2025年7月 第305回例会レポート
庄崎 肇 : 9月号
開催日: |
2025年7月25日(金) |
テーマ: |
「システム開発・運用保守の生産性・品質向上のためのAI活用」 |
講 師: |
守屋靖裕 氏 (アクセンチュア株式会社インダストリーX本部、 プリンシパルダイレクター)
金子尚由 氏 (アクセンチュア株式会社インダストリーX本部) |
はじめに
システム開発および保守・運用におけるAI技術の最前線に関する講演会を開催しました。両講演者から、AIを活用してシステム開発現場の生産性と品質を向上させる方法について、豊富な実例を交えて紹介されました。さらに、AIの進化が業務に与える影響、現場で直面する課題とその解決策、導入に伴うリスク、今後の技術者に求められるスキルや人材育成の方向性など、幅広いテーマが取り上げられました。オンライン参加者を含む40名以上が本会に参加し、インタラクティブな議論が展開されるなど、熱気に満ちた講演となりました。
講演概要
● AIの進化と業務への影響
近年、生成AIの急速な進化により、業務の自動化と高度化が著しく進展しています。特に、非構造データの解釈やマルチモーダル出力が可能となったことで、従来は人間が担っていた知的労働の多くがAIによって代替可能となってきました。また、エージェントAIの導入により、企業全体の業務を横断的に最適化することが可能となり、業務効率の向上とコスト削減が期待されています。さらには、そのエージェントAIのコンソーシアムからからあぶれた企業は死活問題になりかねず、その現実が数年内にやってくるとの怖い現実感を示されました。
● システム開発・運用保守における課題と改善
従来のシステム開発では、工程間の漏れや不整合が品質低下の大きな要因となっていました。要件定義の曖昧さや設計・実装のばらつきが、プロジェクトの進行を妨げることも少なくありません。こうした課題に対し、AIは革命をもたらしました。AIを活用することで、詳細設計やコード、テストの自動生成が可能となり、KPIの自動集計や影響分析、進捗報告の自動化まで実現されます。これにより、設計・実装・テストの整合性が飛躍的に向上し、品質改善への期待が高まります。
しかし、AIがどれほど進化しても、プロジェクト成功の鍵を握るのは「要件定義の精密性」であり、お客様(オーナー側企業)との信頼関係と協働性が、このAI時代においても変わらず重要であるという点に、参加者が皆、深く納得しました。
● AI活用時代のリスク
AIを活用する時代には、成果物の品質評価が困難になることがあります。進捗が順調に見えても、実際には生成物の理解不足による保守リスクが潜在している可能性があります。また、AIの活用により人間のスキルが陳腐化し、説明責任の欠如や異常系テストの不足といったリスクも存在します。これらのリスクを回避するためには、AIの活用に関するルール整備と人間の役割の明確化が重要です。
● 整備すべき項目と求められるスキル
AIを効果的に活用するためには、要件定義から運用まで、各工程におけるルール整備が不可欠です。AIと人間の役割分担を明確にし、プロジェクトリーダーや開発者は、①要件定義力、②レビュー力、③リスク検出力、そして④プロンプト設計力といった新たなスキルを磨くことが求められます。講演者の守屋氏は、AI以前の時代から、お客様の声――ときに厳しい苦情――を真摯に受け止め、それを改善点へと昇華させ、最適なプログラムを提供してきた経験豊富な世代です。その眼力は、AIと協働する未来においても揺るぎない基盤となり、プロジェクトの成功を支える力となっています。「この知見を、“AI世代”にしっかりと伝えていかなければならない」――講演の締めくくりに語られたこの言葉には、人知を超えた継承の重みが込められていました。
● 活用事例紹介
実際の事例として、レガシーコードの解析や再設計支援が紹介されました。AIを活用することで、既存システムの構造を理解し、改善点を抽出することが可能となります。COBOLは現在でも基幹システムや金融機関などで広く利用されていますが、開発での利用は少なく、COBOLを読める技術者も少なくなり、不使用コードブロックの改修などが困難になっているそうです。これをAIで解析し、要件定義の精度向上により、致命的な失敗を未然に防ぐことができた事例も報告されました。
筆者感想
AI技術の進化が、システム開発や運用保守の現場にどのような変革をもたらすのか――その最前線を垣間見ることができる、魅力的な講演でした。生成AIやエージェントAIの活用によって、業務の自動化だけでなく、企業全体の最適化が可能になるという展望は、まさに未来の働き方を示唆しており、「では人は何をすべきなのか?」という問いを強く突きつけられたように感じました。一方で、AI活用に伴うリスクや、人間の役割の再定義についても丁寧に触れられており、これからのIT技術者がどのようなスキルを磨くべきか、その方向性が明確になった点も印象的でした。AIと人間が協働する時代において、何を学び、どう備えるべきか――その本質を深く考えさせられる講演でした。
以上
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