組織アジリティSIGコーナー
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「Be Agile」

小原 由紀夫 [プロフィール] : 7月号

 DX推進において必須となるアジャイルを多くの企業が導入している。しかし、アジャイル導入において「Why Agile?」、「Be Agile」、「Value Driven」の3つの課題があることを5月号の「アジャイル導入相談会」で示した。今回は、「Be Agile」について開発技法として開発者だけが学べばよいという誤解があるので、その誤解を提示しながら説明する。
  1. 1) アジャイルマニフェスト
    アジャイルの定義は、アジャイルマニフェストであり、4つの価値とその背後にある12の原則から構成されている。

    アジャイルマニフェスト 4つの価値と12の原則
    「個人との対話」は原則6「コミュニケーションは直接対話で」に、
    「動くソフトウェア」は原則7「進捗も品質も現物で」に、
    「顧客との協調」は原則1「顧客の満足を求め続ける」に、
    「変化への対応」は原則2「要求の本質を見抜き、変更を前向きに」に、
    直接対応しているなど、12の原則の全てを遵守することがアジャイル適用に必須である。アジャイルマニフェストはソフトウェア開発に限定するものではなく、投資判断を含むビジネスを俊敏にするためのマインドセット(考え方)である。(参考「Why Agile?」@6月号)
  2. 2) Not “Do Agile”
    チーム活動が不得意な欧米の人でもチームとして活動できる方法がスクラムガイドなどで体系化されている。しかし、その方法を踏襲するだけの“Do Agile”(アジャイルをする)では不十分であり、アジャイルマインドセットで行動できる”Be Agile”(アジャイルになる)が必須である。事例を提示して説明していく。
  3. a) 正しく追い込む仕組み
     まず、投資判断に貢献する活動なので、経営層は指示するだけでなく、評価基準を示して活動を見届ける。特に、立上げ時は経営層にとっての学びが多いので、1ケ月後、3ケ月後にチームからの学びの発信から組織の課題を学び、経営層の対策を立案、推進する。
     次に、実際に困っている問題とビジネス上の解決の必要性を経営層から提示する。
     最後に、問題解決に必要となる多様なスキルを持つメンバーを、IT、業務や品質などの部門を越えてアサインする。これにより自己組織化の必要条件を満たす。
  4. b) 不満・混乱の受け留めと原則の順守支援
     アジャイルではこれまでの経験と異なることをすることや会社としてのスキルが十分でないことなどから、たくさんの不満や混乱が発生する。それらを当然のこととして受け止め、不満や混乱を成長の好機と前向きに捉えて原則を実践できる支援が必要である。
  5. c) “待つ!”(大野の円:Ohno circle)
     不満や混乱は成長の好機なので、周囲から指示をしてはいけない。周囲は、チームが自分たちで問題を発見して実践することを尊重して“待つ”を行い、ふりかえりでチームの成長を確認する。チームの成長を通じて、眠っていた日本人メンバーの「自律」・「協調」・「調和」スキルが解放され、自己組織化に繋がる。
  6. 3) アジャイル導入失敗事例
    筆者が見てきたアジャイル導入に失敗する例を紹介する。
  7. a) 無知・無資格実践
     研修やコーチもなく、本やネット情報で実践すると、4つの価値と12の原則をできることだけやる「つまみ食い」をしてしまうので、過剰なムダな失敗をする。まるで、教本片手にオフロードで自動車を運転するようなものなので、成長に時間が掛かり過ぎ、「アジャイルが悪い」という評価に至る。アジャイルは経験主義(やってみないとわからない)ので、“わかる”、“できる”、“コーチできる”を分ける必要がある。
  8. b) 不適切課題
     簡単な課題の方が良いと考えて、見通しの良い課題にアジャイルを適用する。ウォーターフォールでの予定結果を下回るので、「アジャイルが悪い」という評価に至る。見通しの良い課題はアジャイルよりウォーターフォールが適している。ウォーターフォールが不得意な短納期や不確実性の高い要求にアジャイルを適用する必要がある。
  9. c) 手段の目的化
     本来の目的の価値実現でなく、アジャイル適用が目的となってしまい、アジャイルの方法だけを優先させてしまう。価値実現への発見を通じてチームを成長させていく必要がある。

経営層、PMがアジャイルを正しく理解することが必須のため、PMAJでは日本人による「アジャイルへの道案内」「ITサービスのためのアジャイル」を発刊している。経営者・PM向け研修の事前課題として、アジャイルがソフトウェア開発だかでなく、ビジネスを焦点にしていることを多くの経営者とPMが理解できている。

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