チームについての多数の論文を調査し、「The New New Product Development Games(新たな新製品開発手法)」に驚いた。1980年代Japan as No.1の新製品をチーム一丸となって開発する日本の実践知を「スクラム」と野中郁次郎先生らが命名していた。
2) Value Drive (Lean Agile Mindset)
トヨタ生産方式、リーンではムダを取る。ムダとは、価値に繋がらない不必要な作業やモノである。価値を基準としてムダを判断する。直観的に感じるムダを取った時点がゴールでなくスタートである。論理的にムダを判断して取り続けていく。アジャイルで要件や仕様を柔軟に変えていく時、価値を基準に判断していく。そのため、プロジェクト開始時にチーム全員で10の質問で構成されるインセプションにより、システム、業務、経営の多様な観点から価値を定義していく。アジャイルは、自動車(ポルシェ)、戦闘機(Saab社)、宇宙開発(SpaceX)などのハードウェアを含む新製品開発の数千名のプロジェクトに適用され、ビジネスを成功に導いている。リーン・アジャイル・マインドをコアバリューとするScaled Agile Framework(SAFe)は200万人に実践されている。
3) DXと組織アジリティ
a ) 実践知の背景にある日本の文化
リーン、スクラムに繋がった実践知の背景に日本の風土・文化がある。これらはインバウンドの観光客が注目することと共通している。その3つの特徴を以下に示す。
自律:職人が利用者の満足を求め絶え間なく改善し続けている。(例:包丁の職人)
協調:周囲をおもてなしできる。(例:誰もぶつからない渋谷のスクランブル交差点)
調和:お祭りで近隣と調和し続け、災害にも対応している。(例:お祭り、居酒屋)
b ) 日本とアメリカの開発フェーズの変遷
「The New New Product Development Games(新たな新製品開発手法)」で以下のように開発フェーズが提示されている。