『第304回例会』報告
木村 勝 : 8月号
【データ】
開催日: |
2025年6月27日(金) |
テーマ: |
「 挑戦マインドのつくり方 」
~1on1でも使える4か月の取り組み事例~ |
講師: |
川野 いずみ ( かわの いずみ ) 氏
TIS株式会社 品質革新本部 品質戦略推進室 エキスパート |
◆ はじめに
皆さんは、部下やチームが「挑戦」する姿をどれだけ引き出せているでしょうか?
マネジメントとしての役割は、業務を遂行するだけでなく、組織や人材の可能性を広げることにあります。変化のスピードが加速する今、現状維持ではなく、挑戦を促すマインドセットが、組織の未来を左右します。
挑戦を恐れず、むしろそれを楽しむ文化をつくることが不可欠です。
そこで、今回の例会では、TIS株式会社、品質革新本部、品質戦略推進室、エキスパートの川野いずみ氏を講師にお招きし、「挑戦マインドのつくり方」と題し、体験談や事例などを交えながらご説明いただきました。
以下、要点を抜粋して紹介します。
◆ 講演内容
1. 心理的安全性とは
チームの誰もが「自分の意見や気持ちを安心して言える」「存在を認められている」と感じられる状態のこと。
日本の組織では、4つの因子があるとき、心理的安全性が感じられる。
- 話しやすさ:ちょっといまいいですか?
- 助け合い:何かサポートできる?
- 挑戦:まずはやってみよう!
- 新奇歓迎:その視点はなかった
心理的安全な組織・チームは、成果・パフォーマンスが最大化する強いチーム。
単なる「仲良し組織」でもないし、仲が悪い組織でもない。
率直に「言い合える」。
組織・チームが何を大切にしているか、目指しているか?が明確で、ひとり一人に落とし込まれていることも大切。
成功の循環モデル
まず始めに重要なものは「関係の質」
- ① 関係の質:心理的安全をベースに対話し、信頼関係を築く
- ② 思考の質:チームとしての思考の幅が広がり、深度が増す
- ③ 行動の質:一人ひとり自立的に行動し、助け合う
- ④ 結果の質:パフォーマンスが高まり、結果が出始める
- ⑤ 関係の質:チームの自己肯定感が高まり、信頼関係が増す
2. 個人の「マインド」
こんなこと、ありませんか?
怒られそうなので、資料が全部完成してから報告したら、 全部やり直しになった・・
変だと思ったけど上司がそうだと言うから黙っていたら、やっぱり間違っていて、障害が起きた・・
などなど
組織・チームに一定の「心理的安全性」があってもひとり一人が、組織・チームの「大切なこと」「目指したいこと」に対して機能しないマインドを持っていると、全体の成果・パフォーマンスに影響してしまいます!
ひとり一人のマインド
「大切にしたいこと」は何か?そのために、状況次第で変えられないことは受け入れ、柔軟に、今、役に立つことを選択する。
「挑戦」を阻むマインド
怒られそうなので、資料が全部完成してから報告したら、 全部やり直しになった・・
変だと思ったけど上司がそうだと言うから黙っていたら、やっぱり間違っていて、障害が起きた・・
などなど
組織・チームの心理的安全性に加え、ひとり一人のマインドに柔軟性があるかないかで成果は大違い!
何を目指すかが明確であること、は大前提!
リーダーだけでなく全員が当事者!
3. 事例紹介:強み発見ワークショップ
以下の仮説に基づきワークショップを構築。
行動(挑戦)できない一因に、自信のなさ(自己効力感の低さ)がある。
自分の「強み」がわかり、自己効力感が向上し、ある程度の自信ができれば、自分にもできるかも、と考え、やりたいこと、を考えて挑戦できるようになる。
意図して「自分の強みに気づく」時間を創る取り組みです。
- 人生すごろく金の糸(子供時代)とKirari☆Carta(きらりカルタ)を利用し、お題に沿った話をする。1グループ3・4名。
- 質問カードから質問することで、気づきを深める。
- 自身が話したことや他者の話を通しての気づきなどを全回を通して共通の振り返りシートに整理する。
- 他者の話を聞いて、質問カードから選択して質問する。
- すごいな!ステキだな!自分と違うな!と思うことを互いにフィードバックし合う。
- 例えば、どうして?
- 具体的には?
- そう思ったきっかけは?
- そのことから学んだことや気づいたことは?
- その時どう感じたの?
- 他には?
- 任意の質問は、「事柄」についての質問になりやすい。
この用意された質問は、「価値観」「信念」「感情」を振り返るきっかけになり、自己理解が深まるように工夫されている。
- 個人でなくグループワークとして実施する意図
他者とのコミュニケーションを通じて理解を深める。
- 自分では当たり前になっていて、気づいていないこと
- 現在の仕事では発揮する機会のないこと
- ① 価値観、大切にしたいこと
- ② 好き、苦じゃない行動(CAN)
- ③ 仕事とのつながり
- ④ ストレングスファインダーTOP5
- ⑤ 強みを活かして、3年以内にやってみたいこと(WILL)
- ⑥ 1カ月以内にやってみること
- ① 強みについて答えることができるについては、62%→96%
- ② WILL(成し遂げたいこと)では、答えることができるが58%→92%
- ③ WILL(価値観)では、85%→100%となった。
- ④ 強みや個性を発揮できているについては、15%→20%
- ⑤ 成長を感じているについては、23%→32%
- 受動的に仕事を捉えていたが、自分の強みを活かせるキャリアや業務を考えるようになり、モチベーションが向上した。
- 当たり前にこなしていた業務が実は強みを活かせているとわかり、以前より自信をもって取り組めるようになった。
- 価値観を明確にすることで、日常の会話や物事を判断する際に、意識するようになった。
- 置かれている業務とのWILLの重なりが見え、自身の強みを活かして部門計画に貢献する目標を具体化し、上司と合意できた。
取り組みを通じて、潜在的に重要と考えていることや、自分の本質的な想いに
気付く機会になっている。
また、自己理解が進むことで、前向きな行動意欲(主体性)が沸き、
業務にも好影響を与えることがイメージできている。
【Aさん】
元々自分に自信がなく、自分のことを話するのは苦手だった。
自分の強みがわかり、自分にも貢献できるのかもと思えた。思えたら、月1回の1on1で上司に質問したり、自分の成長のためにこうしたい、と言えるようになった!
周りにも、こう思う、と発信するのが恥ずかしくなくなり、発言できている。
【Bさん】
分析する、は、元々好きだったが、人並みと思っていた。
でも、強み発見プログラムで、強みだと認識でき、偉い人との打ち合わせで、意見が相違しても、これまでのように簡単にひかず、考えを伝え、案を提示できるようになった。
上司にも強みを認識してもらうことができたため、未経験の仕事の機会ももらえている。
【Cさん】
自分は人には興味ないと思っていたが、ワークショップの他者からのフィードバックで、実は人に興味があるのかもと気づいた。
分析好き、は元々自覚しており、人がなぜそう考えるのか、を知りたいと思うようになった。
結果、メンバーの話をきくとき、まずしっかりきこうと、まずは自分は黙る。を実践しており、自分でもマイルドになったと感じている。
※横でこの話をきいていたもう1人の参加者さんが、「だからなんですね!最近打ち合わせで静かだと思っていたんです!」と発言。(するくらい言動に違いが生まれている)
- 関わり方のポイントは「傾聴」「ポジティブフィードバック」 。
- ✫ その人はそう感じているのだから、いいも悪いもない。
- ✫ 意図を持って、相手に伝える。
- ✫ ちょっとやってみてもいい「かも」、と挑戦マインドが生まれる。
- 上司とも共有することで、新たな挑戦の機会をつくることができる!
4. 事例紹介:振り返り会
経験を学びに変えることで、成長のサイクルを生む。のモデルに基づき実施。
- ① 試行
- ② 具体的経験をする
- ③ 内省
- ④ 教訓を引き出す
意図して「振り返り」を行う時間を創る取り組みです。
自分が大切にしたいこと、本当はどうだとうれしいのか、を言語化。
半年後、どうなっていたいかを具体的に。
その実現のための具体的な行動計画(挑戦)をつくる。
理想の姿の実現のための行動計画(挑戦)について、
毎月1時間、振り返る。(クロス1on1)
ありたい姿(理想論でOK)
半年後に目指す姿
意図的に「振り返り」の時間を持つことで、多忙な中でも、緩やかな強制力を持って自己承認、挑戦を考えることに
振り返りシート
- 4カ月で実現したいこと
- 大切にしたい軸
- Y:やったこと
- W:わかったこと
- T:つぎやること
事前
自分で振り返ってくる。(シートに記入)
当日
シートに基づき共有し、メンターがフィードバックしていく。
(参考:グループで実施の場合)
- ① 1人が発表
- ② 残りの人が「感じたこと」をフィードバック …を繰り返す。
ファシリテータは「進行」するだけ。先生役ではない。
参加者同士で共創が生まれることがねらい。
ファシリテータを参加者が交代で実施できることを目指す。
振り返り会への期待(のべ10名、各5回程度の回答)
改めて時間を取り、自分が前進するための時間として利用されようとしている。
- 自分でどんなに客観的に考えても 気づかない視点や、考えられないことがあるので、 他者の視点が大事であることを再認識した。
- 業務多忙の結果、自分が想定している以上に視野が狭くなっていたこと。
- 不安を感じる理由を言葉に出すことではっきりと認識できた。
- 普段の業務を一時的に中断して、直近の振り返りや今後の目標を考える事は、頭の整理ができて良かった。
- 「前回から今回までの振り返り」をする機会になり、成長を感じることができる。
第三者との対話により、潜在的に重要と考えていることや、自分の本質的な想いに気付く機会になっている。
また、対話により、頭の中が整理されることで、前向きな行動意欲(主体性)が沸き、業務の生産性向上にも好影響を与えることがイメージできている。
あるが87%
セッションが挑戦マインドを育み、具体的な行動をイメージできる機会となっている。
アンケートにおける「8.セッションの関わりでよかったこと(あれば・発言、問いかけ、関わる姿勢 等)」
- 関わり方のポイントは「傾聴」と「ポジティブフィードバック」。
その人はそう感じているのだから、いいも悪いもない。
- 安心できると、 ちょっとやってみてもいい「かも」、と挑戦マインドが生まれる。
- 「ちょっと伝えてみる・きいてみる」、は人と組織を前進させる、小さくて大きな挑戦!
5. 体験談
娘の受験と一緒に勉強した「キャリアコンサルタント」の学習の中で、
自己探究。
長年…
「システム」を考えるのは全然楽しくなかったけれど、
メンバーの力をいかに引き出すか、みんなで楽をするか、チームの仕事の仕方の工夫を考えるのは楽しかった。
元チームメンバー達がメンタル不調でお休みしていくのが悲しく、悔しかった。
どうにかしたくて、毎晩深夜帰りの中、メンタルヘルス検定Ⅰ種にチャレンジした。
自分は「人が幸せに働く」ことに、強い想いがあるんだ!!
TISインテックグループには、経営理念がある。
ずいぶん昔。
基本理念浸透研修に出席した。
数年後にようやく、基本理念に共感。
自分の想いが見えていたこの時は、
基本理念浸透研修になんだかわくわくした!
「企業は幸せ追求の社会システムとして」だって!
基本理念、いいこと言ってる!!
自分の「ありたい姿」がわかるようになったから、
会社の「ありたい姿」である基本理念を身近に感じられるようになった。
重なりを感じて、
働く幸せを感じられるようになった!!!
それを増やせるよう、新規施策を色々企画し、
挑戦し続けている。
6. まとめ
組織のミッションに向かって、
ひとり一人が「強み」×「自分の想い」に基づき、挑戦を重ねていく。
◆ 講演を聞き終えて
今回の講演では、講師の川野いずみ氏の体験談、実践事例をもとにした貴重なヒントをいただけました。
気軽に取り組めることと、その効果をお話いただいたことで、自身に置き換えた時のイメージが湧きました。
文化の醸成には時間が掛かるとは思いますが、まずは気軽に取り組めることから始めて、いつの日か個人、チーム、組織として挑戦し続けられるようになってきたいと思います。
例会を通じて、貴重なお話しをしていただけたことに、心より感謝を申し上げます。
当日参加された皆さま、何かヒントになることはありましたか。
例会では、今後もプログラムマネジャーや、プロジェクトマネージャーにとって有益な情報を提供してまいります。
引き続きご期待ください。
尚、我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集していますので、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
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