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「Why Agile」

組織アジリティSIG 小原 由紀夫 [プロフィール] : 6月号

 DX推進において必須となるアジャイルを多くの企業が導入している。しかし、アジャイル導入において「Why Agile?」、「Be Agile」、「Value Driven」の3つの課題があることを5月号の「アジャイル導入相談会」で示した。今回は、「Why Agile?」について日本では開発技法として開発者だけが学べばよいと誤解されている場合があるので、その誤解を提示しながら説明する。
1) アジャイル導入の要求者
 日本企業においてアジャイルを導入する企業は増加しているが、全プロジェクトにアジャイルを適用している企業はまだ少数であると認識している。グローバルにおけるアジャイル適用調査をしてる15th State of Agile Report では、全プロジェクトにアジャイルを適用している企業が18%あり、過半数のプロジェクトでアジャイルを適用している企業が過半数を占め、日本と大きく異なっている。その要因はアジャイル導入の要求者が経営者であるが、日本では開発者であることが考えられる。これまでの1年で企画・開発してリリース後3年で利益を得るような投資モデルがVUCA環境で成り立たなくなったため、経営者が投資判断に悩んでいた。3ケ月単位で企画~構築~評価のサイクルを実現できるアジャイルが経営者の悩みに応えることができた。グローバルでは過半数のプロジェクトで経営者が投資判断に悩むため、導入が促進された。日本企業においても外国人CIOが「なぜ、アジャイルを適用しないのか?」とウォーターフォールでの決裁を却下する事例を聞くことがある。DX白書2023 (P140)によると、顧客向け取り組みについてアメリカでは「毎週」「毎月」が5割に対して日本は1割であり、7割程度の企業が「評価対象外」である。VUCA環境における顧客への価値提供など対応スピードが求められる取り組みについて適切な成果評価の頻度設定と見直しが必要になる。これを踏まえて、「Why Agile?」に対して企業としてビジネス視点で明確な認識を統一していくことがアャイル導入の成功に必要となる。
2) コストと期間を固定
 顧客への価値提供など対応スピードが求められるため、最初にリリース時期を設定する。つまり、期間が固定化され、期間に応じてコストも固定化される。そして、要件を可変にしてVUCA環境による変化に対応する。最大の結果を得られるよう努力するベストエフォートで要件を実現していく。従来は要件を固定として期間とコストを見積ってコミットしていたので、天地がひっくり返るような真逆の発想になる。要件を可変としているので、従来のガントチャートで管理しても繰り返し期間(イテレーションやスプリントと呼ばれる)は時間経過で終了するため要件の達成度合いに関わらず常に「予定どおり」となる。アジャイルでは可変とする要件の変化を見える化するためにバーンダウンチャートが利用される。チームの生産性は要求の消化スピードであるベロシティと利用者からのフィードバックによる評価とふりかえりによる学びを繰り返すことにより成長が期待できる。

コストと期間を固定

3) 全社レベルでのリスキリング
投資判断して評価するサイクルの見直しおよび、天地がひっくり返るような考え方を企業全体で実践していくために経営者、ミドル、現場に浸透させていく必要がある。実際、日本企業の社長を含めた経営層にリスリキングすることにより、経営層が「DX時代を生き抜くために全て職種、職責へ展開できるアジャイルマインドへの変革が必須」と共通理解を得られた事例がある。組織は挑戦を促し失敗から継続的に学ぶマインドセットをアジャイル・アプローチから学び、育成すべきである。

経営層、PMがアジャイルを正しく理解することが必須のため、PMAJでは日本人による「アジャイルへの道案内」「ITサービスのためのアジャイル」を発刊している。
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