組織アジリティSIGコーナー
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「アジャイル導入相談会」

組織アジリティSIG 小原 由紀夫 [プロフィール] : 5月号

 DX推進において必須となるアジャイルを多くの企業が導入している。
 PMAJ組織アジリティSIGメンバーの製造業においてもアジャイルをソフトウェア業務に導入しているが、多くの悩みがあった。その企業のプロジェクトマネジャーから質問という形で相談する「アジャイル導入相談会」を開催した。最初に気づいたことは、事前に入手した質問のうちアジャイル導入に関する質問は3割であり、残りの7割はプロジェクトマネジメントとしての課題だということであった。例えば、社内のマネジメントシステムやプロセスが属人化している、部門間で協力が得られない、顧客の要求仕様変更により開発スケジュールの延伸や手戻りが発生するなどであり、これらはウォーターフォール適用でも課題となる。そこで、事前に入手した質問を3つに分類して、日本アジャイルの状況と日本の文化を考慮して回答した。
(1)Why Agile?
 1つ目は、「Why Agile?」、つまり、なぜ、アジャイルを導入するかの理由を明確にした。
 グローバルでは過半数のプロジェクトでアジャイルを適用している企業が半数以上を占める。その理由は経営者の悩みにアジャイルが応えたためである。
 これまでの投資モデルは企画・開発に1年を費やして製品リリース後3年で利益を得るものであった。これは、投資時点に企画・開発と利益を得る期間の4年間のビジネスモデルを見通せることができたため成り立っていた。しかし、VUCA環境では4年間を見通して投資をすることが困難となり、経営者が悩んでいた。アジャイルでは、短期間の限られた投資で最善の成果により検証することを繰り返すことで経営者の悩みに応えることができたため、経営者がアジャイル適用を推進しる。そのため、従来のように要件(仕様)を固定としてコストと期間をコミットする発想から、マーケットが要求するまでの期間と投資可能額を固定として最善の要件を段階的に決めていく発想に変えていくことが必須である。
 この天地がひっくり返るような発想を経営者、ミドル、現場に浸透させていく必要がある。
(2)Be Agile
 2つ目は、「Be Agile」、つまり、アジャイルのやり方を導入するのではなく、アジャイル(俊敏)になる考え方を実践することが必要である。
 アジャイルは2001年にアメリカで発信されたアジャイルマニュフェストから始まる。これには日本の実践知が活かされている。1つは、トヨタ生産方式からその考え方をまとめたリーンであり、全産業で適用されている。
 もう一つがスクラムである。スクラムは、野中郁次郎氏と竹内高広氏がJapan As No.1の新製品開発を研究した「The New New Product Development Game」の中で命名された。NASAモデルとして工程毎の専門家が文書で引き継いでいくのではなく、工程完了を待たずに次工程を開始し、問題が発生すれば、全員が一丸となって解決していくことが新たな新製品開発に有効であり、その姿勢がラグビーのスクラムに似ているため、スクラムと命名した。この姿勢が日本の多くの企業で実践されてきた背景に、日本の文化である自律、協調、調和がある。自律は職人として恥ずかしくない技術を長年に亙り研鑽し続ける姿勢となり、高品質に繋がる。協調は相互に配慮しておもてなしでき、阿吽の呼吸に繋がる。調和はお祭りや飲み会のように仕事以外の1つのことに皆で取り組み、危機対応に繋がる。自律はスパっと切れる包丁、協調は渋谷のスクランブル交差点、調和は狭小でつまみを共有し心を解放するIZAKAYA(調和)のように近年インバウンドで注目されるものにも表れており、日本の強みである。
(3)Value Driven
 最後に、「Value Driven」、価値指向である。
 要件や仕様は変化していくが、変化しない軸となる価値を全員で合意する。全員が目指すべき価値を合意するために、10の質問に答えるインセプションデッキを適用するとよい。最初時点で完成させるのではなく、発見に基づき全員で合意して変化させる。
 価値指向とはソフトウェアだけはない。ポルシェ社はハードを含め2週間サイクルで開発を進めている。Saab社は戦闘機を4,000名で3週間毎に実際に空を飛ばしてフィードバックして開発している。10年前には適用は不可能と思われていた宇宙開発においてもSPACE Xがアジャイルを適用して、NASAと活躍している。*6
 日本では、無知・無資格の人だけでわかったつもりでの実践により過剰なムダな失敗でアジャイルはダメと判断したり、見通し可能なスコープにアジャイルを適用して効果がないと判断したり、目的が価値指向からアジャイル実践にすり替わってしまって効果がないと判断するケースが散見される。

 これらの回答は他の企業の方にも参考となると考えるので、活用願いたい。また、アジャイルを正しく理解することが必須のため、PMAJでは日本人による「アジャイルへ開発への道案内」「ITサービスのためのアジャイル」を発刊している。6/6開催の特別企画講座「アジャイル開発への道案内」に参加いただき、理解を深めてはいかがでしょうか?

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